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世界で戦う日本企業:安川電機の強みとは?ACサーボ世界シェアNo.1からフィジカルAIへ進める理由

世界で戦う日本企業シリーズ。

今回取り上げるのは、福岡県北九州市に本社を置く安川電機です。

安川電機と聞くと、工場で動く青い産業用ロボット「MOTOMAN」を思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、安川電機の本当の強さはロボットだけではありません。

サーボモータ。

インバータ。

コントローラ。

産業用ロボット。

工場の生産システム。

そして現在は、生成AIとロボットを組み合わせたフィジカルAI。

安川電機は、100年以上にわたり、

「機械をどう正確に、効率よく動かすか」

を追い続けてきた会社です。

主力のACサーボモータはグローバルシェアNo.1。

インバータと産業用ロボットも世界トップクラスのシェアを持っています。ACサーボモータの累計出荷台数は2,000万台を超えています。

2026年度第1四半期の連結売上収益は1,390億円。

前年同期から10.6%増えました。

海外売上高は1,051億円で、全体の約76%を占めています。米州、中国、中国を除くアジアで売上が大きく伸びました。

安川電機の強さを一言で表すなら、

ロボットを作る会社ではなく、「世界の機械を思いどおりに動かす技術」を100年以上磨いてきた会社

だと思います。

安川電機とは何の会社なのか

安川電機の事業は、大きく3つに分かれています。

モーションコントロール。

ロボット。

システムエンジニアリング。

モーションコントロールには、ACサーボモータ、サーボアンプ、インバータ、コントローラなどがあります。

これらは、工作機械、半導体製造装置、電子部品製造装置、包装機械、空調設備、ポンプなどの内部で機械を動かします。

ロボット事業では、溶接、搬送、塗装、組み立て、半導体ウェハー搬送、人との協働など、さまざまな産業用ロボットを展開しています。

システムエンジニアリングでは、鉄鋼、上下水道、港湾クレーンなど、より大きな設備全体を制御します。

つまり安川電機は、

モータを作る。

モータの動きを制御する。

そのモータを使ってロボットを作る。

複数の機械を組み合わせて生産システムを作る。

さらにデータとAIで工場全体を最適化する。

という形で、徐々に提供範囲を広げてきました。

サーボモータとは何なのか

サーボモータは、指示された位置、速度、力へ正確に合わせて動くモータです。

普通のモータであれば、

「回る」

ことが重要です。

一方、サーボモータでは、

何度回転したか。

どの位置にいるか。

どの速度で動いているか。

どれほどの力がかかっているか。

を検知しながら、動きを細かく調整します。

たとえば、半導体製造装置では非常に小さな距離を正確に移動する必要があります。

工作機械では、金属を決められた位置まで動かし、同じ場所を何度加工しても精度を揃えなければなりません。

産業用ロボットでは、複数の関節を同時に動かしながら、目的の場所へ正確に手先を運ぶ必要があります。安川電機の現在のΣ-Xシリーズでは、角度を360度の約6,700万分の1まで検出できる26bitエンコーダを採用しています。

顧客が欲しいのは、モータそのものではありません。

機械を速くしたい。

加工精度を上げたい。

不良品を減らしたい。

生産量を増やしたい。

消費電力を減らしたい。

安川電機は、モータではなく、

「機械を思いどおりに動かせる能力」

を売っています。

石炭産業向けのモータメーカーとして始まった

安川電機は1915年、合資会社安川電機製作所として創立されました。

創業当初は、石炭鉱業向けの産業用電動機や制御装置を作っていました。

最初から順調だったわけではありません。

炭坑用の電気機器を受注生産していた時代は赤字が続きました。

転機となったのが1932年です。

製造する商品を、

「電動機とその制御装置」

へ絞りました。

何でも作るのをやめ、自社が強くなれる領域へ集中したことで、事業が黒字化していきました。

この決断は、現在の安川電機にもつながっています。

100年以上経った現在も、会社の中心にあるのは、

モータ。

制御。

機械を動かす技術。

です。

市場は変わっても、技術の軸は大きく変わっていません。

安川電機はなぜ世界で強いのか

安川電機が、ACサーボモータで世界シェアNo.1になり、産業用ロボットでも世界トップクラスの地位を築けた理由は、一つの製品だけでは説明できません。

大きく6つの強みがあると考えられます。

1.モータと「制御」をセットで磨いた

安川電機が創業時から重視してきたのは、モータだけではありません。

モータをどう動かすかという制御技術です。

1958年には、現在のサーボモータの原型となる「ミナーシャモータ」を世界で初めて製品化しました。

従来に比べて応答性能を大きく高めたモータでした。

その後、

サーボアンプ。

エンコーダ。

コントローラ。

ソフトウェア。

も自社で開発します。

モータだけ性能が高くても、指示する制御装置が遅ければ機械は正確に動きません。

センサーの精度が低ければ、現在位置も正しく分かりません。

安川電機は、

動く部分。

指示する部分。

状態を検知する部分。

を一体で開発しました。

だからこそ、部品単体ではなく機械全体の性能を高められます。

2.「メカトロニクス」という市場そのものを作った

現在では当たり前に使われる「メカトロニクス」という言葉。

実は、安川電機から生まれました。

1969年、安川電機の技術者が、

Mechanism。

Electronics。

を組み合わせて「Mechatronics」という言葉を作り、商標登録を出願しました。

1972年に登録されましたが、その後、社会へ広く普及させるため商標権を開放し、現在では世界共通語になっています。

これは単なるネーミングの話ではありません。

機械だけを作る。

電気だけを作る。

ではなく、

機械と電子制御を一体で設計する

という新しい考え方を示した言葉でした。

既存の製品市場で競合より少し良い商品を作るのではなく、

新しい考え方そのものを市場へ提示する。

安川電機は、商品カテゴリーだけでなく、産業の概念まで作りました。

3.ロボットの「筋肉」を自社で持っている

安川電機は1977年、日本初となる全電気式の多関節産業用ロボット「MOTOMAN-L10」を発売しました。

それまで主流だった油圧式に対し、電気モータで関節を動かす方式です。

現在までにMOTOMANシリーズは世界へ50万台以上出荷されています。

重要なのは、安川電機がロボット本体だけを作っているわけではないことです。

ロボットの関節を動かす主要部品であるサーボモータも自社で作っています。

さらに、

モータを制御する技術。

ロボットの構造。

動作ソフトウェア。

溶接や搬送などの用途別技術。

まで持っています。

ロボットメーカーが外部からモータを購入する場合、

モータに合わせてロボットを設計する必要があります。

安川電機は、自社のロボットに合わせてサーボモータも最適化できます。

ロボット本体と、その「筋肉」を両方持っていることが強みです。

4.顧客の「機械をどう作るか」まで入り込んだ

サーボモータは、完成した機械へ後から付ければよい商品ではありません。

機械を設計する段階で、

どれほどの速度が必要か。

どの程度の精度が必要か。

どれほどの重量を動かすか。

どのような動作を繰り返すか。

を決めます。

安川電機は、顧客の機械を理解し、その動きを実現するための制御方法まで提案してきました。

1960年代から、特定の機械に合わせた制御ソフトを開発しながら、サーボモータの市場を開拓。

後に現在では一般的となったモーションコントローラという製品領域も作りました。

顧客が、

「このモータを買いたい」

と思ってから営業するのではありません。

「この機械をどう動かせばよいか」

という段階へ入っています。

顧客の設計へ深く入り込めば、価格だけで簡単に仕入れ先を変更されにくくなります。

5.海外へ売るだけではなく、海外で作る体制を築いた

2026年度第1四半期の安川電機の売上収益は1,390億円。

そのうち海外売上は1,051億円で、約76%です。

米州は前年同期比27.8%増、中国は21.8%増、中国を除くアジアも17.9%増加しました。

世界で事業を拡大するためには、日本で作った商品を輸出するだけでは十分ではありません。

顧客企業も世界中に工場を持っています。

日本で使っているロボットやサーボモータを、

米国でも使いたい。

中国でも使いたい。

欧州でも使いたい。

そのとき必要になるのは、

現地で購入できる。

現地で技術相談できる。

故障時に対応できる。

部品を供給できる。

現地で生産できる。

という体制です。

安川電機は海外で販売、生産、サービス体制を構築してきました。

2026年7月には、欧州のロボット物流拠点を新設・集約し、欧州地域の供給効率向上も進めています。

高い世界シェアを支えているのは、製品性能だけではありません。

世界中で同じ商品とサービスを提供できる仕組みです。

6.「自動で動く」から「自分で考えて動く」へ進んでいる

現在、安川電機が次の市場として狙っているのがフィジカルAIです。

従来の産業用ロボットでは、

A地点から部品を取る。

B地点へ置く。

同じ動作を繰り返す。

といった作業を、事前にプログラムします。

しかし現実の世界では、

部品の位置が毎回違う。

形が変わる。

障害物がある。

人が近くにいる。

予想外の失敗が起きる。

といった変化があります。

こうした環境では、すべての動きを事前にプログラムすることが難しくなります。

そこで安川電機が開発しているのがAIロボット「MOTOMAN NEXT」です。

2026年7月にはGoogle DeepMindの生成AI「Gemini Robotics ER 1.6」と連携し、人が「この部品を仕分けて」と大まかに指示するだけで、ロボット自身が状況を認識し、作業手順と動作経路を考えて実行するシステムを発表しました。

ロボットは、

見る。

考える。

動作経路を作る。

物に触れた感覚を確認する。

失敗した場合は自分でやり直す。

ところまで進み始めています。

ソフトバンクとも、GPUクラウドを活用したフィジカルAIによる柔軟な物体ハンドリングを実証しています。

AI時代に安川電機が有利な理由

生成AIでは、

頭脳。

が注目されます。

しかしフィジカルAIでは、頭脳だけでは足りません。

AIが、

「この箱を持ち上げる」

と判断しても、

正確な場所へ手を伸ばす。

適切な力でつかむ。

周囲へぶつからず運ぶ。

落とさず目的地へ置く。

ことができなければ、現実世界では使えません。

つまり、

AIの判断を現実の動きへ変える「身体」

が必要です。

安川電機は100年以上、その身体を動かす技術を作ってきました。

サーボモータ。

インバータ。

ロボット。

センサー。

モーション制御。

これらは、フィジカルAIにとって重要な基盤です。

安川電機自身も、フィジカルAIを「これまで自動化が困難だった領域へ自社製品とAIを融合して広げるもの」と位置付けています。

食品、飲料、物流、建築、医療、農業、そしてヒューマノイドまで、自動化領域を拡大する方針です。

AI企業が「頭脳」を作る。

安川電機が「身体」を作る。

両者が組み合わさることで、フィジカルAI市場が成立します。

データセンター投資も安川電機の成長につながる

AIの成長は、ロボットだけに影響しているわけではありません。

データセンター建設そのものが、安川電機の製品需要を増やしています。

2026年度第1四半期には、

データセンター建屋の空調。

サーバーの液冷・空冷設備。

半導体製造装置。

真空ポンプ。

電子部品を実装するチップマウンター。

サーバーラック筐体の溶接。

など、複数分野で需要が拡大しました。

たとえば、データセンターでは大量の熱が発生します。

冷却用のポンプやファンを効率よく動かすために、安川電機のインバータが使われます。

AI半導体の生産が増えれば、半導体製造装置へ使われるサーボモータや搬送ロボットの需要が増えます。

電子部品需要が増えれば、部品を高速で基板へ載せる製造装置にもサーボモータが必要です。

AI市場へ参入する方法は、AIソフトウェアを作ることだけではありません。

安川電機は、

AI市場が成長すると増える「現実世界の設備」

から需要を取り込んでいます。

2026年度は売上収益5,800億円を計画

安川電機は2026年度について、

売上収益5,800億円。

営業利益600億円。

税引前利益650億円。

親会社株主に帰属する当期利益470億円。

を見込んでいます。

前年度実績の売上収益5,421億円、営業利益473億円から、増収増益を計画しています。

2026年度第1四半期では、モーションコントロール事業の売上収益が前年同期比21.5%増の676億円。

半導体、電子部品、工作機械関連を中心にACサーボが伸びました。

一方、ロボット事業は売上収益567億円と2%増えましたが、基幹システム移行の影響や欧州での構造改革費用によって、営業利益は前年同期の50億円から9億円へ減少しました。

売上が増えれば自動的に利益も増えるわけではありません。

安川電機にとっても、ロボット事業の収益性回復は重要な課題です。

安川電機にも弱点はある

安川電機の製品は、企業の設備投資に使われます。

半導体メーカーが工場投資を減らす。

自動車メーカーが生産設備を延期する。

中国の製造業が減速する。

工作機械の需要が落ちる。

こうした場合、サーボモータやロボットの需要にも影響します。

設備投資関連事業は、景気の波を受けやすい構造です。

また、ロボットでは世界中に強い競合がいます。

ファナック。

ABB。

KUKA。

川崎重工業。

中国のロボットメーカー。

フィジカルAIやヒューマノイド分野が成長すれば、従来の産業ロボットメーカーだけでなく、AI企業やスタートアップとの競争も増える可能性があります。

さらに2026年度第1四半期には、基幹システム移行や欧州の事業構造改革によって利益が圧迫されました。

世界トップクラスの技術を持っていても、

その技術を利益へ変える生産体制。

販売体制。

ソフトウェア。

サービス。

が必要です。

フィジカルAIへの投資を、どこまで実際の売上と利益へ変えられるかが、次の課題になります。

安川電機から中小企業が学べる6つのこと

1.何でもやらず、核となる能力を決める

安川電機は赤字が続いた創業初期に、「電動機とその制御装置」へ商品を絞りました。

何でもできる会社を目指すのではなく、

自社が最も強くなれるものは何か。

を決めることが重要です。

2.商品と使い方をセットで持つ

モータだけを販売するのではなく、制御技術も持つ。

商品だけでなく、

設定。

運用。

データ。

教育。

サポート。

まで持てれば、顧客が得られる成果を大きくできます。

3.競合と同じ市場だけで戦わない

「メカトロニクス」という新しい考え方を提示したように、

既存商品の価格競争へ入るだけでなく、

新しいカテゴリー。

新しい呼び方。

新しい使い方。

を作る方法があります。

市場自体を定義できれば、比較される条件も変えられます。

4.顧客が購入する前へ入る

商品を買う直前の顧客へ営業すれば、価格比較になりやすくなります。

企画。

設計。

業務整理。

課題発見。

の段階から顧客へ入れば、自社の商品が選ばれる理由を一緒に作れます。

5.新技術を既存の強みに掛け合わせる

AIが流行っているから、AI会社になる必要はありません。

安川電機は、

AI × ロボット。

AI × モーション制御。

という形で、自社の100年の強みへ新技術を加えています。

自社が現在持っている、

顧客。

商品。

データ。

業務ノウハウ。

へAIをどう掛け合わせるかを考えるほうが、独自性を作りやすくなります。

6.デジタルだけでなく「現実世界」を見る

生成AIの成長によって増えるのは、ソフトウェア需要だけではありません。

データセンター。

電力。

冷却。

半導体。

物流。

建設。

工場。

ロボット。

現実世界の設備需要も増えます。

新しい市場を見るときは、その市場の周辺で何が物理的に必要になるかまで考えることが重要です。

まとめ:安川電機は「モータの会社」から「AIの身体を作る会社」へ

安川電機は1915年、炭坑向けの電動機メーカーとして始まりました。

赤字が続くなかで、電動機と制御装置へ事業を集中する。

世界初のサーボモータの原型を作る。

「メカトロニクス」という概念を生み出す。

日本初の全電気式産業用ロボットを発売する。

サーボ、インバータ、ロボットを世界へ広げる。

工場の自動化からデータ活用へ進む。

そして現在は、生成AIとロボットを組み合わせ、フィジカルAIへ進んでいます。

100年間で商品は大きく変わりました。

しかし、安川電機が追い続けているテーマは同じです。

「電気の力で、機械をもっと正確に、もっと効率よく動かすこと。」

生成AIは、世界に巨大な「頭脳」を作りました。

次に必要になるのは、その頭脳の判断を現実世界で実行できる身体です。

そこで必要になるのが、

モータ。

制御。

ロボット。

センサー。

です。

安川電機が世界で強い最大の理由は、

ACサーボモータで世界シェアNo.1だからだけではありません。

モータからロボット、そしてAIへ、時代が変わるたびに「動かす技術」の範囲を広げ続けてきたからです。

安川電機は、

モータを作る会社から、

工場を自動化する会社へ。

そして今、

AIに「身体」を与える会社へ変わろうとしています。


このnoteでは、世界で戦っている日本企業を1社ずつ取り上げ、その成長戦略、海外展開、競争優位を分かりやすく整理しています。

毎週日曜日は、これから始まる1週間の世界ニュース予定を紹介します。

毎週土曜日は、その週に世界で実際に起きた出来事を振り返ります。

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