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失敗ばかりの父ちゃんから、あなたへ

この前、東京大学の小林武彦先生の「生物はなぜ老い、そして死ぬのか」という講演を見ました。

生物はなぜ死ぬのか。そして、人間はなぜ老いるのか。

そんな大きな話でした。

その中で、少し引っかかった話がありました。

人間は、若い間は自分自身が生きることや子どもを育てることが中心になります。けれど年を取ると、自分が経験してきたことや知識を次の世代に渡したり、集団を支えたりする役割を持つようになったのではないか、という話でした。

先生はそれを「利己から利他へ」という言葉でも表現していました。

もちろん、生物の進化の話を、そのまま人生の答えにできるわけではありません。

それでも、その話を聞きながら、父ちゃんは自分のことを考えました。

父ちゃんは、60歳を一つの節目だと思っています。

そう考えると、そこまではあと10年ちょっとです。

では、その時間で何ができるのだろう、と最近考えます。

父ちゃんは、自分の人生を「うまく生きてきた」とは、あまり思っていません。

仕事も何度か変わりました。

環境が変わるたびに、その場所でどうやって生きていくかを考えなければなりませんでした。

言うべきところでは主張し、時には我慢し、残るためにサバイバルしなければならないこともありました。

でも父ちゃんは、そういう生き方が得意だったわけでも、好きだったわけでもありません。

疲れたこともあります。

嫌になったこともあります。

自分のやり方を変えなければいけないと分かっているのに、昔のやり方に固執して、同じような失敗を繰り返したこともあります。

「これは自分の問題なのではないか」と思って、人に話を聞きに行ったり、本を読んだり、学び直したりもしました。

それでも、なかなか直らないことはあります。

今もそうです。

父ちゃんは何かを乗り越えて、すっかり立派な人間になったわけではありません。

まだ途中にいます。

だから、あなたに「父ちゃんみたいに生きてほしい」とは思っていません。

父ちゃんが遠回りしたところは、できれば遠回りしなくていい。

間違えたところは、「こんな間違い方もあるんだな」と材料にしてくれたらいい。

使えるものだけ拾って、自分に合わないものは捨ててくれればいいと思っています。

そんな父ちゃんでも、最近は一つ思うことがあります。

残りの時間で、何かを残したい。

大きな仕事や立派な肩書きではありません。

会社で、
「あの人がいたから、このやり方が残った」

地域で、
「あの時あの人が動いたから、少し良くなった」

誰かの中に、
「あんな考え方もあるんだな」

そんなものが少し残ればいいと思っています。

毎日は相変わらず大変で、本当にそんなことができているのか、自分でも分かりません。

目の前の仕事だけで一日が終わることもあります。

失敗を直すだけで終わる日もあります。

それでも、若い頃とは少し考えることが変わりました。

以前は、まず自分がどう生き残るかを考えていました。

今は、

「自分がいたことで、周りに何が残るのだろう」

と考えるようになりました。

もしかすると、小林先生が話していた「利己から利他へ」というのは、こういうことなのかもしれません。

そして父ちゃんが、あなたたちに残せるものがあるとすれば、人生の答えではありません。

残せるのは、たぶん考え方です。

うまくいかない時にどう考えるか。

我慢するのか、離れるのか。

自分が間違っているのか、環境が合っていないのか。

一人で頑張るのか、誰かに助けを求めるのか。

失敗したあと、どうやってもう一度選び直すのか。

父ちゃん自身も、まだその答えを探しています。

だから、完成した人間として何かを教えたいわけではありません。

「父ちゃんもまだ途中です」

そのままで伝えればいいと思っています。

父ちゃんの人生をまねしなくていいです。

父ちゃんより、もっと自分に合った場所を選んでください。

戦わなくていい場所なら、わざわざ戦わなくていい。

でも、自分にとって大事なことを守らなければならない時には、自分の言葉で伝えられる人であってほしいと思います。

そして困った時には、誰かの門を叩いてください。

父ちゃんも、そうやって今まで生きてきました。

60歳まで、あと10年ちょっと。

会社に。

地域に。

周りの人たちに。

そして、あなたたちに。

何を残せるのかは、まだ分かりません。

それでも父ちゃんは今、

自分がここにいたことで、何か一つでも次に残るものを作りたい。

そんなことを考えながら生きています。

いつかあなたが大人になった時、父ちゃんの人生の中から一つでも使えるものがあったなら、それで十分です。

この記事を書くにあたって参考にしたもの

この記事を書くきっかけになったのは、東京大学の公開講座で行われた、小林武彦先生の講演です。

小林武彦「生物はなぜ老い、そして死ぬのか」
第141回(2025年秋季)東京大学公開講座
「人間の在り方、生き方」
東京大学 定量生命科学研究所 教授(講演当時)
UTokyo Channel/東京大学

講演では、「生物はなぜ死ぬのか」という問いを、生命の起源や進化、DNAの損傷などから考えるとともに、後半では「なぜ人間には、生殖を終えたあとにも長い人生があるのか」という問いが扱われています。

特にこの記事で考えるきっかけになったのは、年長者が経験や知識を次の世代へ渡し、集団を支える役割を持つようになったのではないか、という話です。

小林先生は、人間の老いについて「利己から利他へ」という言葉を使って説明されていました。

この記事は、この講演の内容をそのまま紹介したものではありません。

講演を聞いて、父親として今の自分の生き方や、これまでの失敗、これから会社や地域、そして娘たちに何を残せるのかを考えた、個人的な文章です。

生物学の理論を人生にそのまま当てはめるのではなく、一つの問いをもらったものとして書いています。

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