1001回目の『危機』:私の人生の頂点に君臨し続ける、Yesの最高傑作
邦題『危機』、原題“Close to the Edge”。
プログレッシブ・ロック・バンド、Yesの代表作である。
1972年の発表から50有余年が経った今でも、
このアルバムは私にとって不動の「最高傑作」であり続けている。
18分を超える表題曲を、私はおそらく1000回以上聴いてきた。
しかし、未だにクライマックスでは背筋がゾクゾクする感覚を覚えるのだ。
多数のミュージシャンに影響を与えた、
LPレコードのA面全てを使った18分50秒という長尺。
クラシックのような緻密な構成と、
変拍子が多用された複雑なアンサンブル。
哲学的な詩文は、
メンバーの驚異的な演奏力と
ジョン・アンダーソンの孤高のボーカルによって、
至高の名曲へと昇華された。
私の音楽観を根底から覆し、
人生の中で未だに頂点に君臨する作品。
肉薄する名盤はいくつかある。
『クリムゾン・キングの宮殿』、『狂気』、『タルカス』、
『レッド』、『ならずもの』、『レッド・ツェッペリン IV』、
『リターン・トゥ・フォーエヴァー』、……。
いずれも素晴らしい。
だが、背中に電流が走るほどの衝撃を与えてくれるのは、
やはり「危機」だけなのだ。
1973年の春、すべてが始まった
初めてこのアルバムを手にした時、
まずそのジャケットの素晴らしさに驚かされた。
深い緑から明るい緑へのグラデーション、特徴的なロゴデザイン。
「車のデザインはその車の性能を表す」と誰かが言っていたが、
レコードのジャケットもまた、その音楽性を表すものだと思う。
初めて「危機」にステレオの針を落とした日。
リクライニング椅子に横になって、ヘッドホンをかけ目を閉じ、
演奏に集中した。1度目は、??????
2度目は、???・・・これは・・・!
3度目は、背中に電流が流れた・・・!!!
鳥のさえずりから始まり、
スティーヴ・ハウによる
約4分間のスリリングなギター・ソロで幕を開ける。
ジョン・アンダーソンの透明感あふれる歌声は、
聴く者を果てしない音の宇宙へと誘う。
クリス・スクワイアのベースとビル・ブルーフォードのドラムが刻む、
複雑かつ躍動的なリズム。
そこにリック・ウェイクマンのキーボードが加わり、
音世界はさらに壮大さを増していく。
5人の天才による緻密なアンサンブルは、
まるで宇宙船が大宇宙の果てへと突き進んでいくかのようだ。
そして宇宙の果て、巨大な滝が姿を現す……。

ライブの記憶、そして座れなかった最前列
実は、この曲を生で聴いたのは、一度だけである。
しかも、Yesではなく、
1990年の「Anderson Bruford Wakeman Howe 」
の中野サンプラザにおけるステージだ。
しかし、ブルーフォードのドラムによる危機だったからこそ、
私にとっては、スタジオ版の危機と同じ、
いやそれ以上の感動を味わうことができた。
その後、Union Tour(1992年 武道館)、
Full Circle Tour(2003年 東京国際フォーラム)、
The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024(2024年 仙台GIG)
と足を運んだが、いずれもメインは、危機では無く、
AWAKEN(92年/03年)や海洋地形学の物語(24年)だった。
何より悔やまれるのは、2022年、
コロナ禍の中で開催されたオーチャードホール公演である。
危機発売50周年記念ツアー。なんと私は最前列席をGetしていた!
その席の目前で、スティーブが危機を弾き始めるはずだったのだ。
しかし、無情にも其の夢は叶わなかった。
行けなかったツアーのチケットは、今も手元にある。
目の前でスティーブがギブソンを鳴らすはずだった、
幻の特等席の記憶とともに。

1001回目の、至高の瞬間へ
あの1973年の春、
リクライニング椅子の上で味わった衝撃と、
背中を駆け抜けた電流。
それは半世紀が過ぎた今でも、
1ミリも色褪せることなく私の身体に刻まれている。
行けなかった50周年ツアーのチケットは、手元に遺された。
しかし、私にとっての「危機」は、ライブ会場だけでなく、
この部屋や愛車のスピーカーの前にいつでも存在している。
宮殿も、狂気も、タルカスも、確かに素晴らしい。
しかし、私の魂をここまで揺さぶるのは、やはりこの曲だけだ。
実は、楽しみにしていた2026年9月の日本ツアーが、
スティーヴの体調不良のため延期されてしまった。
「スティーヴが一日も早く元気になって、
またあの素晴らしいステージに戻ってきて欲しい!」
そんな強い願いを込めて、今夜も私はこのアルバムを再生する。
暗闇の向こうから、鳥の声……小川のせせらぎ……。
静寂を切り裂く、あのギターが鳴り響く。
さあ、
1001回目のプログレッシブ・ロックの至高の瞬間が始まる。
(あくまでも、個人の感想です・・・!)

