【トルコエッセイ#3】カッパドキアで出会った1人の女性。きっとあなたを忘れない。
カッパドキアの朝は早い。アザーンの響きで朝5時に目が覚めた私は、ホテルの美しいテラスで過ごす時間を誰よりも楽しんでいました。

見渡せば青い空の下、斜面に連なる洞窟ホテルや、不思議な形をした岩肌が朝日に照らされています。
そこに住み着く鳩たちがパタパタと飛び立つ風景や、色鮮やかに咲き誇る花々、そして人懐っこく近づいてくるホテルの飼い犬。

そんなゆったりとした時間の中、ふと右へ視線を移すと、オープンキッチンのような台所で、一人の女性が黙々と朝食の準備をしていました。
彼女が一人で用意する朝食は、驚くほど種類が豊富でした。
私が大好きな3種類ものオリーブに、ナスを使ったお惣菜、色鮮やかなチーズやハム、フレッシュな野菜や果物。
そして何より私が心惹かれたのは、毎朝並ぶたくさんの手作りデザートです。
ケーキやクッキー、何種類ものデザートの中でも、絶品だったのが「バナナとチョコレートのケーキ」。
しっとりとした生地からゴロゴロとチョコとバナナが顔を出し、カスタードの優しい甘さが広がります。
それは、私が昔、子供たちのために焼いていたお菓子を思い出させるような、心温まるホームメイドの味でした。

私自身もお菓子作りをするので、これだけの種類を毎日一人で作る大変さが分かります。
だからこそ、「食事はとてもおいしかったよ。特に私はこのデザートが一番好き」とどうしても伝えたくて、1日目の朝に思い切って声をかけました。
しかし、彼女の反応は少しうつむき加減で、どこか困ったような表情。
旅のテンションで話しかけてしまったので、
「誰もが宿泊客と話したいわけではないし、ちょっと迷惑だったかな……」と、自分の行動を少し反省していました。
ところが次の日の朝。
レストランへ行くと、彼女が別の外国人客に対して
「このデザートはおいしいよ!」
と手ぶり身ぶりを交えながら、
笑顔で料理を勧めている姿が目に飛び込んできました。
その誇らしげなその様子に私は驚きました。
さらに嬉しかったのは、昨日私が褒めたあのチョコとバナナのケーキが、
新しく焼き直されてテーブルに並んでいたこと。
なんだか、「私のためにまた焼いてくれたのかな」と思えて、
とっても嬉しかった💖
食事の後、どうしても感謝を伝えたくて、記念に写真を撮りたいとお願いしました。
快く応じてくれた彼女に、ありがとうの気持ちを込めて右手を差し出し、思わず左手も添えて両手で握手をしました。
すると彼女は、私を優しく引き寄せ、
温かいハグとチークキスをしてくれたのです。

言葉は全く通じない。住む国も文化も違い、お互いの名前すら知りません。
それなのに、私と彼女の間には不思議なほど壁がありませんでした。
まるで同じ女性として、迎え入れてくれたような、
深い仲間意識を感じたのです。
今でもあの光景を思い出すと、胸の奥がギュッとなり、涙がこみ上げてきます。
この先、彼女に会うことはないのかもしれない。
けれど、自分の仕事に自信と誇りを持って、がんばってね。
あなたの仕事は素晴らしいのよ。
どうかずっと健康に、元気でいてね。
異国の地で言葉の壁を越えて触れ合ったあの温もりを、
私はこれからもずっと大切にしていきたいと思います。
