波の音が、部屋の中で (#シロクマ文芸部)
波の音が部屋の中で聞こえたような気がした。
私には双子の妹がいた。彼女は私が生まれた時からずっとそばにいた。顔も背格好も同じで、私たちは鏡の中に映る虚像のようにそっくりだった。私たちはどこへ行くにも一緒だった。
ある夏の日、父と母は私たちを連れて海へ行った。その日はいい天気で、前日の嵐が嘘のようだった。私たちはボール遊びをしたり、水をかけあったりして、キャーキャーと声を上げていた。そのうち、私の花を連ねたような腕輪が取れて、どこかへ行ってしまった。
「あっ」と私は言った。
「どうしたの」
「腕輪が……」
と、辺りを見回した。彼女は水の中に潜って砂を掘ったりしていたが、
「どこかに流されたかもしれないね」
と周りも探し始めた。
私も水の上から探していたが、やがて疲れてきて
「砂浜のほうに行ってるね」
と彼女に言って、波打ち際の方へ歩いて行った。そして砂山を作ったりしていた。
しばらくすると、母がやってきて
「あれ、1人? ハナちゃんは」
と聞く。
「あの辺りで私の腕輪を探してると思う」
と、指を指す。
母はその辺をじっと見ていたが、
「いないみたい」
とつぶやいてそちらの方へ歩き始めた。そして、潜ったりしていたが
「マナ、ハナがいない」
と言う。私は立ち上がり、母がいるあたりへ行った。潜って見回したが、彼女はいない。母はだんだん顔色をなくして
「ハナ、ハナ?」
と大きめの声で呼びはじめた。父も寄ってきて「どうした」
と聞く。母は
「ハナが…」
と言い
「どこにいるの⁈」
と、叫んだ。
父は海に飛び込んで辺りを泳ぎ回った。けれど、ハナの姿はどこにもなかった。
しだいに、とんでもないことになったと思い始める。母はライフセーバーを呼び、その人もハナを探し始めた。他の人達も集まって、小さな人だかりができてきた。
けれど、ハナは見つからなかった。着けていた、ビーズの髪ゴムだけを残して。
私たちは結局、呆然として帰るしかなかった。ハナがいない毎日は、まるで自分の半身を失ったようだった。彼女がいなくなったことで、家族のありようも変わってしまった。クスクスと笑う声や楽しい事はなりをひそめ、家の中はいつもしんとしていた。
私は呆然としたまま時を過ごし、気がつくと大人になっていた。家を出て、一人暮らしを始めた。
はじめての自分だけの家は本当に1人だったけど、かえって寂しさを感じなかった。家事や勉強は大変だったけれど、それが心の空白を埋めてくれるような気がした。
何年か経った後、まだ整理していない段ボール箱を開けてみる。そこには懐かしい思い出の品とともに、小さな白い巻き貝があった。それは、あの時私が砂浜で見つけたものだった。
手に取ると、あの時の記憶がまるで昨日のように蘇る。
私はしばらく動けずにいたが、耳に当ててみる。波の音が聞こえ、潮の匂いが鼻をかすめたような気がした。胸に熱いものがこみ上げてきて、私は言葉をなくす。
──ハナ……ごめんね。
私は胸の内でつぶやいた。
潮騒が聞こえ、記憶の中の彼女が笑ったような気がした。
了
♯シロクマ文芸部 さんに参加させていただきました。ありがとうございました✨
この話はこれ↓とリンクしています(若干違う箇所もあります)
