豚肉の生姜焼きにも物語がある|原田ひ香『口福のレシピ』感想とレシピ
『口福のレシピ』原田ひ香|美味しい料理と家族の歴史を味わう小説
今、最も勢いのある作家の一人である原田ひ香さん。
『三千円の使いかた』をはじめ、お金や暮らし、食をテーマにした作品でも多くの読者を惹きつけています。そんな原田ひ香さんの『口福のレシピ』も、料理好きにはたまらない一冊です。
小説の中には、思わず「これ、作ってみたい!」と思ってしまう料理が次々と登場します。
でも、この作品の魅力は単なる料理小説というだけではありません。
料理は誰が考えたのかとか、家庭の味はどのように受け継がれてきたのか。
そして、昔から伝わる味を守ることにはどんな意味があるのか。
美味しそうな料理を楽しみながら、そんなことまで考えさせられる物語でした。
今回は、原田ひ香さんの『口福のレシピ』のあらすじと感想、そして小説に登場する料理からヒントをもらって作った「豚肉の生姜焼き」のレシピをご紹介します。
『口福のレシピ』原田ひ香|あらすじ
品川留希子の実家は、江戸時代から続く「品川料理学園」。
本来なら留希子は、その歴史ある料理学園を継ぐ立場にありました。
しかし、留希子自身は後継者として生きる道を選ばず、SEとして働く傍ら、SNSで料理を発信。やがて料理研究家としても活動を始めます。
忙しい女性たちの役に立ちたいと考え、献立やレシピを発信する留希子。
ところが、ある日発信した料理が問題を引き起こします。
その料理は、留希子自身にとって昔から馴染みのある味。
しかし、そのレシピには品川家が長い年月をかけて受け継いできた歴史が刻まれていたのです。
一方、舞台は昭和2年へ。
品川料理研究所の台所では、女中奉公をしているしずえが、昼餉の料理を任されることになります。
料理を作ることに情熱を注ぐしずえ。
まだ当たり前ではなかった食材や料理に向き合い、試行錯誤を繰り返しながら、新しい味を生み出していきます。
現代の留希子と、昭和初期のしずえ。
二つの時代の物語が交錯しながら、料理と家族、そして受け継がれていく「味」の物語が描かれていきます。
最後には、じんわりと心が温かくなる家族小説でした。
当たり前の料理にも、誰かが生み出した物語がある
今の時代は、本でもインターネットでも、作りたい料理があればすぐにレシピを調べることができます。
スマホを開けば、数え切れないほどのレシピが出てくる。
便利な時代になりましたよね。
でも、そんな当たり前の料理も、最初に「こうやって作ってみよう」と考えた人がいたはずです。
『口福のレシピ』を読んでいると、その当たり前のことに改めて気づかされます。
昭和2年のしずえが格闘する食材の一つが「白芹」。
私は最初、「白芹って何だろう?」と思いました。
調べてみると、セロリのこと。
今ではサラダやスープ、炒め物など、さまざまな料理に使われるセロリですが、当時は今ほど食べやすくなかったのかもしれません。
青臭さや独特の香りが強い食材を、どうすれば美味しく食べられるのか。
しずえはセロリが蕗に似ていることに気づき、一度茹でてから油で炒め、醤油、みりん、砂糖、かつおぶしで味付けするという方法を考えます。
何もないところから料理を生み出す。
それは、今の私たちがレシピを検索して料理を作ることとは、また違った大変さと面白さがあるのでしょうね。
「豚肉の生姜焼き」にもルーツがある
物語の中で、しずえは旦那様に上野の洋食屋へ連れて行ってもらいます。
そこで食べたのが「ポークジンジャー」。
そして旦那様から、「これ以上に美味しいものを作ってほしい」と頼まれるのです。
そこから試行錯誤を重ね、しずえが完成させる「豚肉の生姜焼き」。
今では家庭料理の定番ですよね。
お弁当のおかずにもなるし、定食屋さんでも必ずと言っていいほど見かける料理です。
でも、「豚肉の生姜焼きがどのように生まれたのか」なんて、これまであまり考えたことがありませんでした。
小説の中では、料理が生まれるまでの過程にドラマがあります。
豚肉に何を合わせるのか。
どんな調味料を使うのか。
甘みはどうするのか。
ほんの少し材料や分量を変えるだけで、まったく違う料理になる。
そんな試行錯誤の積み重ねが、今では「当たり前の家庭料理」になっているのだと思うと、一皿の生姜焼きさえも少し特別に感じられました。
お菓子作りをすると、さらに感心してしまう
私はたまにお菓子も作ります。
だからこそ、この「誰が最初に考えたのだろう」ということを、お菓子については特に強く感じます。
基本の材料は、粉、卵、砂糖、バター。
使う材料は似ているのに、作り方によってシュークリームになったり、スポンジケーキになったり、パウンドケーキやクレープ、タルトになったりします。
同じような材料なのに、混ぜ方や温度、焼き方を変えるだけで、まったく違うものができあがる。
特にシュークリームやパイなどは、あの工程を考え出した人がいると思うと、本当に感心してしまいます。
今はレシピがありすぎて、反対に「どのレシピが一番美味しいんだろう?」と迷ってしまうこともあります。
でも、何もないところから新しい料理やお菓子を生み出す作業は、本当にすごいことですよね。
『口福のレシピ』を読んでいると、普段何気なく作っている料理にも、もっと想像力を働かせてみたくなります。
今の時代だからこそ「家庭の味」を大切にしたい
それにしても今の時代、「家庭の味」というものは少しずつ薄れてきているのかもしれません。
私自身も、料理を作る時にはインターネットでレシピを検索することがあって、ほとんどの料理は、すぐに作り方がわかります。
便利な反面、おばあちゃんの味や母の味のような、「その家にしかない味」が受け継がれにくくなっているような気もします。
もちろん、昔からの作り方だけが正しいというわけではありません。
時短料理も便利ですし、忙しい毎日の中では大切なことです。
でも、家族が「これがうちの味だよね」と思える料理があるのも素敵です。
留希子の家のように、代々伝えられてきた味を大切にすること。
それもまた、料理の大切な役割なのかもしれません。
『口福のレシピ』に登場する美味しそうな料理
料理小説に登場する料理って、どうしてあんなに美味しそうなのでしょう。
普段なら何気なく食べている料理でも、小説の中で描かれると、無性に食べたくなってしまいます。
『口福のレシピ』も、最初から最後まで「これを食べてみたい」「作ってみたい」と思う料理が満載でした。
レンコンの素焼き
例えば、レンコンを素焼きにして塩をかけただけの料理。
レンコンは焼いてナンプラーをかけるのが留希子の定番なのだが、今日は太白ごま油で焼いて塩だけ。これがぱりぱりしゃりしゃりとうまくて、いくらでも食べられてしまう。
シンプルだからこそ、レンコンの食感や美味しさが際立ちそうです。
「ぱりぱり」「しゃりしゃり」という食感まで想像できる文章を読むと、それだけで作ってみたくなります。
竹の子の天ぷら
そして、竹の子の天ぷら。
衣はからっとしてるのに、竹の子自身が脂を吸っているのか、他の野菜天ぷらよりもぐっとコクが増す。塩はきめの細かい「雪塩」を用意した。それをちょっとつけただけで、酒がぐいぐい飲めてしまう。
想像しただけで、お酒が飲みたくなってしまいます。
春になったら、竹の子を見つけて天ぷらにしたくなりました。
春菊のごま和えと春菊のお蕎麦
春菊のごま和えや、春菊を使ったお蕎麦もとても美味しそうでした。
小説を読みながら、「今度これを作ってみよう」と思える。
料理小説の楽しさは、物語を味わいながら、自分の食卓まで豊かになるところなのかもしれません。
冷や汁
そして、留希子が「なるべく簡単に」と考えながら作る冷や汁。
簡単に作ろうとする中で、実は省いてはいけない大切な工程があったことに気づかされます。
私自身も、これまで冷や汁は材料を混ぜて簡単に作っていました。
でも、今度は小説の中で描かれる方法を参考に、少し丁寧に作ってみたくなりました。
詳しい作り方が気になる方は、ぜひ『口福のレシピ』を読んでみてください。
小説からヒントをもらった「豚肉の生姜焼き」を作ってみた
そして、この小説の中で私が一番作ってみたかったのが、やはり「豚肉の生姜焼き」です。
しずえが考えた生姜焼きには、りんごが使われています。
一方、現代を生きる留希子のレシピでは、りんごジュースを使用。
しかも、豚こま肉と調味料を絡めて、電子レンジで加熱するという時短レシピです。
今回は、そのアイデアを参考にしながら、私はフライパンで作ってみることにしました。
留希子のレシピには砂糖を使っていませんが、私は少し甘辛い生姜焼きが好き。
そこで砂糖の代わりに蜂蜜を使ってみました。
りんごジュースのフルーティーな甘みと、玉ねぎ、生姜、蜂蜜のコクが加わって、ご飯がどんどん進む味になりました。
「豚肉の生姜焼き」レシピ

材料
(2人前)
豚肉生姜焼き用 4枚
塩、こしょう、小麦粉 適量
(たれ)
酒 大匙2
しょうゆ 大匙2
みりん 大匙2
りんごジュース 大匙3
玉葱のすりおろし 1/4個分
生姜のすりおろし 大匙1
蜂蜜 大匙1
1.豚肉の筋を切る。両面に塩、こしょうし、小麦粉を薄くまぶしておく。
2.玉ねぎ、生姜のすりおろしをボウルに入れ、酒、しょうゆ、みりん、りんごジュース、蜂蜜を加え、よく混ぜておく。
3.フライパンにサラダ油を熱し、豚肉を両面焼いて一旦取り出す。
4.フライパンの脂をペーパーで軽くふき取り、タレを入れ沸騰させる。豚肉を戻し入れ、スプーンで豚肉に絡め、器に盛り、タレをかける。

キャベツやレタスと一緒に食べても美味しい
留希子のように、キャベツやレタスの上にタレごと生姜焼きをのせるのもおすすめです。
甘みが苦手な方は、蜂蜜を省いても大丈夫。ただ、少量でも加えると味がまろやかになります。
今回は、私好みの甘辛い味に仕上がりました。
りんごジュースを使うことで自然な甘みとフルーティーさが加わり、とても美味しかったです。
これは我が家の豚肉の生姜焼きの定番になりそうです。
時短料理もいい。でも、昔ながらの調理方法も忘れたくない
今は時短料理が当たり前の時代です。
電子レンジを使ったレシピや、少ない材料で作れる料理は本当に便利。
私自身も、忙しい時には時短レシピに助けられています。
でも、『口福のレシピ』を読んでいると、昔ながらの調理方法にも意味があるのだと改めて感じました。
例えば、ごま和え。
今なら、すりごまと調味料を混ぜるだけで簡単に作ることができます。
でも本来は、ごまを煎って、すり鉢ですって作る。
手間はかかりますが、煎りたて、すりたてのごまは香りがまったく違います。
便利な方法を取り入れながらも、時には時間をかけて料理を作ってみる。
そんな時間も大切なのかもしれません。
『口福のレシピ』は、料理と家族のつながりを考えたくなる一冊
原田ひ香さんの『口福のレシピ』は、美味しそうな料理がたくさん登場する料理小説です。
でも、読み終わって心に残るのは、料理だけではありませんでした。
料理がどのように生まれたのか、レシピがどのように受け継がれていくのか。そして、家庭の味や家族の関係とは何なのか。
普段、当たり前のように食べている料理にも、誰かの試行錯誤や長い歴史があります。
豚肉の生姜焼きも、セロリを使った料理も、今では当たり前に食卓に並ぶもの。
でも、その一つひとつには、きっと誰かが「もっと美味しくできないだろうか」と考えた時間があるのでしょう。
料理の成り立ち、家庭に伝わる味、家族とのつながり。
そんなさまざまなことを考えながら、美味しい料理まで楽しめる『口福のレシピ』。
料理小説が好きな方はもちろん、「今日のご飯、何を作ろうかな」と考えるのが好きな方にもおすすめしたい一冊です。
