彫刻家・山本信さんインタビュー|一瞬一瞬の「楽しい」を作品に
アトリア開館20周年にあたり、創設から7年間その運営を支えた彫刻家・山本信さんにお話を伺いました。
子どもとの関わりの中で育まれた感覚、“宝物のように展示された作品”との出会い、そして、誰も見たことのない表現を求めて変化していった制作の歩み。
その言葉からは、山本信さんの創作の原点と、今につながる“楽しさ”の感覚が見えてきます。
―― 山本さんとアトリアの出会いは?
川口市でアトリアをつくることになったときに、美術の専門家として声をかけてもらったんです。当時の市長が、子ども向けとか、美術初心者にも開かれた施設にしたいと考えていたそうでね。
わたしは子どもの描く絵が好きだったので、おもしろそうだと思って、ここで働くことにしました。

―― アトリアで働いていて良かった思い出を教えてください。
やっぱり、子どもと一緒に何かやれるっていう環境が、すごく好きでいろいろ学ぶところが沢山ありました。
また、いろんな作家のことを勉強できたのは、すごく良かったですね。それまであまり趣味の合わなかった作品なんかも、そのときは好き嫌い関係なくちゃんと向き合って、学ぶことができた。あれは貴重な時間でした。みなさん自分の作家性を大切にして真剣だった。
それと、いろんな作家とつながりができたこと。知り合った人たちのプロ意識みたいなものに触れられたのも大きかったですね。
子どもと過ごす時間のなかで、
つくることの楽しさが、少しずつ形になっていった。
―― 作品をつくるようになったきっかけを教えてください。
小学生のころね、もともと絵を描くのが好きなところに、美術を教えているかわいい先生がいて。褒められたくて、一生懸命絵を描いてましたよ。
それと、手塚治虫の漫画に憧れていましたね。

―― 絵はどのように学ばれていたのですか?
図鑑とかキンダーブック(保育用の絵本雑誌)の挿絵で、気に入ったものを真似して描いてました。当時は、見たまま描けるのがいいって思ってたんですよね。
あと、家の近くに芸大生がいて、その人のところに行って教えてもらったりもしていました。
―― 作家になろうとしたきっかけは何ですか?
近所の芸大生にブリヂストン美術館(現:アーティゾン美術館)に連れて行ってもらったことがあってね。
そのときに、「こんなすてきな場所に、宝物みたいに作品が並んでいるのはすごいなぁ」って思ったんですよ。それが絵かきになりたいと思ったきっかけですね。

―― 画風が変わっていった理由を教えてください。
高校生のころはゴヤとかベラスケスに憧れて、そのあと二科展で見た作家の真似なんかもしてました。
でもね、アメリカやヨーロッパから新しい絵がどんどん入ってきて、見たことないものばっかりで。
「このままじゃ時代遅れになるな」って焦ったんですよ。
作家になる以上は、誰も見たことないものをつくらなきゃって思いましたね。
見たことのないものをつくる。
その選択が、すべてを変えていった。
―― 平面から立体作品へ移ったきっかけは?
タピエスっていう、壁みたいな絵を描く作家がいてね。それに興味を持って、壁みたいな作品をつくり始めたんです。
それで、考古学の発掘現場で地面に穴がボコボコ開いてるのを見て、「これ面白いな」って思って、作品にも穴をあけるようになって。
そうしたら作品がどんどん厚くなって重くなっちゃって、壁に掛けられなくなってね。「じゃあ床に置こうか」ってことで、立体になっていきました。


―― カラフルでユニークな形の理由は?
当時は鉄とか銅でつくる、しっかりした作品が主流だったんですよ。
それを見て、「じゃあ自分は違うことをやろう」って思ってね。ユーモアがあって、ちょっと漫画っぽい、無垢な感じのものをイメージしてつくり始めました。


―― 作品づくりで大切にしていることは?
つくってて面白いかどうか。自分でワクワクしてるかどうか。
そのとき楽しいと思うことを、そのままやってる感じです。


―― 「アニマの森」をつくり始めた理由は?
最初に7体つくったときに、画家の智内兄助さんから「面白いから、もっと会場いっぱいに並べて、森にしちゃえばいいじゃん」って言われてね。
それでどんどん増やしていったら、最終的に180体以上になりました。その多くは、北海道の東川町での展覧会のあと、その町に寄贈しています。



「つくっていて面白いかどうか」
山本さんの言葉は、とてもシンプルで、だからこそ、まっすぐに心に残ります。
アトリアのはじまりとともに歩み、多くの人と、そして子どもたちと関わりながら、かたちづくられてきた山本さんの作品。
その根底にある「楽しい」という感覚は、これからも変わらず、誰かの創作のはじまりへとつながっていくのかもしれません。

川口市立アートギャラリー・アトリア
写真撮影:島村 美紀
※一部スタッフ撮影を含みます
取材:学芸員 宮澤
広報・編集:髙野
