彫刻家・金沢健一さんインタビュー | ひととひとがたが示したアートの可能性
この夏、アトリアでは「金沢健一 延長線上のマリオネット ひととひとがたの間」を開催しました。
(2026年7月18日~8月23日)
主に金属を用いた作品を制作する金沢さんですが、今回は、マリオネットを中心とした作品展示を見せてくれました。
会期中、展覧会に隣接するスペースでは、アトリア・ラボのプログラムの一つである、小学生を対象とした「オープンアトリエ」を同時開催したことから、多くの子どもたちが会場を訪れ、実際にマリオネットを動かしたり、「音のかけら」に触れたりしながら、金沢さんの作品を思い思いに楽しむ姿が見られました。
独特の世界観を構築するマリオネット。そのシンプルなフォルムと動きは、見た者、触れた者にさまざまな感情を抱かせます。
今回は子どもの来場者も多く、作家自身も予想していなかった出来事がたくさんあったようです。
金沢さんは、それを「セレンディピティ」と表現しました。
さて、どんな素敵な発見があったのでしょうか。

金沢 健一(かなざわ・けんいち)
彫刻家。主に金属を用いた作品を制作するほか、視覚・聴覚・触覚を結びつける作品も手がける。各地で展覧会やワークショップを開催し、自らパフォーマンスを行うほか、音楽家や舞踏家との共演も行う。
ーー『アトリア』での初展示、いかがでしたか。
道行く人から室内が見えるというガラス張りの会場は、なかなかユニークでした。
外光の入る室内は開放的で、展示のアイディアを考えるのも楽しかったですし、実際、開放的な空気やまた空間に響く音を感じながら展示を行いました。
ーー展示のポイントを教えて下さい。
やはり「外から見える」という会場の特徴をどう活かすか、そこを意識しましたね。
まず、展示作品のうち 、モーターで自動で動く5 体のマリオネット(作品名「延長線上のマリオネット-歩く人」)を外に向けて配置し、その動きが外から見えるように工夫しました。
ーーガラス張りならではの展示ですね。反響も大きかったように思います。
ガラス越しに作品を見た人たち、特に親子が、興味を持って会場に入って来ることが多くありました。
正直そこまで興味を持っていただけるとは思っていなかったので、本当に驚きました。
「ひとがた」という形態と「動いている」ということが人の興味を引いたと思います。
特に、子どもたちの反応は興味深かったですね。
唇がペチャンコになるくらいガラスに顔を張り付けて中を覗いていたり、マリオネットと同じ動きをしていたりとか、素直に反応を示してくれてとても可愛らしかったです。
アトリアならではの特徴を活かし、道行く人の足を館内へと導いた展示の工夫。子どもたちのワクワクを見事に呼び込みました。


作品がゆったりと点在するスタジオ展示風景
ーー会場の中も賑やかでしたね。
アートは静かに客観的に鑑賞するもの、という考えもありますが、僕の今回の作品では触れて楽しむ体験型の作品がほとんどで、作品の世界へ没入する感覚を楽しむ、そんなイメージがありました。
マリオネットや音の作品に夢中になりながら、子どもたちは無意識にそれを体験していたように思います。
僕としてはとても嬉しいことで、賑やかさは気になりませんでした(笑)
なによりも『アトリア』の開放的な空間には、子どもたちの自由な感性を受け入れる寛容さがありましたね。


ーー会場での金沢さんは常に来場者と接しておられましたよね。
僕が実際にマリオネットを操って、手本を見せたりはしていましたね。
ただ手本と言っても詳しく教えるのではなく、簡単な操作方法やヒントを与えるというか、作品に親しむきっかけになればという気持ちでやっていました。
ーーきっかけ、ですか。
そう、あくまできっかけです。
最初は僕の真似をしていても、そのうちみんな勝手に遊び始めるんですよ。
そうなったらもう、やりたいように自由でいいと思っています。
危険な行為や作品を壊さない限りはお任せです(笑)
ーーリピーターも多かったですね。
そうですね。
しかも、二度三度とやって来る子ども主体のリピーターが多かったように思います。覚えたことをお母さんに教えたくてもう一度来た、というお子さんもいましたね。
僕の作品にそんな力があったのかと嬉しい驚きでした。
まぁ、そもそも子ども向けの作品というわけではなかったんですけどね(笑)

参加者のみなさん
2026年8月2日開催・金沢健一展関連ワークショップ
「マリオネットをあやつる」より

参加者のみなさん
子どもたちを夢中にしたマリオネットですが、ターゲットを定めていたわけではない、と語る金沢さん。
作品には「毒」も潜ませていたと言います。
ではなぜ、こんなにも子どもたちを魅了したのでしょう。
ーー確かに見方によっては不気味さを感じる作品もありました。
不規則に動く足の外れたマリオネットや、無造作に転がって もがいているようなマリオネットですかね。
僕の作品作りは、まずコンセプトがありそれをどのように表現していくかということではなく、まず素材を観察、触れていく中で面白い形態やアイデア、コンセプトを発見していくところから始まります。
これらの作品も、マリオネットの足を外したら、また転がしたらどんな動きをするのかな、という発想から生まれました。 でも、見ているうちに僕の中に苦悩や恐怖といった感覚が湧いてきましてね。
そのような感覚を「毒」として今回の展示に潜ませたところはあります。
ただ楽しいだけでない嫌悪感をもたらすようなね。
作品の解釈は人それぞれでいいと思っているんです。
例えば、歩き続けるマリオネットを見て、自分の人生を投影させる大人がいるかもしれないし、足の外れたマリオネットに、悲哀や不憫さを感じる人がいるかもしれない。
一方で、そんな感情とは無縁に、ただひたすら音と動きを楽しむ子どもたちがいる、というようにね。
子どもは、大人とは違った感性で物事を見ているんですよね。

ーー今回の展示で、何か発見はありましたか。
今回、会期の途中から足の外れたマリオネットの前に、初めて水を入れたガラスのコップを置いてみたんですね。 そうしたら足とガラスのコップのぶつかる不規則な音が会場内を包む音の風景を変えていったんです。
カタカタと動くマリオネットの木の音、モーターが回る機械音、そこに新たに加わったガラスと水から生まれる音。それはキーンキーンという響きでね、風鈴の音色にも似たなんとも涼やかなものでした。
偶然から生まれた楽しい演出が生まれましたね。

ーー予想外の収穫といったところでしょうか。
そうですね。
今回の僕の展示の理想は、作品だけでない来館者が作品と触れ合っている状況も含めて空間として素敵な絵、物語になって見えることなんですね。
例えば、今回の展示作品の一つである椅子に、子どもたちがちょこんと座っている姿とか、親子でマリオネットを楽しく操っている様子とかね、すごく可愛いじゃないですか。
でもね、今回そんな理想はどうでもよくなるくらい面白いこと、面白くないことも含めて予想外のことがたくさんあったんですよ。
子どもたちが作品と共に独自の物語を紡ぎだしたり、想像もしていない動きをみせたり、耳をつんざくような大きな音が聞こえてきたり、「え?まだいるの」というくらい長い時間作品と触れ合っていたりとかね 。
このような状況を見ているうちに、理想と異なるからどうのこうのというのではなく、このアトリアで起きている空間の状況をすべて受け入れてしまおうという気持ちが僕の中に生まれたんですよ。これはかけがえのない貴重な体験なのだというね。
『アトリア』という空間だからこそ生まれた、いわゆる「セレンディピティ※」というやつです。それこそが今回の展示における大きな収穫でした。
※「セレンディピティ」素敵な偶然に出会ったり、予想外の幸せな発見をしたりすること。

「広がる可能性」
常に新しい発見を希求し、独自の表現方法で作品を生み出す金沢さん。
今回の展示では、来館者、とくに子どもたちの自由な感性を尊重し、作品と触れ合う行為に壁を作らず、人とアートの関係に多様性を示してくれました。
もっと自由に、もっと豊かに。
可能性はまだまだ広がりそうです。
川口市立アートギャラリー・アトリア
企画・インタビュー:学芸員 宮澤
構成・執筆:小田島
編集・広報:髙野
