光の森のヘンゼルとグレーテル――隣のグリム童話 4Days/Day1
隣のグリム童話 4Days
担当MC:ミライ
パンくずは、帰るために落とすものだった。
いつから、次の誰かを森へ誘う目印になったのだろう。
「今日は、ヘンゼルとグレーテルです」
「おかしのいえ?」
「出てきます。
たぶん、ちょっと光ってるやつが」
「たべていい?」
「それは最後まで聞いてから決めよう」
光の森のヘンゼルとグレーテル
著:黒戸聖
最寄駅から徒歩20分、都会が触れない街の話。
安い賃貸マンションの一室に、十五歳の樹と十二歳の妹、くるみは住んでいた。父の顔は覚えていない。母は毎晩遅くまで働き、家には寝に帰ってくるだけだった。
誰もいない薄暗いリビングで、お腹が空いたとくるみが言う。冷蔵庫にはペットボトルの水と、賞味期限の切れたチーズしか入っていない。
「大丈夫」と、樹は言った。「ちゃんとお兄ちゃんが、どうにかするから」
樹はスマホのアプリを開いた。友達に教えてもらった、"今すぐ稼げる"バイトを紹介するサイトだった。自分のIDと、住所と、顔写真を、少しずつそこに落としていった。何かあっても、これを辿れば元の生活に戻れるだろうと、どこかで思っていた。
あの童話の兄が、森にパンくずを落としたように。
数日後、二人は迎えの車に乗った。着いた先は、都心から少し離れた、真新しいマンションの一室だった。
玄関を開けると、甘いにおいがした。壁は真っ白で、リビングには誰かが用意したお菓子とジュースが並んでいる。家では見たことのない、箱入りの焼き菓子。大きなテレビからは、大好きなアニメの劇場版が流れていた。
他にも、同じ年頃の子供たちが数人、ソファに座っていた。誰も、あまり喋らなかった。
スタッフだという女性は、優しい声で「よく来たね、疲れたでしょう」と言い、二人の肩に手を置いた。声は柔らかいのに、指先だけが妙に冷たかった。
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