ゆるしの愛とゆるさぬ愛 #11「赦しを唱えた聖人」――第4章:盲目の聖者たち
Laed:ユウ
📚マガジン:ゆるしの愛とゆるさぬ愛
血塗られた復讐の歴史の中で、
振り上げた剣を下ろしたその男だけが、
真の赦しを唱えた聖人であった。
赦しを唱えた聖人
「やられたら、
やり返すしかないじゃないですか。人間だもの」
放課後の教室。
部活の練習試合で他校の生徒と激しく揉めたらしい男子生徒が、苛立ちを隠せない様子で吐き捨てるように言った。
「あっちが先に汚い手を出してきたんですよ。
こっちもやり返さないと、舐められるだけっすよ」
「……その気持ちは、とてもよく分かるわ」
私は採点用のペンを置き、古びた『銀のインク壺』を見つめながら静かに言った。
「傷つけられたら、怒るのは当然よ。
やり返したいと思うのも、人間の自然な
感情だと思う。
でもね……歴史の中で本当に勇気が
必要だったのは、正義を掲げて剣を
抜くことじゃなくて」
私は少しだけ言葉を止めた。
「振り上げたその剣を、
自分の意志で下ろすことだったのかもしれない」
ゆっくりとまぶたを閉じる。
鉄と血の匂いが染み付いた風の吹く、灼熱の砂漠へとダイブした。
1187年。
十字軍がエルサレムを占領してから、およそ90年。
イスラムの英雄サラディン――サラーフッディーンに率いられた軍勢は、ついに聖地エルサレムを包囲していた。
従軍書記官として陣幕に控えていたアミーンは、その時を静かに待っていた。彼の傍らには、一族が代々受け継いできた銀のインク壺が置かれている。
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