無価値の歩き方 #10「スクラップ置場」 ――第4章:私の在り方
Laed:サエコ
スクラップ置場
『――ニュース速報です。
感情資源管理省の不正運用疑惑について、
特捜局は本日、重要参考人である同省次官、
キジマ・N・サトシ(42)の行方を追って
いると発表しました。
キジマ参考人は国家の重大な機密データを
持ち出した国家反逆の容疑がかけられており、
現在、特A級の手配対象として――』
「くそっ……! 違う、私は……っ」
未換価地域の入り口。
スクラップの山の陰で、キジマは泥だらけになった靴で、すでに、本来の役目を終えた、タイヤに憤りをぶつけていた。
首元のプラチナ製リム・タグが、肌を焼くほどの熱を持って赤く明滅し、耳の奥でけたたましいマイナス警告音(アラート)を鳴らし続けている。
呼吸をするだけで、莫大な負債(毒)が蓄積していく。
彼が上着の内ポケットに抱え込んでいるのは、特殊なインクで印字された分厚い裏帳簿の束。
これこそが、国家GNE(感情総生産)がとっくの昔に破綻していることを証明する、三百億EU に及ぶ粉飾決算のマスターデータだ。
「はぁ……はぁ……」
極限の飢えと寒さで視界が揺れる。
通信用のデバイスは全て水路に捨て、ひたすら徒歩で逃げるしかない。
都市部には無数の防犯カメラがあるため近寄れない。
人が歩かない道を選んでの逃亡であった。
すでに、逃亡は3日目となり、この間何も口にしていなかった。
それでも、立ち止まらず逃げ回っている。
いつのまにか、スクラップ置き場から、裏山の林を抜け、開けた河川敷に出ていた。
「チッ…この辺りは、首が回らなくなった連中が集ってやがる…」
ふと、微かに風に乗って、味噌の匂いが漂ってきた。
見ると、少し離れた空き地に「白紙の会」という横断幕が掲げられたテントがあり、炊き出しの列ができている。
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