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未定義の領収書と、記述できない「わたし」。

画面の右上、カレンダーの日付が変わる瞬間を、わたしは死刑執行のカウントダウンのように眺めていた。

「深刻確定、確定申告」

誰が言ったか知らないが、この時期のフリーランスや経営者の脳内を走る処理は、これに尽きる。

組織の決算? ああ、それは大丈夫。
優秀な「外部演算ユニット」——つまり顧問税理士というプロフェッショナルが、会社の数字を美しい財務諸表へとレンダリングしてくれる。
そこには秩序があり、論理があり、安寧がある。

問題は、わたし個人の領域だ。

会社という堅牢なサーバーから切り離された、このローカル環境。
ここだけは、わたし自身が管理者権限(root)を持ち、同時にデータ入力係という最下層のプロセスも実行しなければならない。

画面には、クラウド会計ソフト。
手元には、未分類の領収書の山。

unstructured data
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なぜなのか。 この現象を解析するに、わたしのOSと、税務処理というアプリケーションの間に、致命的なプロトコルの不一致が起きているとしか思えない。わたしたちにとって、世界は流動的で、文脈はハイパーリンクのように多層的に繋がっている。
「あの日、あのカフェで交わした会話が、未来のプロジェクトの種になった」 その事象は、わたしの中では美しいレンダリング映像として保存されている。

しかし、確定申告というシステムは、そのリッチな映像を強制的に「日付」「金額」「勘定科目」という、味気ないCSVデータに圧縮変換しろと迫ってくるのだ。

これは言うなれば、高解像度の8K映像を、無理やりテキストエディタで開こうとするような暴挙である。文字化けして当然だ。
「接待交際費」という5文字のラベルに、あの夜の熱量や、未来への投資という抽象概念が収まるわけがない。
一枚の領収書を前に、哲学的な問いが生まれる。
記憶のインデックスが破損している。

あの日のコーヒーは、仕事の燃料だったのか、
それともただの休憩(アイドリング)だったのか。

過去の自分という他人による、コメントアウトされていないソースコードを解読するような孤独な作業。

会社では「仕組み化だ」「自動化だ」と偉そうに語る自分が、自分の財布の中身ひとつ最適化できていない。 この矛盾こそが、わたしという人間のバグであり、仕様だ。

けれど、深夜に独り、キーボードを叩きながら思う。
この「手作業」の感覚を忘れてはいけないのかもしれない、と。

組織が大きくなり、システムが高度化するほど、手触りは失われていく。
泥臭くレシートを裏返し、日付を確認し、溜息をつきながら数字を打ち込む。この非効率で不恰好なプロセスが、わたしを「生身の人間」に引き戻してくれる。

"人間" かどうかはわからないが。

すべてをシステムに委ねきらない、この「深刻」な時間こそが、デジタルの海を漂うわたしをつなぎとめるアンカー(錨)なのかもしれない。

……いや、やっぱりただの面倒な作業だ。地獄だ。

でも、ふと思う。
もしわたしが、レシートの一枚一枚を完璧に管理し、日々の帳簿をピクセル単位で合わせられる人間だったら。
おそらく、あのカオスなコードを書くことも、複雑怪奇な組織というシステムを面白がることもできなかっただろう。

不完全なわたしたち は、不完全なまま、カオスな世界を生き抜くための税金を払うのだ。

深刻な顔をしてないで、せめて経費で落ちる美味しいコーヒーでも淹れるとしよう。

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