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冬の交差点と小さな親切

街は時折、持ち主不明の落とし物で溢れかえる。だが、所有者がはっきりしている場合、それを返してやるのが人の道というものだ。

私は基本的に親切な人間だ。道端でハンカチを落とした人がいれば拾うし、財布なら交番へ届ける。

私の脳内には「所有権の移動には明確な合意が必要である」という厳格なロジックが走っているからだ。

交差点で信号待ちをしていた外国生まれの高級車。その窓から、白い指先が滑ったのか、あるいは重力に逆らうのを諦めたのか、小さな火種がアスファルトへとこぼれ落ちた。

新品同様とは言わないが、捨てるにはあまりに惜しい。彼にとっても余程大切な一服だったに違いない。

「おとしましたよ」

私は声をかけ、それを拾い上げた。指先に伝わる微かな熱。フィルターにはまだ赤い火が残り、紫煙が冬の乾いた風に揺れている。

まだ十分に楽しめる長さだ。こんな大切なものを置き去りにする手はない。

私は開かれた窓から、丁寧にそれをドライバーの手へと戻した。

左ハンドルの男は、礼の言葉を探しているようだったが、信号が変わるのが先だった。彼はよほど関心したのか、エンジンをふかせ、北風と共に去っていった。

取り残された私の指先には、ほんの少しの煙の香りだけが残っていた。

もうすぐ春がくる。

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