公園のベンチで Ping だけが返ってくる
紫煙をくゆらす。
肺から吐き出した煙が、冬の空気に溶けていくのをぼんやりと目で追う。
肩身の狭いこの時代において、私は貴重な排気ダクトだ。

ここは公園という名の巨大な共有サーバー。ベンチに腰を下ろした瞬間、どこからともなく鳩の群れがアクセスしてくる。彼らのアルゴリズムは単純明快。「人間=餌サーバー」。極めてロジカルで、生存戦略として正しい。
しかし、残念ながら私の手元に彼らが求める「ペイロード(餌)」はない。私はただの煙を吐く、中身のないインスタンスだ。

数秒のタイムラグの後、群れはリクエスト失敗を検知したのだろう。 現金なものだ。バタバタと羽音を立て、コネクションを切断して飛び去っていった。
…はずだった。
ふと足元を見ると、一羽だけ残っている。 そいつは逃げるでもなく、ねだるでもなく、ただ私の革靴の横にしゃがみ込み、「クルックー」とpingを飛ばしてくる。
システムエラーか? それとも、こいつも私と同じで、集団のプロトコルから外れた「バグ」持ちなのだろうか。
私も組織という複雑怪奇なシステムを動かす立場にいながら、日常の些細なルーティン処理で頻繁にメモリエラーを起こす。数万行のコードの論理矛盾は見抜けても、傘をどこに置いたかという物理座標の記憶は揮発する。
足元の鳩を見下ろす。 彼もまた、群れというメインストリームから取り残された、愛すべきエラーなのだ。
そんな彼からpingを受け取ったが、あいにく米の一粒もない。
bytes=0「俺には何もないぞ」
心の中でそう送信してみる。 鳩は動じない。ただそこに居る。もしかすると、彼は餌(データ)が欲しいわけではなく、ただ隣でアイドリング状態を共有したかっただけなのかもしれない。
脳内のコンソール画面に、静かにログが流れる。
while True:
try:
if my_location == pigeon_location:
pass # 何もしない。ただ、ここにいる。そんな「無通信の同期」も、悪くない。 煙が尽きるまで、もう少しだけこのバグに付き合うか。

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