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サイズ直し

指輪を外した指に、
いつから何もなかったのか、
正確なところはもう思い出せない。

気づけばそのままになっていた。

理由ははっきりしているはずなのに、
それをあらためて言葉にすると、
かえって空々しくなる。

妻のサイズが合わなくなり、
妻が外した。

深い意味はなく、
それにあわせて外しただけだ。

それだけのことが、
少しずつ、習慣になっていった。

それから少したち、妻に尋ねられた。

「なんで指輪してへんの」

ほんの一言の問いに、妙に構えてしまった。

あのときの自分の機嫌や、
言い訳のような理屈はもう曖昧なのに、
口に出した言葉だけが、妙にくっきり残っている。

「そっちがしてないからや」

いかにも拗ねた、
大人げない返しだったと思う。

言った瞬間に、
それはわかっていた。

だから余計に、
訂正もできずにそのまま立ち尽くした。

妻は何も言わず、ただ視線を落とした。


結婚前、難波で二人一緒に
指輪を選んでいた頃のことを、
ときどき思い出す。

決めきれずに同じガラスケースの前を何度も行き来して、どちらともなく笑っていた時間。


今年に入り、妻がぽつりと切り出した。

「指輪のサイズ直しをしてもいい?」

少し間があった。

「ええよ」

それ以上、何も聞かなかった。


妻は一人で店に出向いた。

「時間がかかるらしい」

それから先のことは、
いちいち確かめなかった。

出来上がったら連絡が来る。

それで十分だった。


二ヶ月後、出来上がったと連絡があった。

それを受け取りに行く日に、
せっかくだから外で食事でも、
という話になった。

仕事帰りに、渋谷で合流することになった。

難波の街を歩いていた頃から、
ずいぶん遠くまで来た。


前の晩、引き出しの奥から指輪を取り出した。

久しぶりに指に通してみると、
少しきつくなったような気もしたが、
きちんとはまった。

外していた時間の長さのわりに、
違和感はなかった。

それが妙におかしかった。


翌日、待ち合わせの渋谷へ向かう。

人の流れに紛れながら、指先に意識がいく。

こんな感覚は、いつ以来だろうと思う。


妻は先に来ていた。

薬指に懐かしいリングが光る。

「お待たせ」

妻は笑った。


二人で歩き出す。

会話は途切れがちで、
それでも不自然ではなかった。

若い頃のように、
話すことで距離を埋める必要は、
もうない。


信号待ちで、ふと手が近づく。

そのままにしてもよかったし、
避けてもよかった。

結局、何も言わずに、
そのまま少しだけ手を寄せた。

青に変わったのを合図に、また歩き出す。

戻るというより、少しだけ重なり直した。


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