【映画】「オデュッセイア」感想・レビュー・解説

さて、みんな待望の超話題作で、クリストファー・ノーランの最新作である『オデュッセイア』。そりゃあ観ないわけにはいかないのだが、神話がベースになってる物語なので、観る前から「さすがに今回はあんまり楽しめないかなぁ」と思っていた。僕は映画を観る前の時点であらかじめ何かを調べたりしないし、本作を観る前も「オデュッセイア」の物語を予習したりもしなかった。

のだけど、やっぱり面白かったなぁ。冒頭からしばらくは情報量が多くて「うぉー、ついていけない」ってなったが、物語が「俺は帰るんだ!」的な感じなってからは結構面白くなっていった。クリストファー・ノーランだからもちろんCGじゃなくリアルな環境での撮影で、だから「よくもまあこんな映画が撮れたものだ」と感心しながら、「すごいねぇ」って感じで観ていた。

というわけでまずは、一切何も調べず、僕が映画を観て理解した範囲で内容の紹介をしてみよう。ちなみに僕は、IMAXとか特に興味はないので、通常のバージョンで観た。まあ、本作は「全編IMAXでの撮影」らしいので、IMAXバージョンを「通常版」と呼ぶべきなのかもしれないが。

物語は、イタケという国で毎晩のように開かれている宴の場面から始まる。王であるオデュッセウスが20年近く戻らず、未亡人のようになっている妻ペネルペの再婚相手だと称する面々が大挙して押し寄せているのだ。彼らの国には、「客人はもてなせ。神の変装かもしれないから」という「ゼウスの掟」が存在し、それ故に、タダ飯を食らいに来ているだけなのが明らかな連中にも食事を出さなければならないのだ。そんな宴が既に、3年も続いているという。

問題は、トロイア戦争に行ったきり戻ってこないオデュッセウスの生死である。息子テレマコスは現状を変えるべきだと考え、自ら王位を継ごうと思っているのだが、父親の生死がはっきりしないことにはどうにもならない。それに、母ペネルペは「夫は必ず戻ってくる」と信じており、だから求婚者たちに目もくれずに、王不在のイタケを守り抜いている。求婚者たちの蛮行は目に余るものがあり、オデュッセウスの忠臣で盲目のエウマイオスが可愛がっている老犬(元々はオデュッセウスから譲り受けたんだったか?)のアルゴスを酷く扱ったことに腹を立てたテレマコスが、ある求婚者に襲いかかるような場面もあった。その場は別の人物のとりなしでどうにか収まったが、テレマコスが怒りから事を荒立てると、それを口実に大量の求婚者たちが反旗を翻す恐れがあり、膠着状態が続いている。

そしてそんな日々の中、テレマコスは部下に「信頼できる者を集めて船を出す準備をしろ」と伝える。父の消息を調べようというのだ。とりあえずメネラオス王への謁見のため、スパルタ島へと向かう。

一方、ある島で美しい女性と2人で暮らしている男がいる。彼は記憶が朦朧としているようで、自分の存在やここまでやってきた来歴を思い出せない。そんな中で、覚えていることをその女性に語る。

彼こそ、オデュッセウスその人である。

彼らの軍は、かなり劣勢に立たされていたが、トロイの木馬の作戦によってトロイアの城内に潜入し、辛くも勝利を収めた。その後故郷へと帰ろうとしたが、忌々しい浜で10年も足止めを食らってしまう。その後故郷を目指して航海に出るが、その旅路は神々に阻まれる、苦労と犠牲の多いものだった……。

というような話です。これを書いた後、公式HPの内容紹介を見てみたけど、まあ大体外してはないかな。ちょっと違うところもあると思うけど。

というわけで、本作を観る前の時点では「トロイの木馬」ぐらいしか知らなかった僕でも、設定や物語は概ね理解できた。まあ、元の神話がそこまで複雑じゃないシンプルな物語だってのはあるかもしれないけど、それに加えて、クリストファー・ノーランによるストーリーテリングの上手さがあるんじゃないかなと思う。とはいえ、さっきも書いたけど、冒頭からしばらくは結構大変だった。知識ゼロで観る場合、情報量がかなり多い冒頭の展開は結構苦労するかも。

さて、本作を観ながら凄いなと思っていたのが、「SFっぽくなってない」という点。本作では、「様々な神々がオデュッセウス一行の航海等を阻む」という展開になり、で、その「神々」も色々出てくる。一つ目の怪物とか、ヤマタノオロチみたいな奴とか。また、「魔女的な女がムチャクチャする」とか「死者が生き返ったかのようになる」などなど、全然現実的ではない状況が色々と描かれるのだ。まあ、神話が元になってるわけで当然だが、しかし凄いのは、そんな非現実的な設定・描写がかなりふんだんに盛り込まれているのに、SF・ファンタジーチックな雰囲気になっていなかったことである。

というかむしろ、そういう物語でありながら、最初から最後まで凄くリアルな物語に感じられた。これはホント、魔法みたいだったなと思う。何がどうしてそうなってるのか、よく分からない。

まあそもそも、本作の物語の舞台は大分昔なわけで、日本だって「卑弥呼の時代にはヤマタノオロチぐらいいたんじゃない?」的なことを許容できるぐらいの「心理的遠さ」がある気がするし、それは本作の物語でも同じだと思う。けど、それはそれとして、やはり「映像にした場合」はまた違うんじゃないかなと思う。文字なり音声なりで物語を受け取る場合、自分の頭の中でいかようにもバランスを調整できるが、「これ」という形で映像として提示する場合には、「その映像がリアルっぽいかどうか」みたいな判断がされてしまう。で、本作のような物語の場合、映像的にリアルさを打ち出すのは相当困難じゃないかなと思うのだ。

でも本作では、凄くリアルな映像になっていたと思う。映像の作り方としては、「これはSF・ファンタジーの世界なんです」みたいなことをまずバーンと打ち出しちゃう(魔法が使えます、とか)ことで、その後どういう描写を持ってきても違和感を覚えにくくさせる、みたいなやり方があると思うけど、本作はもちろんそんなことをしているわけではない(冒頭で「一見、魔法のような時代」という字幕は出るが)。ずっとリアルな世界観の中に、突然一つ目の怪物が出てきたりするのだ。それでもリアルさが失われないというのはホント、どういう魔法を使ってるのか謎すぎる。本作において僕は、この点が一番不思議だった。

で、本作のメインの物語がその「神々の抵抗を受けながら故郷へ戻る」という部分なのだが、その旅路の中でオデュッセウスは、「統率者としての有能さ」みたいなものを色々を見せていく。それも物語的に面白い部分だろうと思う。

色々よく分からないところはあったが、オデュッセウスは「予言」が聞こえたり、あるいは部下から反乱を起こされたりしていた。オデュッセウスは部下と度々対立していて、部下側にも色んな不満があったようだが、観客視点では、オデュッセウスはとにかく「1人でも多くの部下と共に故郷に戻りたかった」のだろうなという感じがする。だから時に厳しいことを言ったり、時に理不尽な振る舞いをしたりするのだが、オデュッセウスのスタンスは一貫している感じがしたし、彼が多くの人に慕われる理由は分かる感じがするなと思った。

そしてだから、物語のラスト、まさに「大団円!」って感じの場面でも、そんな彼への信頼感みたいなものが状況を決した感じがあるし、その点に納得感が生まれていたよなとも思った。

あと、個人的に「確かになぁ」と思ったのが「トロイの木馬」の話。トロイの木馬の作戦って、あんまり具体的にイメージして考えたことなかったけど、本作ではそれをかなりリアルに描いてて、「なるほど、確かにそんな状況になるよなぁ」と思った。ただやっぱり、神話のことはよく分からないから、冒頭で木馬の前にいた男が敵兵に「アテナへの捧げ物です」って言っただけで、「よし、じゃあこれを持って帰ろう!」ってなったのかはよく分からないのだけど。要らんやろ、あんなデカい木馬。重いし。

あと、よく分からないと言えば、相変わらず「どうやって撮ったんだろうなぁ」と思うような映像はある。本作は、さすがにCGを使ってないとは思えないが(ヤマタノオロチみたいなやつはCGで描くしかなくない?)、クリストファー・ノーランだから極力CGは使わずに描いただろう。で、その場合、「一つ目の巨人」と「ちょっとデカい兵士の大群」が謎だったなぁ。一つ目の巨人は実際に人間が演じてるだろうけど、メイキングを観ると、実際に存在する洞窟で撮ってるらしいから、その環境でどうやって撮るだろうなぁ、と思った。

あと、「人間よりちょっとデカい兵士」が大挙して襲ってくるシーンがあるのだけど、あれも地味に撮影が難しい気がするんだよなぁ。身長2.5mぐらいありそうな甲冑兵士がいっぱいいるんだけど、どうやって撮ってるんだろう。

役者で言えば、そりゃあ凄い人たちが集結してるんだろうけど、個人的には、割と終盤で「ミア・ゴスじゃん」って気づいて、ミア・ゴスが割と端役なんだなぁ、ってことに驚いたりしてた。そんなド級の俳優たちを世界中あちこち連れ回して撮影してるんだから、そりゃあ凄まじいスケールだよなぁ。

というわけで、感想として書けることはそう多くないのだけど、「映画を観る体験」としてはやっぱりちょっと凄まじいものがあったなと思う。クリストファー・ノーランの場合、「これをほぼCG無しで撮ってるんだよなぁ」というメタ情報込みで凄さを感じている部分はある。映画の鑑賞の仕方としてそれが良いかはともかく、クリストファー・ノーランのそのブランディングは個人的には大成功していると思う。本作の場合特に、海やら島やら崖・洞窟といった大自然を舞台に撮ってるわけで、より一層「リアルな環境での撮影」が困難だっただろうと予想できる。「その困難を乗り越えた上でこの映像が撮れてるんだよなぁ」という、一歩引いた視点からの衝撃も加味される部分があって、やっぱり凄い監督だなと思う。172分と『国宝』とほぼ同じぐらい(『急に具合が悪くなる』よりは短い)だが、正直全然長さを感じなかった。「映画は映画館で観ろよ」みたいなことは別に思わないタイプだが、本作は、その圧倒的な映像を体験するのに、映画館で観た方がいいんじゃないかなと思う。


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