【映画】「左利きの少女」感想・レビュー・解説

これは面白い映画だったなぁ。ストーリー単体で取り出したら正直破綻してるっていうか、「は?」って感じになるような気がするんだけど、とにかく登場人物たち(というか、主人公家族の3人)が魅力的で、その魅力で最後まで観れちゃったという感じの映画だった。

しかしホントに、終盤に至るまで「この話、一体何がどうなるんだ?」みたいに思っていた。全然繋がらなそうな要素が次々と出てきてはとっ散らかったままどんどん時間が進んでいくからだ。その間も、登場人物たちの魅力が抜群だったから全然楽しく観れてたんだけど、ストーリーを重視する僕としては「今この話、どこに向かってるわけ?」って感じだった。

なにせ本作においては、予告でも押し出されていたが、「主人公の少女が『悪魔の左手』で万引きをする」というシーンが結構あるのだが、これがホントに、物語の中で浮いてるのだ。かなり終盤になるまで、これが一体どう関わってくるのか全然分からない。

で、別に最後まで観たところで、「なるほど、今まで出てきたあらゆる要素は全部ここに集約されて回収されるんだね」みたいには別にならない。最終盤の大きな展開の場面はかなりカオス的に進んでいくので、そういうカオティックな雰囲気に流されて「ま、いっか」みたいになるような物語だと思う。

なのだけど、面白かったなぁ。ストーリー重視の僕は、基本的にストーリーが面白くないと楽しめないのだが、たまにこういう「ストーリーがちゃんとしてるわけじゃないのに惹きつけられちゃう映画」に出会うことがあって、それはそれで面白い。

でだな、そんな映画だから正直、内容とか物語とかに言及することがあんまりないんだよなぁ。とは思うのだが、とりあえず内容だけは紹介しておこう。

主人公のイージン(5歳)は、シングルマザーのシューフェンと、20歳ぐらいの姉イーアンの3人で暮らしている。彼女たちは元々田舎町にいたらしいが、台北に戻ってきた。母は夜市のスペースを借りて麺料理の屋台を始める。元夫(だと思う)の借金を長年返し続けているようで、生活のためになんとか稼がなければならないのだ。

姉のイーアンは、何だかよく分からないが違法っぽい店で働いている。店のオーナーと恋仲のようだ。昔台北にいた頃に通っていた高校では、トップ3に入るほどの成績だったようで(偶然再会したかつての同級生に誘われてパーティーに参加する場面がある)、その美貌も相まってだろう、「女神」と呼ばれていたみたいだ。しかし、金銭的な問題もかなり大きかったのだろう、イーアンは結局高校を中退したみたいだ。もちろん、大学にも通っていない。

そしてそんな2人や、シューフェンの両親などと関わる日々を、5歳のイージン目線で映し出していく。

さて、イージンは祖父母の家に行った時に、左手でご飯を食べていることを祖父に咎められた。「左手は悪魔の手」だというのだ。台湾で昔から言われていた迷信らしく、今ではそんなこと誰も気にしないのだが、祖父だけはイージンに会う度に左手のことを言われ続ける。

それでイージンは、「『悪魔の手』が悪いんだ」ということにして、夜市の様々な店で万引きを繰り返すことになるのだが……。

というような話です。

と、ざっくり内容を紹介してみたが、本作にはまあ色んな要素がポンポン出てくる。他にも、「賃料の督促」「隣の屋台の店主との恋仲」「ミーアキャット」「妊娠」「密入国」「姉妹喧嘩」「彼氏の妻とのバトル」などなどである。で、これらが何の脈絡も無いような雰囲気で出てくる。しかも、場面によっては3つの展開が凄まじいテンポの場面転換を繰り返しながら進んでいくような場面もある。

で、それらが全然繋がるような感じがしない。まあ、先程も書いた通り、別に最後まで観ても全部が繋がるわけではないのだけど。

そんなわけで、ストーリー的にはホントに意味不明だったし、ラストのカオティックな状況に至ってようやくある程度まとまりは見えてくるものの、でも結局最後まで観ても「何だったんだこれ?」となる。

でもホントに、そういう困惑を意識させないぐらいキャラクターが魅力的で、ホント素晴らしかった。

とにかくまずは、イージンを演じたニーナ・イエが素晴らしかったなぁ。公式HPの記述をまるっとコピペしてみよう。

【2016年4月19日、台湾出身の子役俳優。3歳より活動をはじめ、台湾のCMなどで「見ない日はない」と言われるほどの売れっ子。本作出演時は6歳だった。母親が演技コーチをしている関係もあり、あまりに自然な演技で監督を驚嘆させたという。本作を通じて国際的な舞台に立ち、今後は台湾のドラマ・映画のみならず、より広いジャンルでの活躍が期待されている。】

演技の上手さを評価できるほど演技のことは詳しくないが、メチャクチャ上手いなと思った。本作においてイージンは、「何も知らないんだけど、知り得た断片的な事実や知識を踏まえて、周りがちょっとビックリするようなことをしちゃう」という感じの振る舞いをよくするのだが、そういう雰囲気が絶妙だった。

あとは、泣いたり笑ったり澄ましたりみたいな感じもどれも良かったし、万引きしてるシーンも、バックで祭りのお囃子みたいな音楽が流れていることも関係しているかもしれないが、罪悪感を1ミリも感じさせないような清々しさでやっていて、その雰囲気も凄く良かったんだよなぁ。

とにかく、イージンが画面に出てればストーリーが無くても破綻していても画としては保つ、みたいな感覚がかなり強くて、なかなか凄かった。なかなか子役にうぉっ!となることはないのだが、覚えている限りでは、白鳥玉季以来って感じかな。

で、イーアンを演じたマー・シーユエンもメチャクチャ良かった。同じく公式HPの記述をまるっとコピペしよう。

【2000年、台湾出身。ミュージックビデオからキャリアをスタート。日本でも配信しているドラマ「此の時、この瞬間に」 (23)に端役で出演したが、『左利きの少女』が初の本格的な演技経験となる。ツォウ監督の目に留まったインスタグラムでイーアン役に大抜擢、いきなり金馬奨で新人俳優賞を獲得、ストックホルム国際映画祭で最優秀女優賞を受賞するという快挙を成し遂げた。ほかの出演作に「最初の花の香りシーズン2」(25)など。】

本作が演技ほぼ初ぐらいの感じらしいが、マジで全然そんなふうに感じさせない堂々とした雰囲気がメチャクチャ良かった。で、本作では違法な店で客の相手をする時以外はほぼ笑顔を見せないのだが、そんな無表情の顔が結構キツめの印象で、それがイーアンのキャラクターにマジでピッタリという感じである。いやホント、この人の顔メチャクチャ良いなと思う。睨んだり苛ついたりする顔がマジでメチャクチャナチュラルで、ヒコロヒーみたいなヤサグレ感が自然に備わってるみたいな感じだろうか。いや、これは褒め言葉になってるのか分からないが、褒めてるつもりだ。

あとは、このマー・シーユエンはスタイルが良すぎてビビった。「細い」というより「薄い」みたいな印象で、しかも本作では割とそういうスタイルをより強調するような服装で出てくることが多いので余計にインパクトがある。あんまり顔だとかスタイルだとかに言及すべきじゃないかもだけど、彼女の場合、そういう要素も含めてイーアン役にハマりにハマっていた感じがあったから、そういう部分もとにかく「凄く良かったなと思う。「

で、母シューフェン役のジャネル・ツァイ。この人、たぶんメチャクチャ奇麗な人だと思うんだけど、本作においては最初から最後まで死んだような顔をしてて、で、その感じが凄く良かったんだよなぁ。前に観た映画『あしたの少女』に出てきたペ・ドゥナが終始死んだような顔をしていたのに魅力的だったのを思い出した。

シューフェンはホントに色んなことを一人で抱えながら生きている。親や妹たちからは「現実を見なさい」と積極されるが、彼女には恐らく自分なりの美学(というか、メンツだろう)があるはずで、だから、隣の屋台の店主(明らかにシューフェンに気がある)から「積立金が戻ってくるけど使い道がないから貸せるよ」と提案されても、「お金は自分でなんとかする」と突っぱねてしまう。

で、そんな母シューフェンと姉イーアンの仲がとにかく悪い。なんとなく「これまで色々あったんだろうなぁ」ということは分かるし、また最後まで観ると「なるほど、それならそういう感じにもなるか」と余計に思うのだけど、顔を合わせれば喧嘩ばかりみたいな状態でギスギスしている。イージンが間に入るからなんとなくバランスが保たれているだけで、家族としては結構末期的な状況だよなと思う。

なのだけど、とにかく色んなことがカオティックに起こって、で、限界まで関係値が悪化した後、2人は仲直り的な感じになるのだけど、僕はこのシーンが結構好きなんだよなぁ。ホントに最後の最後のシーンだけど書いちゃおう。

シューフェンがやっている麺料理屋ではバイト(だろう)を雇っていて、基本的に彼女と母が切り盛りしているのだが、色んな事情で手が足りない時にはイーアンに手伝ってもらうこともある。が、イーアンは麺料理屋なんかやる気はないし、最低限のことだけやって後はバイトに何か言われたら手を動かす、そして母親が来たら無言で帰る、みたいな感じだった。

のだけど、ラストシーンでは違う。イーアンが店にやってきて、母から「何しにきたの?」と言われた時に、彼女が「手伝おうと思って」と答えるのだ。でそれ以上のやり取りはないまま、「これで仲直りね」的な雰囲気になる。

僕は、たぶん女性同士でしか成立しないだろうなと思うこの感じが凄く好きだ。

小説でも映画でも時々出てくるが、「険悪だった女性同士が、直接的に謝ったりしないまま、何かのきっかけを得て仲直りする」みたいな状況が僕は凄く良いなと思う。これってたぶん凄く高度なコミュニケーションがなされていて、「相手はたぶん仲直りしたいと思ってるよな」「今このタイミングならきっと大丈夫だろうな」「『ごめん』みたいなことを言ったら大げさな感じになっちゃうよな」みたいなことをお互いに考えていて、阿吽の呼吸みたいな感じで元の感じに戻っていく、みたいなのは、なんか凄くリアルに思える(まあ僕は男なのでリアルかどうかの判断は出来ないが)。

本作でもホントに、「手伝おうと思って」っていう言葉にありとあらゆる意味が内包されていて、それを受け取る側も理解しているということが伝わってくるし、そういう感じはなんか凄く羨ましく思える。

まあそんなわけで、僕の感想を読んでもどんな映画なのかさっぱり理解できないと思うが、とにかくキャラクターの魅力が凄まじく強い作品で、正直それだけで全然観れちゃう作品である。あまり期待していなかったのだが、これは観て良かったなぁ。

で最後に。公式HPを観て驚いたのが、本作はiPhoneを駆使して撮られたらしいということ。実際観ながら、「なんかいつも観てる映画となんか映像が違うな」と感じていたのだが、たぶんiPhoneで撮ってたからなのだろう。室内よりも屋外のシーンで違いを感じることが多かったように思う。映像の良し悪しは分からないし、iPhoneで撮ったことがプラスに働いているのかも判断できないが、そういう部分に注目して観てみるのもいいかもしれない。


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