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音綴り #2:earfood

初めてブルーノート東京に私が行ったのは、数日前に誕生日を迎えたばかりの2017年9月28日、RH FACTORのライブだった。会場に慣れないことだらけの中、強烈に覚えているのは、ロイの登場で場の空気が一瞬で変わったことと、最初の楽器調整をしていると思うやいなやで、すぐにパフォーマンスが始まったのだが、共演者たちの息の合い方のすごさに圧巻されたということだった。今でも時々思い出すが、唯一無二の場だったなと常々思う。この約一年後に彼の訃報を聞いたときは、実感できないほどだった。忘れたくない記憶の一ページになっている。

思い入れがある分、余談が長くなってしまったが、アルバム情報へ移ろう。
2008年発売となった、Roy Hargrove Quintetでの作品となる。この年、ジャズジャンルでグラミーノミネートされるといった快挙も達成しているアルバムである。
参加陣は、
アルトサックス・フルートのジャスティンロビンソン ★
ベースのダントンボラー
ドラムのモンテスコールマン
ピアノのジェラルドクレイトン ▲
トランペット・フリューゲルホルンのロイハーグローブ
以上のアーティスト陣で収録曲を演奏している。
レコーディングスタジオの少し緊張に似たヒリついた空気感を随所感じるが、一気に奏でられるのは、正統派ジャズの王道たる音圧だけでない、繊細なバラードのようなサウンドと、ロイの得意とするR&Bを彷彿させる、グルービーでアコースティックなメロディーとで抜けがない骨太な作りのアルバムになっている。その境地たるや至高。

アルバム構成は、
ロイのオリジナルトラックと、ジャズ定番のナンバーとがバランスよく配置されている。
一曲目 I'm Not So Sure 
所々で聞こえてくるファンキーなリフがスパイスのような役割をしているなかで、ぶっちぎっていくのはロイのトランペット。誰も彼を追い越せない、影を追って気づいたころに漂うジェラルドのピアノの旋律がいい味を出している。
二曲目 Brown 
こちらはロイのオリジナル曲となっており、前曲に対してのクールダウンのような存在。しかし、演奏者たちの実力を静かな旋律にのせてじわりと感じ取れる仕上がりになっている。ここでのロイのサイレンサーをつけたトランペットも渋い…。
三曲目 Strasbourg/St. Dennis
名プレイヤーたちのプレイグラウンド。聴いているだけでリズムウキウキ、心ドキドキ、ワクワクー♪
四曲目 Starmaker 
サックス奏者ルー・マリーニのカバーであるこの曲の本質は、ベースとなるメロディーにある。また、ロイももちろんながら、★(ジャスティン)のソロが逸品。
五曲目 Joy is Sorrow Unmasked 
マイルスデイビスのバースオブザクール内にある、ムーンドリームスのフレーズを思わせるのは、このメロディーラインにあるのだと思う。聴いていて心地の良いベッドやソファーにもたれかかって、ハーゲンダッツを味わいながらゆっくりと時間を過ごしているような錯覚を覚えるのは私だけだろうか…。
六曲目 The Stinger 
どことなく、鉄板なジャズを思わせる一曲。もし、ジャズジャンルで捉えてこのアルバムを聴くのであれば、これが一番しっくりくるのではないか。とにかく、各楽器の演奏者の上手さたるや…。
七曲目 Rouge 
息抜き。それがとても上品。まるでプレモル(表現が安いんだよ…)。
八曲目 Mr.Clean 
エレクトロニクスマイルスの名盤、ビッチェズブリューを彷彿とさせるナンバー。一つのアルバムで色んなテイストの音楽を楽しめることはいいことだなと再確認出来るだけでない、とんでもない出来の曲。
九曲目 Style 
こちらもパワフルなナンバー。ロイのオリジナル曲ということもあってか、ロイのソロパートがすごく映える曲になっていて、所々の音拍が変調になってまた戻ってとなる遊び方が恐ろしくかっこよく感じるナンバー。
ここまで上手になるには、いや、遊んでいるように楽しむには、どれぐらいの場数を踏んで来ているのだろうか。尊敬。
十曲目 Divine 
一風変わって、哀愁漂うメロディーからスタートする。四曲目のStarmakerでも感じたのだが、▲(ジェラルド)のピアノが散りばめてあるシーンは、何回も聴き返すぐらい上手い。特に、彼のここで出てくる指一本一本からあふれ出てくる感情にも似た繊細な旋律はもう止まらない。
十一曲目 To Wisdom the Prize
グルービーな仕上がりの一曲。各楽器の良さ、力量をぶつけ合ってなお、上手く調和を取っている作品である。なんとなくなのだが、ロイがみんなを信じているからこそ、こういう小難しいのに綺麗にまとまった曲が出来るのだとも思う。
十二曲目 Speak Low
元々は、オペラの中の挿入歌として誕生した、クルトヴァイル作曲のナンバー。今ではジャズの定番ナンバーとしてもしているこちら。
語彙力がなくて、大変申し訳ないのだが、これやばい。
一言のほうが簡潔でしっくりくるだろう、「至高」。
再生ボタンをポチっとしてみてほしい。
十三曲目 Bring It On Home to Me
ソウルやゴスペルジャンルのR&B歌手として有名な、サムクック原曲のこの曲。これだけはライブ音源となっている。アルバムのトリを飾るというだけあって、演奏者達の息の合い方から、各ソロパートの熱演までもが外せない有終の美を飾るエンディングソングとなっている。

以上の構成となっている。

ダレオマエの考察
私自身、何回もこのアルバムをプレイし、その度思うのは、このアルバムは、「静と動」の教本的な存在であると感じる。みんなで合わせる区間での役割分けというのだろうか、出るところでは出て、抑えるところはしっかり支えるようなプレイヤーたちのスタイルは各々の力量がかなっているからこそ成し得る区間の連続を感じ取れる。それと同時に、各曲でのプレーヤーたちのソロプレイの区間は、ぽかんと口を開けている間に進んでいってしまうほど、よく出来ている。特に、四曲目 Starmakerと、十曲目 Divineでの▲(ジェラルド)のソロや、往年のメンバーである★(ジャスティン)のしっかり支える姿勢を見せつつ、ソロになったとたん違う表情を見せるプレイスタイルは、唯一無二であると思う。

最後にアルバムを通して
ロイがこのアルバムを作るうえで、作り込み過ぎないシンプルなメロディーに重点を置くということを大切にしたというインタビューの内容があった。本当にその通りだと思う。アルバムのジャンルは、ジャズのハードバップのジャンルとなっているが、ロイが得意とする様々なジャンルをメロディーやアプローチで匂わせる。孤高の狼、ロイハーグローブを思い偲んで。

是非、皆さんのお耳の肥やし(earfood)になってほしいと思う。
百聞は一聴にしかず。 040525

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