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言い訳の先にあるもの 第一話 「俺のせいじゃない」

「これ、どういうことですか?」

営業部の佐藤課長が、
机の上に一枚の注文書を置いた。

私は画面から顔を上げた。

「どういうことって?」

「納期、間に合わないですよね?」

注文書には、納期が今週金曜日と書かれている。

私は一瞬だけ黙った。

「いや……そもそも、
この注文が入ったのが遅かったんですよ」

「でも、注文を受けたのは先週ですよね?」

「そうです。でも、
お客さんから正式な仕様が来たのは、
その二日後です」

私はすぐに説明を続けた。

「それに、仕入先からの回答も遅かった。
こちらから何度も催促しています。
それと、昨日になって仕様変更もありましたから」

佐藤課長は何も言わなかった。

私は少し安心した。

ちゃんと事情を説明できた。

これで分かってもらえる。

「だから、今回の件は私だけの問題じゃないですよ」

そう言って、注文書を課長のほうへ戻した。

課長はそれを受け取りながら、
小さくため息をついた。

「分かっていますよ」

「ですよね」

「事情があることは分かっています」

そう言ってから、課長は少し間を置いた。

「でも、
納期が間に合わないことは変わらないですよね」

私は返事をしなかった。

課長は注文書を持って、そのまま席を離れた。

私はパソコンの画面を見ながら思った。

――なんで俺が責められなきゃいけないんだ。

確かに、私にも確認不足はあったかもしれない。

でも、全部が私のせいではない。

むしろ、周りの対応がもう少し早ければ、
こんなことにはならなかった。

そう考えると、少し気持ちが楽になった。

昼休みになり、
私はいつものように社員食堂へ向かった。

隣の席に座った山本が言った。

「朝、課長に怒られてましたね」

「怒られてないよ。事情を説明していただけ」

「そうなんですか?」

「そう。そもそも、
あれは俺だけの責任じゃないから」

山本は「そうですよね」と笑った。

私は、その言葉を聞いて、また少し安心した。

午後になって、仕入先からメールが届いた。

納期について、
こちらの希望には応えられないという内容だった。

私はすぐに返信を書いた。

「先方の回答が遅かったため、納期調整が必要です」

送信ボタンを押して、ふと思った。

――また、「先方のせい」にしている。

でも、それ以上は考えなかった。

事実なのだから仕方がない。

私はそう思った。

その日の帰り道、駅まで歩きながら、
今日一日のことを振り返った。

課長。

お客さん。

仕入先。

仕様変更。

どれも自分ではどうにもならないことばかり
だった。

「俺のせいじゃない」

口には出さなかったが、
頭の中で何度も繰り返した。

その言葉を繰り返すたびに、
胸の中が少し軽くなる。

だから私は、気づかなかった。

その言葉が自分を守ってくれているのと同時に、

自分から変わる理由まで奪っていることを。


次は
第二話 「事情があります」
です。

谷中万世(やなかまんせい)
通称 やなまん

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