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帰郷

(上の写真は東北へ向かう東京駅の新幹線のホームから撮った東京の青空)

春節を迎え、民族大移動。息子を従え、我ら二人は日本に一時帰国する。月曜日の飛行機でした。その前日、例によって例の如く不眠気味だった自分。ぼーっとした頭で朝起きて、用意をしてから息子を起こす。朝の6時15分頃には出たかった。フェリー乗り場に6時45分までに着きたかった。7時45分の香港空港行きの船に乗るからです。

休みに入っても、ちまちまスケジューリングをする私。こういう性格なの。しょうがない。

しかし、息子が起きてもしばし起動不能である。

「こら、起きろ。動け」
「起きてる」
「起きて、は、いるな。しかし、動け!」

まんまと6時半過ぎにやっと下へ、それからが恐怖の時間である。

「あああー!タクシーが来ないぃいい」
「……」

民族大移動であるし、早朝であるし、滴滴ディーディー(中国の配車アプリ)で呼んでも、タクシーが来ないっ!

「来ないぃいいいい」

寝不足であるため、普段の1.5倍で挙動不審である。
お前が、起こしてもちゃっちゃと動かないから、お前が、起こしてもちゃっちゃと動かないから、からの

「お前が、起こしてもちゃっちゃと動かないから」

声に出して息子にクレーム。からの

「地下鉄?」

30分かかる。あかん!船の1時間前には着きたいのに。その時、滴滴の画面をよく見ると、なんかあまり見たことのないボタンが現れている。押してみた。すると、ここまで来るのにに15分かかるがタクシーが捕まった。

「見つかった!」
「見つかったの?」

滴滴って、普通は近場のタクシーしか拾わない。普通は近場にタクシーがないなんてことはないから、遠い所のタクシーを呼ぶ時に秘密のボタンが出てくるなんて知らなかった。

とりあえず、タクシーに乗れた。しかし、その時点で6時40分でした。

「お前がちゃっちゃと起きないから」
「しつこいな」

私、飛行機に乗り遅れることが、とっても怖いんです。特に、コロナ後にどうも、このパニック傾向が強くなっちゃって。だから早め早めに動きたいのに、我が息子が男のくせに着替えに時間がかかったから!

「いっつもだとお父さんが送ってくれるからこんなことなかったね」
「そうだねぇ、お父さんがいないと大変だね」

主人と姑は水曜日に我々に先んだって安徽へ旅立ってゆきました。珍しい母と息子の二人の生活、焼きそば焼いたり、カレー作ったり、洗濯したり……。連休前の仕事も忙しい時に楽しいけど大変だった。水曜日から日曜日までの間に、おばあちゃんいないと大変だね、というセリフは何度か出てきましたが、出発のこの時まで お父さんがいないと大変だね というセリフは出てきませんでした。しかし、最後の最後におまけで出てきたな。

それにしても、滴滴のあのボタンに気づいて押さなかったらどうなってたんだろう?

私、飛行機に乗り遅れるのがとっても怖いんです。寝不足気味だったからこの時、いつもに輪をかけてちょっとしたきっかけでパニックになる状態に陥っておりました。

結局、港には6時53分には着いた。予定より8分遅れただけ、全然余裕でした。本当に計画通りに進まないとすぐにパニックになる自分の性格が恨めしい。私は毎朝、ケセラセラを歌って目覚めた方がいい性格だ。

そして、最初、どないなるかと思ったトリップも順調に滑り出した。

「さっきは、イライラしてごめんよ。昨日の夜ちゃんと寝られなかったんだよ」
「そなの?」

息子にも律儀に謝った後、無事船に乗って空港に着く。朝ごはんは息子に天ぷらうどんを食べさせて、私はおにぎりでした。それから、ゲートへゆく。着いたらもう搭乗が始まってたので列に並びました。順調に飛行機の後方に収まり、息子が座席のモニターを開ける。彼は飛行機で運行マップを見るのが好きなので、まずそれを開きます。

「お母さん、なんか台北ってなってるんだけど」
「え、でも、ちゃんと成田って入り口では書いてあったよ」

キャセも、あれか?サイバー攻撃でも喰らって、システム障害か?念のため、チケットを取り出してみる。

「ほら、成田だ」
「でも、台北って書いてあるよ」
「でも、入口では成田だ。成田行きのチケットで全部、ピッとやってきた。それなのに台北になど連れていかれるわけがない」

それで、おとなしく座席に収まる。息子は何の映画を見ようかとモニターをいじり出した。私もいじり出したのだが、しかし、海で、岸に波が打ち寄せるように、ヒタヒタと打ち寄せるものがある。

台北、台北、キヒヒヒヒ……(→心の中で響く悪魔の声)

そして、機長のアナウンス、英語で流れる。くそ。中国語で話せよ。英語は忘れたぞっと。しかし、聞き取る。タイペイ……
タイペイ?タイペイっつったぞ、オメー!
母、立ち上がる。

「おねえさーん」

通路の前で、離陸直前のチェックをしている客室乗務員のお姉さんに追い縋る。

「私たち、東京、成田、でも、台北、ホワーイ?」
「え、あなたたち、東京へ行くんですか?これは台北行きです」

ゴオオオオオオン!

「え、じゃあ、降りなきゃ」
「ウェイト ア ミニット。カム ウィズ ミー」
「荷物 持って?」

完全にパニックになり、(寝不足の上、普段からビビリの上、朝すでにタクシーが来ないことでパニックの下地ができていた)息子のいる席まで駆け戻り、マッツァオな顔で、

「ちょ、荷物出せ、降りるぞ」
「え?」

すると、美人なお姉さんが追いかけてくる。後からわかったが、この人新人さんだった。だから、就航予定をよくわかってなかったんです。

「ノーノーノー」
「え、荷物いらないの?」

なんせ、機長があの、本日は快晴で、今日は僕が飛行機を運転しちゃうよんというアナウンスをしたということは、まぢで、離陸直前。台北なんか行ってたまるか、わしゃ、東京にホテルとっとるねんって話である。さっさと降りないと。完全にパニックになっていた。

「カム、ウィズ ミー」
「はい」

おとなしく着いていく。自分はもうまな板の上にのった鯛である。本来であれば姿焼きになるはずだったが、こうなったら刺身になって台北に届けられてもしょうがない。春節は、台北で過ごすか?日本で家族待ってるけどぉ?刺身になる覚悟を持って新人乗務員の後ろにちまちまと着いていくと、ベテラン乗務員は私のチケットを見るまでもなくこういった。

「トランジットです」
「え?」
「台北でトランジットして、成田になります」
「え、そんなんかってないけど?」

そこでベテラン乗務員はもう一度、その菩薩のように綺麗だけど冷たい顔でじっとチケットを見る。

「トランジットです」
「はぁ」

新人の方がもう少し愛想良く私に呼びかける。

「トランジットでチケット購入されていませんか?」
「いや、買ってない」
「……」

菩薩の冷たい顔を見るうちに、ふと疑問が湧く。
……買って、ないのか?

「ま、でも、トランジットで成田に着くのね?」
「はい」
「わかりました」

そして、座席に戻る。息子が微妙な顔で私を見る。

「トランジットだ」
「は?」
「いや、きっと何かの間違いでトランジットになったんだよ」

そして、春節の民族大移動で最初は直通だったチケットがトランジットに切り替えられた説をとうとうと話した。
しかし、待てよ?記憶を辿る。
最初っから、10時香港発、16時50分成田着のチケットだった。これでいいやと選んだ。でも、よく考えたら普通は10時に出たら、15時には着く。2時間多かったやんけ。

「間違ってトランジット買ってたかも」
「は?なんで?」
「いや、さりげな長さでトランジット選んでるって気づいていなかったかも」
「はぁ?」

本当にさりげな長さだった。確かに中国から日本みたいな短い距離でも、トランジットチケットはある。べらぼうに安く、しかしべらぼうに長い時間がかかるチケットで、通常は10時間前後かかるのです。我々は一時帰国の時だけは贅沢をすることにしてるので、トランジットも格安航空も使いません。しかし、さりげにしれっと二時間マシマシのトランジットはあまり見かけたことがなかったので……

結局、薬局、自分でボケッとトランジットチケットを買っていたのだった!

「この、失われた二時間を返せ」
「きゃー」

我が家の王子様に脇腹を攻撃されながら、我々は台北経由で成田に入った!

「二時間のお詫びに蟹をご馳走しませう」
「蟹?」

再三の脇腹攻撃に参った私は、蟹でごまかした。それから成田から東京駅へゆく高速バスの切符を買う。

「3100円ですけどいいですか?」

色の浅黒い東南アジア系のお兄さんが、この切符は高いなと思いながら他の交通機関使った方がいいんじゃないのという目で私に切符を売っている。

「大丈夫です」

そうだよね、これ、高いよね。リムジンバス。
しかし、便数が多くて移動時間も比較的短く、また何よりホテルから近いところに止まるから便利なのよ。それにしても給料もらっているところが儲かるように仕事をしなね。お兄ちゃん。

「二時間、返せ!」
「あう」

それにしても、我が家の息子は一人っ子ですし、このリムジンバスが他の交通機関に比べて高いとかわからずに使っているのだよなと思ふ。母はせっせと働き、君の学費を払い、穏やかに勉強しろと言い毎回無視され、たった二時間長く飛行機にのったせいで蟹をご馳走することになり、当たり前のように君はリムジンバスにどかっと座るのだな、どかっと。おい、このバスは3100円だぞっと。

それから、母、蟹をご馳走すると約束したので、東京駅近辺のカニ料理屋を調べる。結論から言うと、東京駅近辺はもはや銀座なので、庶民のカニ屋はほとんどなくて、いわゆる料亭だったぜ。そんなん予約しないといけんだろ。いきなり入って食えんだろ。ま、でも、どれどれ……

これがよ、表紙は 1万円って書いてあるんだ。ところがよく見ると、1万円〜である。 〜 →この記号重要です。で、口コミを見た。

『家族4人で行って、16万円使いました』

ねーわー!

ここからである。バスが東京駅に着くまでに、フルで検索調査しまくった。傍でそういえばこの前、チコちゃんでなぜかにが高いのかをやってたよ。養殖できねんだよ。共食いするからよー。くそー、カニー!

それで、ようやく 庶民的なカニのお店を見つけました。ホテルからも近い。口コミを見ると、結構人気店なので予約した方がいい。じゃ、ホテルに着いて電話して入れるか聞いてからいくか。

ホテルに行きました。電話しました。
……誰も電話に出ません。
Googleマップを見る。営業時間外。あ……。
定休日でしたーーーー。

「かには、帰りにしましょう」
「ん?」
「今日は寿司いくか?」
「いーよー」

Wi-Fiが繋がるところでは3割ましで穏やかな人間になる彼。ちなみにホテルも部屋は割と広く大浴場もあるというなかなか当たりな宿だった。今回はホテルスーパープレミア八重洲に泊まっております。ただね、部屋も広めを取りました。一番安いところを取ったわけではない。母は、努力しております。コツコツ働いて、だからこそのちょっと広い、部屋なのよー!
もちろん、子供なんてそんなんよくわかってないのよ。クー

ちゃう。そやない。ここはしれっと銀座に近い。ふらっとそこらの寿司屋に入ってみろ、それこそ一晩のホテル代以上の請求が来るぜ!

それで、今度はフルで近辺の寿司屋を検索する。やはり庶民的なところだ。

 

升寿司 八重洲本店にて

路地裏にあり、居酒屋と居酒屋の間にあるようなこぢんまりとした二階建ての店構えで、このお店自体も寿司と一緒にお酒を飲める店でした。自分は高級店が嫌いというわけでもないんですが、雰囲気を求めてものを食べる人でもないですから、むしろガヤガヤしたお店が結構好きです。当日のコースを二種類頼み、たくさんくるお値段が高い方を息子に低い方を自分にあてる。それで、酒を頼む。ここの店、本当にお酒の種類が多かった。ビール、ウイスキー、シャンパン、ワイン、そして、日本酒、焼酎。日本酒は聞いたことのない銘柄が結構ありました。本当は日本酒飲みたかったけど、寝不足で疲労困憊の時に酒がうまいわけがないので、翠ジンソーダの梅が入っているやつにする。(それでものむ)酒はこざっぱりとうまく、最初に来たつまみも美味しかった。しかも、この味でお値段は高くない。場所は裏路地で店も手狭。ここのオーナーは場所や雰囲気よりも美味しいお酒やお寿司を比較的安価で出そうと思ってこういうお店を作っているのだと思う。私は雰囲気だけ良くて高くて食事自体がはてなな店は好きじゃないんです。とにかく酒と食事が良くてそれ以外は二の次だ。初めて来たけど、結構私好みの店でした。店にとって私が好みかどうかはわからないが。

調子にのって、二杯目を飲むことにした。お疲れ、自分!カニ食べるより安くて美味しいな!いやっほう、記念である。しかし、日本酒は避けた。麦焼酎にする?芋焼酎にする?

「何ニヤニヤしてんの?」
「いや、別に」

メニューを見ながらニヤニヤしてると、寿司のわさびをできるだけ排除している息子に言われる。お子ちゃまだのう。おぬし。

芋だろ、芋!

晴耕雨読にしました。この名前も好き。そして、味も好き。何よりお湯割りを作ってくれるお店の、絶妙な混ぜ方の割合が良い。お湯の温度も良い。寿司屋ですが、お酒をよく知ってる寿司屋だと思う。

「ちょっとおしっこ行ってくるね!」

我々の乙な時間を酔っ払いのおじさんの声が中断する。

「おしっこ、って言ってるよ」
「ばか、ここで喋るな。ここは日本だ。ヒソヒソ話するなら中国語で言え」
(普段は周りは中国人なので秘密話も堂々と日本語で話しているのです)

いい大人も大いに飲むと人前で、おしっこ なんて発言をするのだ。寿司屋だが、酒の種類は多いし、お刺身だけでなくその他にもつまみがあるし、何よりものが美味しくてその割に安い。だから、おそらく近辺で働いていらっしゃる大人の飲兵衛が気持ちよく酔っているのだ。初めてだったけど、いい店見つけたなぁ。

そうそう、晴耕雨読もおそらく同じ名前で色々なランクの酒が出てると思いますが、芋のほんのりとした甘さを感じながら飲めるお酒です。お湯割りだったのとそのお湯の温度と割合でお酒は味が変わりますからね。

昔はですね、焼酎は麦でした。芋は苦手だった。しかし、どこに行っても芋焼酎を飲まされるうちに味を覚えた。自分なりの芋のツボはさつまいも自体の甘みを感じる濃度と割り方です。

スターターであれば甘いお酒でも平気なのですが、二杯め、三杯めで甘いお酒を食事と合わせながら飲むのは嫌いです。ただし、その甘さが天然の甘さであれば別です。人工甘味料の味ではなく、食材自体の甘さを味わうことが好きになりました。野菜自体や果物自体の味を感じる。甘みに関しては、奥の方にある味を尋ねてゆくようなのが好き。特にお酒ではね。

自然を感じているような気がして落ち着くのです。田舎生まれだからかな?

高級なお店に行って、ハイソな品を食べるのもいいですが、自分が一体どういう人間なのかということを抜きにして、食を楽しむってある意味ではちょっと違うのかなとも思う。例えていうなら、私にとっては高級店での食事というのは、少しきついハイヒールを履いて、背伸びしながら楽しむもの。こういう経験をしたくないわけではないですが、もともと田舎で生まれた自分にとって、周りの人から見て自分は場違いではないだろうかと思いながら楽しむ食事は、それなりに窮屈なものなのです。それよりは心から落ち着いて安心して楽しめるお店で食べたい。

銀座のカニ料亭みたいなとこに、5年後、10年後の自分は堂々といけるでしょうか?さっぱりわかりませんが、とにかく、気後れする限りは、そういうお店を選ぶのはやめようと思います。

東京駅近辺、いいな!これからも一時帰国は東京駅近辺で宿泊することにしようかなと思う。自分が安心していけるお店を増やして、一時帰国時限定の贅沢を楽しもうじゃないか。贅沢とは時に魂に効く薬である。

帰郷の後半についてはまた来週。
それでは。
雪の降る東北より、汪海妹
2025.01.30

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