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人間ニモドル


いつぶりかもわからないくらい 久しぶりに
デートをした。

夫と。


子どもたちが揃って
親戚の家にお泊まりに出かけたため

まるっと24時間以上、夫と二人きり。

長男が生まれて以来のことだ。


……………

子どもたちを送り出してから
二人で簡単な朝食を食べていると

どちらともなく「ドライブ行こか」となった。


コンビニで アイスコーヒーと
わたしのおやつに
45%も増量された鶏肉を買い込み

いつもより ずっと静かな車内で
ぽつりぽつりと話をしながら 車を走らせる。


くねくねと細い山道を登り
一時間ほど走って、辿り着いたのは鍾乳洞。

車を降りると、山の空気が肌をなでた。

「涼しいっ!」


鍾乳洞の中は、さらに涼しい。

流れ続ける水の音と
ひんやりとした空気に満ちていて

スーパーの生鮮食品コーナーの
何倍も何倍も涼しかった。


ああ、生きかえる。


お昼は 大好きなうなぎを食べよう、と
ナビで見つけたお店に入った

途端
「ここ来たことあるね」と顔を見合わせる。

七年前、夫とわたしと息子と娘
まだ家族四人だった頃に訪れたお店だった。

あの時は、三歳になったばかりの息子が
思いのほか もりもりと食べて
わたしたちは少々物足りなかった。
そんなことを思い出して、夫と笑う。


腹を満たして

「近くにお城があるよ」
「じゃあ登ろう」

と、これまた細く細く
蛇のようにうねる山道をそろそろと走る。


車から降りて、お城に辿り着くまでは
ほんの五分ほど。

暑い。
汗が滝のように滴り落ちる。


緑色の 透き通るような紅葉の葉から
こぼれた日差しがきらきらと輝いて

夏の太陽に洗われた 白い雲と青空の下
セミたちは声を限りにその生を謳歌している。

時折吹く里からの風が 汗に濡れる肌を打ち
熱とともに 澱んでいた何かを奪うようにして
駆け抜けていく。


なんて
気持ちがいいんだ。



あ、息ができる。


……………

その後も
大人二人、行き当たりばったりで
ゆるゆるとドライブを続けた。


「人間に戻った気がする」


何気なく言ったら、夫が笑った。
「普段はなんなの?」

鬼か獣か。



三人の子どもたちとの日々は
賑やかでたのしく幸せにあふれているが

過酷だ。


わたしは鬼か獣か
なんだかよくわからないモノになって
必死に毎日をこなしている。


子どもを気にせず
自分の食べたいものを食べ
行きたいところに行き
行き当たりばったりで
細々としたフォローもケアも不要

一人の人間として
自分の欲求を満たす。


ああ、わたし
頑張ってたんだな。


ここは息子が好きそうだ
これは取り合いになりそう
娘たちなら、絶対こう言うよね

この場にいない子どもたちのことを
口にしながら

夫もわたしも
今日を一人の人間として過ごした。


わたしには

もうずっと
こんな時間が必要だったのかもしれない。





人間ニモドル時間、大事。







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 ほんの少しでも
 あなたの心に残るものがあれば、うれしいです。
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