スタバで恋は生まれるのか〜愛想のいい人〜
おそろしく愛想のいい女の子だった。私は27で、女の子は24歳。彼女とは週に一回ほど会う間柄だった。というかまぁ、ただのスタバの店員さんとお客の関係だった。
でもその愛想のいい店員さんはとても気さくで、お客一人ひとりに一言声をかけたり、笑顔を一瞬も絶やさなかったりで、ほかのスタバの店員さん達からも――いい意味でも悪い意味でも――愛想の良さで一目置かれているようだった。
その人は当然私にも笑顔で声をかけてくる。「単純接触効果」という、会えば会うほど惹かれる心理学のセオリーどおり、私は半年かけてちょぴっとずつ愛想のいいその人(以下「愛子ちゃん」)をいいなと思い始めた。
とはいえ、昔のスタバの店員さんの愛想の良さのアベレージはすごかった。勘違いして声をかけてしまったら、「は? 仕事だし。お亡くなりになって」になってしまう。愛子ちゃんの愛想は100%仕事用なので、ゆめゆめ勘違いしないようにと努めた。
ただ、どうも仕事だけとは思えない出来事が続いた。
たとえば店に入ろうとするさい。私に気づいた愛子ちゃんは接客中でも笑顔になり腰のあたりでこっそり私に手を振るようになった。あの高貴な方々がしそうな手の振り方である(私は軽く会釈し、心の中で小躍りをした)。
あるいは私が入店しようとお店のドア付近に近づいたときのこと。店から30メートル程離れたところでたまたま自転車を漕いでいたらしい愛子ちゃんが私に気づき、わざわざ私のところまでやってきた。聞けば仕事が終わって帰るところだったという。愛子ちゃん主導のもと、15分ほど世間話をする。しかもそれが3回あった。
これはもしかしたら仕事用の愛想の良さだけではないのかもしれない。
次の休み、私は意気揚々とスタバに行く。愛子ちゃんは休みのようだった。まぁよい。普通に読書をしよう、と30分ほど本を読んでいると店内のどこからか聞き慣れた声がした。
愛子ちゃんだった。彼女はお客として別の老紳士と話していた。自分が働いているお店に客として来ることってあるのだな、と思いながら読書を続けると、今度は別の席から愛子ちゃんの声が聞こえる。顔をあげるとまた別のおじさまと話している。そしてしばらく経つとまた別の席へ。
愛子ちゃんは結局、別々の席で計3人の老紳士と愛想よく話していた。おそらくその愛想の良さからお客さんから「今度お茶でも」と声をかけられて日程を合わせ、休みの日に話をしていたのだろう。
やっとわかった。愛子ちゃんは本当にただただ心根の優しい女の子なのだ。すごいな、愛子ちゃん。
――出会ってから私がその土地を離れるまでの1年の間で、私は愛子ちゃんの笑顔以外を見たことがない。あまりの愛想の良さで周りから八方美人と言われてしまうこともあったようだが、老紳士たちと私に希望を与えていたのは間違いない。
最後にスタバに行ったとき、私は『ロマンス』というマンガを読んでいた。愛子ちゃんとのロマンスはなかったけれど、幸せになってくれたらいいと強く思った。
『ロマンス』はタイのマンガ家「ウィスット・ポンニミット(通称、タムくん)」の書いた本だ。少し昔のマンガではあるけれど、この本はサブカルチャーが好きな文科系女子から好かれている。
「おすすめのマンガ何?」て聞かれたときに王道作品に加えてさらっと紹介すると、モテる確率は当時は相当上がった、多分。今もそうだったらいいな。
※10年前に書いたエッセイ(ちょいリライト)
