世間の評価なんて関係ない。「惑星」をクビになった僕が、59億キロの彼方で「ハート」を持ち続ける理由
1930年
僕を「見つけた」と騒ぎ立てたあの日から、僕の運命は君たちの言葉に振り回されてきた。
「第9惑星」という立派な椅子。
世界中からの喝采。
11歳の少女がくれた「プルート(冥王星)」という誇らしい名前。
僕は、太陽系のエリート集団の一員になったつもりでいた。
けれど、2006年。
君たちは手のひらを返した。
「今日から君は、惑星じゃない」
会議室の冷たい決議ひとつで、僕は「準惑星」という名の補欠へと格下げされた。
まるで、必死に会社に尽くしてきたのに、ある日突然「君の居場所はない」と肩叩きをされる、君たちの世界の不条理さと同じだね。
君たちは僕を見て「かわいそうに」と言った。
でも、本当に怖かったのは君たちの方だろう?
積み上げてきた肩書きが、誰かのモノサシ一本で「無価値」に変わってしまう。
そんな不確かな世界で生きている自分たちが、僕の姿に重なって、震えていたんじゃないかな。
「何者でもなくなったら、自分には何が残るのか」
その問いに答えを出すのが怖くて、君たちは僕を「遠い場所の星」として片付けようとした。
でも、僕は知っていた。
君たちが定義を変えようが、どう呼ぼうが、僕が僕であることに変わりはないということを。
君たちが会議室で議論を戦わせ、僕の名前を名簿から消しゴムで消していたその時も。
僕はただ、漆黒の宇宙に身を委ね、マイナス230度の孤独を呼吸していただけだ。
太陽の光さえ、遠くでまたたく微かな豆電球のようにしか届かない最果て。
そこには、音もなければ、誰の視線もない。
ただ、凍てついた窒素が静かに降り積もり、僕の肌を白く染めていく。
その静寂の中で、僕は一秒たりとも、自分を疑うことはなかった。
2015年、君たちが送った探査機が僕のそばを通り過ぎたとき、君たちは息を呑んだよね。
暗闇の底、マイナス230度の静寂の中で、僕が胸に巨大な「ハート型の氷原」を抱きしめて回っている姿を見て。
誰に褒められるためでもなく、誰かに認められるためでもなく。
僕が僕である証として、そのハートを刻み続けてきた。
実は、その探査機の中には、僕を見つけてくれたクライド・トンボーの遺灰が眠っていた。
世界が僕を「惑星じゃない」と否定しても、僕を見つけた彼だけは、85年の時を経て僕の元へ帰ってきてくれた。
世間の評価なんて、雲のように流れて消えるもの。
でも、魂を削って向き合ってくれた絆だけは、59億キロの距離を超えて、永遠に刻まれる。

2月18日。
僕が「発見」されたこの日。
君は画面の中の数字や、誰かが決めた「正解」に、君の心まで明け渡してしまっていないかな?
他人のモノサシなんて、宇宙の塵みたいなものだよ。
肩書きを脱ぎ捨てたあとに残る、君の「核(ハート)」は何?
誰のためでもない、君の心が「これが私だ」と叫ぶことを大切にしてみて。
59億キロの彼方から、君のハートが輝くのを、僕は見守っているよ。
