難聴を放置すると、脳が「聞こえない」ことに慣れてしまう ♯82
私は以前、忙しさと、ストレスの影響かわからないけど突然耳が聞こえなくなったことがある。
では、このまま聞こえなくなってしまったらどうしよう。いつも音がこもっていてトンネルの中にいるようだった。
そもそも、
「聞こえなくなったら」何が困るのか?
聞こえなくなったら…どうなるか調べてみた。
「聞こえない」と聞くと、多くの人は「会話が聞き取りにくい」くらいにしか思わないかもしれない。
でも、実際はもっと根が深い。
脳が、「聞こえないこと」に慣れてしまう
耳が聞こえにくくなると、脳は少しずつ、その状態に順応していく。
聞こえない音を、聞こえないまま処理しなくなる。
使わない機能は、少しずつ衰えていく。
これが怖いところだと思う。
「聞こえない」がずっと続くと、脳自身が「聞こえないのが普通」だと学習してしまう。
困っているのは、本人だけじゃない
聞こえにくさの、やっかいなところがある。
本人は、聞こえていないことに、自分では気づきにくい。
聞こえなかった部分を、なんとなく雰囲気で補ってしまったり、聞き返すのが面倒で「うん」と流してしまったり。本人の中では、会話が成立しているように感じていることも多い。
でも、困っているのは、話しかけている周りの人だ。
何度も同じことを言わないといけない。
大きな声を出さないといけない。
伝えたつもりが、伝わっていない。
本人が気づいていない分、周りの人のほうが先に「あれ、聞こえていないのかも」と気づき、そして先に疲れてしまう。
これが、聞こえにくさの、静かにしんどいところだと思う。
補聴器を買って、終わりじゃない
だからこそ、「聞こえにくくなったら補聴器を買えばいい」という発想だけでは、実は足りない。
補聴器をつけて、久しぶりに音が入ってくると、脳はそれを処理する準備ができていない。
新しい音を入れることで、頭の中がうるさく感じる。
これは、補聴器の性能の問題ではなく、脳が「音を処理する感覚」を取り戻す過程そのものなんだと思う。
慣れるまで、時間がかかる。
補聴器は「かければすぐ元通り」の道具じゃない。
そこからが、リハビリの始まりなんだと思う。
メガネのようにはいかない
補聴器は、メガネと同じようなものだと思われがちだ。でも、実際はまったく違う。
メガネは、かければその瞬間から、見える世界がはっきりする。
でも補聴器は、つけた瞬間から「快適」になるわけじゃない。慣れるまでの過程が必要だし、何より——
小さくて、落としたり、なくしたりしてしまう。
メガネのように、外して机に置いておけばいい、というものでもない。
日常の中で、扱いに気を遣う場面が多い。
そして、中には高額なものもある。
軽い気持ちで「とりあえず買う」には、ハードルが高い買い物でもある。
どれが正解、ではなく「自分に合うもの」
補聴器選びで大事なのは、「これが正解」というモデルを探すことじゃないと思う。
人によって、聞こえにくい音の種類も、生活のスタイルも、耳の形も違う。だから、他の人にとっての「良いもの」が、自分にとっても「良いもの」とは限らない。
自分に合ったものを選ぶこと。
それが一番大切なんだと思う。
そして、一度買って終わりじゃない。
生活が変われば、聞こえ方の感覚も変わっていく。
調整が必要になることもあるし、買い替えが必要になることもある。補聴器は、「一度の買い物」ではなく、「付き合い続けていくもの」なんだと思う。
耳からの刺激がなくなること
聞こえにくさを放置することの影響は、コミュニケーションだけにとどまらない。
耳からの刺激がなくなると、認知症が進むと言われている。
難聴が認知症に与える影響を調べた海外の研究では、軽い難聴でも、聴力が正常な人に比べて認知症の発症リスクがおよそ1.9倍になるという報告もある。
難聴が重くなるほど、そのリスクはさらに上がっていく。
「聞こえにくいくらい」が、決して小さな話ではないことが、この数字からも見えてくる。
外部からの刺激——人と話す、外出する、音を聴く——
が減ると、脳の神経ネットワークを使う機会そのものが失われていく。その結果、「認知予備能(脳のダメージに耐える力)」が少しずつ低下していく。
これは、単に「寂しい」「ヒマになる」という感情面の話ではない。
刺激が不足すること自体が、脳の萎縮や機能低下を早める、科学的なリスク要因であることが、数々のデータで示されている。
「聞こえにくいくらい、我慢すればいい」では、済まされない理由が、ここにもある。
だから、今ある耳を大切にしてほしい
失ってから取り戻すのは、病気の種類によって戻らない場合もある。
戻るものでも時間もかかるし、簡単じゃない。しかも、取り戻す過程そのものが、決して手軽なものではない。
だからこそ、今聞こえている耳を、大切にしてほしい。
イヤホン難聴。騒音難聴。
どちらも、今の生活の中に、当たり前のように潜んでいる。イヤホンで大音量の音楽を聴き続けること、騒音の中に長時間身を置くこと。
それが、少しずつ、聴覚を削っていく。
聞こえなくなってから気づくのでは、遅い。
聞こえている今のうちに、耳を守る意識を持ってほしい。
聞こえていることは、当たり前じゃない。
今の若い人たちは、当たり前のようにイヤホンをつけて、外の音を遮断している。
風の音。
車の音。
自然の音。
人の声。
その全部を、今は簡単に消せてしまう。
でも、その音たちがいつか本当に聞こえなくなったとき、きっと気づく。
それがどれだけ、かけがえのないものだったかに。
風の音が聞けない。
車の音が聞けない。
自然の音が聞けない。
人の声が聞けない。
それは、きっと悲しいことだと思う。
だからこそ、今、聞こえているうちに、大切にしてほしい。
参考資料
•世界的医学誌『The Lancet』認知症委員会報告(2020年)「予防可能な認知症のリスク要因」のデータ
•社会的孤立(交流・刺激の不足)
認知症の発症リスクを 約1.6倍(約60%増加)
•難聴(聴覚刺激の減少)
脳への音刺激が減ることで、認知症リスクが 約1.9倍 へ
•国立長寿医療研究センター「新型コロナウイルス感染症流行下における認知症の人への影響調査」(2020年)
•日本福祉大学・JAGES(日本老年学的評価研究)大規模追跡調査−日本全国の高齢者数万人を対象とした大規模な疫学調査(JAGES)のデータ
• 「人と会う頻度」と認知症リスク
友人・知人と会う頻度が「月1回未満」の人は、「毎日〜週数回」会う人に比べて、認知症の発症リスクが 約1.4倍 高い。
• 「閉じこもり(外出頻度低下)」と認知症リスク
週1回未満しか外出しない人は、毎日外出する人に比べて認知症発症リスクが 約3.5倍 に上昇
•日本老年学的評価研究(JAGES)「高齢者の社会的孤立と認知症発症に関する追跡研究」
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