バトル漫画のインフレ問題に対する応答【ONE PIECE&HUNTER×HUNTER】
個を超えた力の登場
ワンピースとハンターハンターは、どちらも週刊少年ジャンプで未完の長寿バトル漫画です。
バトル漫画に付き物である「戦闘力のインフレに際限がなくなる」問題について、両作品は個人を超えた力を登場させることで、解決とは言えないまでも、その世界観なりの向き合い方を示しているように感じます。
ハンターハンターの場合
分かりやすいのはハンターハンターの方です。
個人(個体)として最強クラスのキャラだったネテロとメルエムの戦いは、二人の力を超えた貧者の薔薇なる大量破壊兵器によって決着が付きました。
その後、物語は「人類未踏」の暗黒大陸を目指す方向へ移り、最強の人間だったネテロ自身が遺言で、暗黒大陸で求められるものは自分の目指すそれ(個人対個人の勝敗が付く闘い)とは違っていたと述べるように、単純な戦闘力では測れない心理戦、集団戦の様相を呈していきます。
(そういえば、同じくバトル漫画『トリコ』でも暗黒大陸に相当する「グルメ界」で重要なのは単純な腕力だけでなく厳しい自然環境に適応する能力だと言われていました。)
これが少年ジャンプのバトル漫画として単純明快な面白さを読者に与えられるのか?という問題は残りますがハンターハンターなりのインフレ問題に対する応答(一義的な正解ではない)だったと考えられます。
ワンピースの場合
ワンピース世界における「個の力」の極致は恐らくカイドウだったと思います。
まあ強さ議論は過去のロジャーや白ひげを含めて際限がないため、あくまで暫定的な結論ですが「この世における最強生物」という世間での評判に違わない強さだったのは確かです。
付け加えるなら、カイドウ自身がワンピース世界において「個の力」の極致であると同時に、ルフィたち側からすれば「個の力を超えた存在」として、相次ぐ連戦によって少しずつ体力を削りながら最終的になんとか場外負けに追い込み勝利する形になりました。
今までワンピースでのボスバトルは基本的に力尽きて倒れるボスの姿を映していましたが、カイドウそれにビッグマムはあくまでワノ国から追い出しただけで最後の状態はよく分からないままとなったあたりからも特異性がうかがえます。
ワノ国の戦いのナレーションにて「鬼ヶ島ドクロドーム屋上の戦い 勝者 カイドウ」というくだりが「ワノ国天上決戦 勝者 麦わらのルフィ」に変わりました。
これも本記事の主旨に強引に合わせるならドクロドームでの個人対個人の戦いを超えて、ワノ国の集団戦を制したのがルフィ(率いる同盟軍)だったという解釈も可能となります。
カイドウを倒した後のワンピースは、五老星やイムのような不死の存在をいかに攻略するかというギミック戦に近い様相となり、対カイドウのように力押しを続ければいつかは勝てるという戦いではなくなりました(もちろん対カイドウ戦でも流桜というヒントは必要になってきたわけですが)。
加えて古代巨人族、伝説の悪魔の実(ニーズホッグ)、そして太陽神ニカのような人智を超えた神話のような要素が目白押しとなってきました。
実は「個の極致」だったカイドウも単独の実力だけでは世界を獲れないと認識しており「この世で最も強大な力」として古代兵器を求めていましたし、人造悪魔の実によって兵士を量産していました。
ルフィがバルトロメオたちからの傘下になりたいという申し出を渋った際に、海賊王を目指すなら必ず数の力は必要になると諭されたことしかり、ぼんやりとではありますがワンピース世界においても個人戦から集団戦へのシフトは行われていると言えそうです。
そもそも白ひげが死に際に「誰かがワンピースを見つけたら世界中を巻き込む巨大な戦いになる」と語っていましたから、最終的にはかなり複雑な集団戦になる想定が昔からあったのでしょう。
インフレは止めれば良いものなのか?
ハンターハンターにせよワンピースにせよ、単純明快な力量差を決めるタイマンバトルが目立たなくなり読者からよく分からない、面白くないという声もあります。
たしかに戦闘力のインフレはやり過ぎると読者がついていけなくなるのですが、こうした読者の反応は、だからといってインフレを止めれば良いというわけでもないジレンマを示しているように思えます。
もう少し言えばインフレという結果自体は読者から忌避されがちですが「敵味方お互いの実力が次第に上向いていく」インフレの過程そのものは読者を楽しませてくれる大切なスパイスなのかもしれません。
