アイアンマンレース:感動の隣に、オシッコ臭い構造があった。
カナダの首都でアイアンマンレースが開催されました。
参戦する友人の応援に行き、鉄人たちの勇姿に「感動をありがとう」やってきました。フィニッシュラインで名前を呼ばれ、 You are an ironman! ってアナウンスされるやつ、すごい達成感でしょうね?限界に挑む人類よ、リスペクト!
ストイックにトレーニングに励み完走した鉄人たちに敬意を表しながらも、感動の裏に見えた構造について、文系人間が一考察を捧げます。
トライアスロン=現代の資本主義ポトラッチ説
友人の試算によると、今回のアイアンマンレースの参加者が2200人、自転車は一番安くて50万円くらいで、高いのが200万円くらい、つまり22億円分くらいの自転車が会場にあった。
沿道で応援しながら鉄人らを観察すると、年齢層高め。趣味でトライアスロンをやっている人には、金銭的に余裕のある中高年が多いと見た。そりゃそうでしょう、100万円超えるバイク、遠征費用、コーチ代、相当なお金がかかっているはず。
会場となった市街地には、世界遺産の運河があるのですが、超豪華クルーザーが何艘も停泊していました。高級バイクを積んだクルーザーを見かけ、この人たちクルーザーで大会来てるのね、と納得。どんだけ金持ちよ!!
これは、文化人類学的に見ると、部族社会に見られた儀礼「ポトラッチ(贈与祭)」における「富の誇示」によく似ています。ポトラッチでは、人々が自らの財を配ったり、壊したり、燃やしたりすることで威信を示し、富を共同体に再分配していました。
しかしアイアンマン大会では、富める者だけに可能な肉体の鍛え方が誇示されるのみ。もらえるのは「感動」だけ、筋肉の再分配はありません。
市街地では自転車泥棒が非常に多く、鍵で繋いでいても盗まれ、全部モントリオール港に持っていかれてしまうという噂があります。今ここに、22億円分の自転車があること、窃盗団知ってるのかしら?盗まれたら富の分配になるわね…などと思ってしまってすみません!!
もちろん、そんなことが起こらないように市街地の警備は厳しく、人々は平和に鉄人の祭典を楽しんでいます。
クルーザーが停泊する運河にかかる橋の下を通ったとき、猛烈なオシッコ臭がしてきました。クリーンなイメージの運河沿いでこんな悪臭がするとは、どういうこと?市街地には、貧しいホームレスもいるのですが、もしかしたらこれは、クルーザーで富を見せびらかしにやってきた酋長たちへの、貧困層の抗議行動…?
クルーザーのデッキに寝そべり、スムージー飲んでるお金持ちは、あの臭いをどう思ったのでしょう。臭いは見えないけれど、避けることはできません。あれは「ここにも人間がいるんだぜ」という主張、富の再分配を要求する密かなエコーでは?
トライアスロンを見に来ている中流庶民の「クルーザーすごいな~」という羨望の眼差しは、気持ちの良いものかもしれません。でも、匂いが伝わる距離に貧困層もいるのですよ?富の再分配を求められたらどうしよう、と思ったりしないのかな?
すぐ近くに階級闘争があることに、気づいていない呑気な金持ち…大丈夫か?クルーザーで寛いでいるすぐそばを、「自分の金持ちぶりに恨みを抱いているかもしれない人」が通るとしたら、その存在をどう処理する?無視?警察に通報?あるいは、上から目線の笑顔で Have a nice day?
現代社会は、こうして再分配なき感動の物語を維持するために、見えない安全装置(=無関心と警備と距離)を全力で稼働させています。
けれど、橋の下の匂いは消えないし、いつか誰かの鼻先に届いてしまう。筋肉は栄光を語るけれど、匂いは問うのです、「それ、本当にあなたの勝利ですか?」と。
You are an Ironman.
でも橋の下の誰かは、今日もただの Invisible man。
