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「EUがAI規制を延期」の裏で、延期されていない義務が3週間後に来ます

私はnoteのタイトルの画像に、AIで作った画像を使っています。また、noteの記事もAIを使いつつ編集して投稿し、それは日本の読者に向けて書いています。それでもEUの法律の話が、自分に関係するかもしれない——そう思って調べました。

結論から言うと、私はおそらく対象外でした。ただ、調べる過程で分かったことのほうが重要でした。多くの人が、あるニュースを誤読しているようです。

なお先に断っておきます。私は法律家ではありません。これから書くのは、公開されている条文と、欧州委員会が出したガイドラインの草案を読んで、常識的な範囲で理解した内容です。法的な解釈でも助言でもありません。ご自身が対象になりそうな方は、必ず一次情報と専門家にあたってください。


「延期された」という見出しは、半分しか正しくない

今年5月、EUがAI規制法(EU AI Act)の適用を延期する、というニュースが世界中を駆け巡りました。デジタル・オムニバスと呼ばれる法改正によるものです。

先送りされたのは、「高リスクAI」と呼ばれる分類への義務でした。人の人生を左右しかねない場面で使われるAIのことで、EU法が具体的に挙げているのは、採用選考、学校の入学・成績評価、融資の審査、生体認証、電力や水道といった重要インフラの管理、法執行などです。
落ちた理由も分からないまま採用選考で弾かれる——そうした事態を防ぐため、この種のAIには厳しい義務が課される予定でした。それが2026年8月2日から2027年12月2日へと、1年以上先送りされたのです。

理由は、皮肉なものでした。義務の中身を定める技術基準の策定が間に合わず、「守れと言われても、何をすれば守ったことになるのか分からない」状態だったのです。産業界は安堵しました。

しかし、この見出しには落とし穴がありました。延期されたのは高リスクAIの部分だけです。

第50条という条文があります。「透明性義務」と呼ばれ、要するに「人がAIと気づかないまま接することを防ぐ」ためのルールです。チャットボットには、これはAIですと明示する。AIが作った画像や動画には、機械が読み取れる印を埋め込む。ディープフェイクを公開するなら、そうと分かるようにする——こうした義務です。

そしてこの第50条は、延期されませんでした。予定どおり8月2日から適用されます。 高リスクかどうかに関係なく適用されるため、影響が及ぶ範囲は、実は延期された部分より広いのです。違反した場合の制裁金は、最大1500万ユーロ、または全世界売上高の3%(高い方)。

法律事務所の解説には、こう書かれていました。「AI法が延期されたという見出しは、半分しか正しくない」。ある専門家は、これがオムニバスをめぐる最も一般的で、最も危険な誤読だと指摘しています。「延期されたから」と対応を止めた組織は、3週間後に義務違反の状態に置かれます。

情報の錯綜も、この件を難しくしています

さらに厄介なことに、日本語・英語を問わず、「第50条は12月2日に前倒しされた」と書いている記事があります。これは誤りです。

正しくはこうです。8月2日より前から市場に出ている生成AIシステムに限って、機械可読マーキングの義務(第50条2項)の履行が12月2日まで猶予される。前倒しではなく、既存システムへの経過措置です。新しく出るシステムは、8月2日から義務がかかります。

整理すると以下の通りです。

■ 延期されたもの
・高リスクAI(採用・融資・入学・生体認証・重要インフラなど、単独で使われるもの)→ 2027年12月2日へ
・高リスクAI(医療機器など、製品に組み込まれるもの)→ 2028年8月2日へ

■ 猶予されたもの
・機械可読マーキングの義務(第50条2項)のうち、8月2日より前から市場にあるAIシステムの分 → 2026年12月2日まで
 ※これはAIツールの提供者(AnthropicやOpenAIなど)の義務であって、利用者の義務ではありません

■ 延期も猶予もされていないもの(8月2日から適用)
・チャットボットに「これはAIです」と明示する義務
・ディープフェイクを公開するときの開示義務
・公共の利益に関わる事項について公衆に伝えるAI生成テキストの開示義務

■ そもそも対象外
・8月2日より前に公開済みのAI生成物を、遡って表示し直す義務はありません

条文と経過措置を突き合わせないと、この違いは見えません。「AI規制が延期された」→「じゃあ大丈夫」で止まると、真逆の理解になります。

(なお、デジタル・オムニバス自体もまだ正式な手続きの途中にあり、細部の日付は最終確定を待っている段階です。動きうる話だという前提で読んでください。)

では、AIで書いて自分で直した記事は?

ここが、私がいちばん知りたかったところです。

私はAIと相談しながら記事を書きます。下書きを出させて、事実確認をさせ、表現を却下し、構成を書き換える。この記事もそうです。では、こういう記事は「AI生成コンテンツ」として表示が必要なのか。AIの部分が1割なら? 9割なら? 0.1%でも入っていたら対象なのか?

条文を読んで、意外でした。割合は、基準になっていません。

まず、私たち利用者にかかる義務の対象は、限られています。画像・音声・動画については「ディープフェイク」——実在の人物や場所、出来事に似せて、本物と誤認させうるもの——が対象です。タイトルに使う抽象的なイラストは、これには当たりません。

テキストについては、対象は「公共の利益に関わる事項について、公衆に情報を伝える目的で公開される」AI生成・改変テキストです。社内文書や広告は原則として範囲外。一方、公衆衛生や、一般向けの科学解説、公共的なテーマの報道は入りうる。AI規制の解説を書いている私は、ここに引っかかる可能性があります。

ところが、その先に例外がありました。人間によるレビューまたは編集上のコントロールを経ていて、責任を負う人が特定できる場合、表示の義務は適用されない——条文にそう書かれています。

欧州委員会のガイドライン草案は、この例外を厳しく解釈しています。
「内容の実質を、意図的に吟味すること」。「修正または却下する、現実的な余地があること」。そして、足りないものとして名指しされているのが、誤字脱字のチェック、文法の修正、中身に踏み込まない形式的な承認です。
ある法律事務所の解説では、実質的な編集を経たAI支援の記事は例外に当たり、ほぼ全部AIが書いて言語的な仕上げだけした文章は当たらない、と整理されていました。

つまり、こういうことだと私は理解しました。問われているのは「AIをどれだけ使ったか」ではなく、「人間が内容に責任を持って関与したか」である。

だとすれば、AIの出力をほぼそのまま流している人は、「自分でも1割は書いた」と言っても、この例外は使えません。逆に、事実を確かめ、間違いを直し、書き直し、必要なら丸ごと捨てる——そういう手をかけているなら、AIが何割書いたかは問題ではないのです。

私は対象なのか

そもそも私が対象なのかを考えると、その手前で止まります。

判断の起点は「EU圏の市場や利用者に向けてAI生成物を提供しているか」です。私は日本語で、日本の読者に向けて書いています。EU市場に何かを提供しているわけでもない。この点で、私はおそらく対象外です(EU向けに販売している、EU企業の案件を受けている、多言語で発信している——そういう方は、確認が必要だと思います)。

もう一つ知っておくとよいのは、「機械が読み取れる印を埋め込む」義務が、AIツールの提供者側(AnthropicやOpenAIなど)にかかっているという点です。私たち利用者が手作業で何かする話ではなく、使うツールの側に印が入っていく。そういう仕組みになっています。

ちなみに私は、AI生成画像であることを冒頭に明記しました。法律で義務づけられているからではなく、読者に対してそうあるべきだと思うからです。ルールが来る前から、やっておいて損はありません。

この件から学べること

私がこの記事で本当に伝えたいのは、EUの法律の詳細ではありません。

「EU、AI規制を延期」——この見出しは、嘘ではありませんでした。事実の一部を正確に伝えていました。それでも、多くの人に誤った理解を残しました。見出しは短く、法律は複雑で、その差は誰かが埋めるしかありません。

そしてもう一つ。調べてみて、いちばん腑に落ちたのは、AIをどれだけ使ったかではなく、人間が責任を持って関与したかが問われている、という考え方でした。これは法律の話を超えて、AIとの付き合い方そのものの話だと思います。

自分に関係あるかもしれないニュースを見たとき、見出しで判断しない。「延期された」と聞いたら、「何が、どこまで?」と一段だけ掘る。今回、私が調べて分かったのは、その一段の深さでした。

あなたが最近「大丈夫らしい」と安心したニュースは、本当に大丈夫でしたか。


AIの情報を、鵜呑みにせず確かめるための記事を、マガジン「AIと、正しく付き合うために」にまとめています。


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