スーツ姿の不審者、平日の朝の庭に現る
「おい、父さん。朝だぞ。外だ。草だ」

言葉こそ発しないが、トトとチーの眼光は雄弁にそう語っている
時計の針は、出勤前の最も慌ただしい時間帯を指している
朝食を終え、ネクタイを締め、髪を整える
(フッ、父さんには整えるほどの髪の毛ないけどね)
人間界の朝は、分刻みのスケジュールで動いているのだ
わかるかい、トト君・チー君
……わかるわけがない
彼らにとって「会社」などという概念は、チュール一本分の価値もないのだから
彼らの要求はシンプルにして絶対だ
「庭のサラダバー(猫草)へ案内せよ」
私は観念し、深いため息とともに重い腰を上げた

さて、ここからが問題である
今の私は、完璧な「出勤スタイル」だ
プレスされたズボン、磨かれた革靴、そして首元にはきっちりと締められたネクタイ
この姿で、私は庭に降り立つ
通勤ラッシュが始まる時間帯だ
道路の向こうでは、同じようなスーツ姿の同胞たちが、駅に向かって足早に歩いている
彼らの視線が、ふと庭先の私に止まる・・・
想像してみてほしい
朝の爽やかな光の中、スーツを着込んだ中年男性が、出勤もせずに庭の片隅でうずくまり、地面に向かってブツブツと独り言を言っている姿を
「決して、会社に行きたくなくて駄々をこねているわけではないんです」
心の中で私は叫ぶ
「ああ、もう仕事なんて嫌だ! 地面になりたい!」
と絶望しているわけでもない
(地面には憧れないけど、猫にはなりたいと少し思っているけどね🤣)
ただ、愛猫 トトとチーがどうしても「今、この瞬間に」新鮮な草を食みたいと所望されたから、下僕として付き添っているだけなのだ

しかし、傍から見れば私は完全に「アウト」な存在だ!
なぜなら、草むらに頭を突っ込んでいるトトとチーの姿は、背の高い雑草や植木に隠れてしまい、道路からはほとんど見えないからだ
つまり、ご近所さんの目にはこう映っている
「朝からスーツを着込んだ中年男が、庭の地面に向かって満面の笑みで話しかけている」と・・・
しかも、私の口から漏れる言葉ときたら、これまた誤解の火に油を注ぐラインナップだ
「あ~、おいしいね~、よかったね~」
「んもう、今日も最高にかわいいね~」
愛猫家の皆さんなら分かってくれるだろう
猫が草を食む音(シャクシャク……)を聞くだけで、我々の脳内には幸せホルモンがドバドバと分泌されるのだ
つい赤ちゃん言葉にもなるし、デレデレした顔にもなる
だが、対象物(猫)が見えない他人からすれば、私は
「地面の土を愛でるヤバイおじさん」
でしかない

背筋に冷たいものが走った
私の脳裏に、ご近所のマダムたちによる緊急井戸端会議の様子が、ありありと浮かび上がってくる
『ねえ、聞いた? あそこの旦那さん』
『見たわよ! 今朝もスーツ姿で、お庭でブツブツ言ってたわよね』
『なんか地面に向かって「おいしいね」とか「かわいいね」って……。あれ、もしかして土を食べてらっしゃるのかしら?』
『まあ! ストレス社会の闇ねぇ……』
『奥様も大変よねぇ、あんなになっちゃって……』
ちがーーーう!!
私は土の味見をしているわけでも、出社拒否で幼児退行しているわけでもない!
トトとチーとお話ししていただけなんだ!
相手は猫なんだ!
これ以上、庭に留まるのは危険だ
「あそこの旦那、ついに庭の石と会話を始めたらしい」なんて尾ひれがつく前に、私は社会の歯車に戻らねばならない
「よし、トト、チー、満足したかい? 父さんは行くよ!」

私は逃げるように駅へと走り出した
背後で「シャクシャク」と草を食む二匹が、「やれやれ、人間は朝から忙しない生き物だニャ」と笑っている気がした
ああ、明日からまた、猫の下僕の社畜の一週間が幕を開けてしまう
最後に我家の猫の紹介です
うちでは二匹の猫と生活しています
ノルウェージャンのトト(♂)とソマリのチー(♂)です
ふたりとも御年13歳の老猫です
ふたりのプロフィールはこちらの記事を参照してくださいね
今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました
あなたにとって、今日も素敵な猫ライフが訪れますように

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(もしかしたら父さんのハゲの治療費に使うかも笑)