眠れぬ姫と、回遊する母の夜
日曜日の夜11時半。名残惜しい休日の空気がまだ残る、我が家のリビング。
さーて、熟睡ストレッチも終わった。中年はもう寝ないと。と立ち上がりかけたところ、トントンと階段を降りてくる音にギクッとする。
歌舞伎の女形のような繊細で白い手で顔を覆った13歳の娘が立っていた。
「……ねむれないの」
あぁ、始まった。休日の終わりに発生する“姫の不眠イベント”。
娘はかなりインドア派だ。
おでかけの誘いにも興味がなければほとんど来ない。
机に向かって何かを書いたり読んだり、突然ダンスをコピーし始めたり、ある日いきなりハングルを読んでみせたりもする。
体育の授業で苦戦した前回り受け身をひたすら練習したり。
ひとりの自由時間を大満喫。
好きなことを見つけ、自分のペースで楽しむのは本当に素敵。
ただその分、問題がひとつある。
身体の疲れが足りない。
健康な13歳なのに、日中のんびりしすぎて
「ぜんぜん眠くないの」という謎現象が起きる。
羨ましいような、羨ましくないような……!
暇〜とか言ってみたい。
回遊し続けないと死ぬマグロ(母)とは、生き方の方向性が違う。
もちろん身体の疲れだけじゃなく、娘は考えすぎてしまうタイプだ。
テストでも「あれは大丈夫だったかな」「どうしよう」と気にしすぎる。
ちょっと諦めが悪いところもあるけれど、それも含めて娘である。
反面、ナガノさんの漫画に出てくる「アザラシ」みたいな、妙にふてぶてしいマイペースさも持ち合わせている。
繊細さが働いてしまうと、気が張って、眠気が来ないらしい。
……実はちょっとわかる。
私も小3のとき、大きめの地震が続いた時期に不眠症になった。「寝てる間に地震が来て、このピアノにつぶされる!」と真剣に思い込んでいた。(移動すればいいのに)
小5の頃なんて、父のコークハイを味見したあと、作り方を覚えて自分で作って飲んだこともある。眠くなるかなと思って。(良い子は真似しないように。眠気より興奮が来るので逆効果です!)
だから、目つぶっとけ!とは放っておけない。眠れない時の絶望した気持ちを知っているから。
眠気しかないマグロが、お城で暮らす姫をソファに座らせ、ホットミルクを渡し、手・首筋・肩・二の腕をやさしくマッサージしてやる。
あのとき眠れなかった小さな私が、いまは娘の背を撫でている。
白くて細い姫の手は、しっとりしていて柔らかい。
……苦労してない手だな(もっとお手伝いしてくれ)。
マッサージする側が寝落ちしそうになる矛盾を抱えたまま、姫の緊張がゆるむよう、急がず、ゆっくり触れる。
ひんやりした指先と、眠い私のあたたかい手。
「ねむれないの……」と悲しげな小さな声の姫。
「ねむらせてくれぇ……!!!!」
心で叫ぶマグロ。
寝かしつけなんて、10年前に卒業したと思っていた。
少し力が抜けて、気が済んだように、髪をさらさらと揺らして姫は自室へ戻る。
早く眠りたいマグロだが、すぐ寝る気にはなれず。
少しリビングを回遊したあと二階へ。
聞き取れないくらい小さな声で聞く。
「……ねむれた?」
「まだ」
かぶせ気味かい…。
バキバキの目で見上げるのやめてくれる?
眠ってくれ…横になりたい。
(マグロはいつも横だが)
「休足時間貼ってみる?」
「ホットアイマスクしたら自然と目を閉じられるよ」
「その素材のパジャマ熱こもるから、ママの綿のパジャマにしてみな」
目の前で着替えさせる。ひんやりしたガーゼの生地。
サイズの大きなパジャマの中を、冷たい部屋の空気が泳ぐ。
体温がすっと落ちる感覚があったのか、姫の表情が少し和らいだ。
さすがにこれ以上は起きていられず、
「ママは寝るね……」と布団に倒れ込む。
翌朝。味噌汁を飲みながら、穏やかな顔の姫。
「眠れたの?」
「うん」
……よかったね。なんか充電満タンみたいなお顔だねぇ。
こうして一週間でいちばん疲れている月曜日が、
今週も爆誕するのである。
マグロ母、会社にいってきます。
山手線使って回遊してきます。
姫を眠らせる魔法の呪文、あったらコメントで教えてください🙏
読んでくださってありがとうございました!
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