恋人はバースデーアニマル
私の夫は“バースデーアニマル”だ。
若い頃は自分の誕生日を三日三晩祝って私をあきれさせた。
恋人だった私の誕生日当日にも、会社を休むようめずらしく強めにすすめてきた。
素直に従った誕生日の朝、ベッドで待っててと声をかけて、シャンパンといちごを運んできた。
なにこれ…!プリティウーマンじゃん!と思わず笑った。
あとで聞けば近所のピーコックで買ったという。
――彼なりの、気どらない精一杯の思いだったのだと思う。
その勢いは結婚後も続いた。
自分だけでなく、私や私の家族の誕生日まで、花やプレゼントを必ず用意してくれる。
「女の人」は花が好き。家族は喜んでいた。
けれど長年連れ添ううちに、私は「花は嫌い」「プレゼントも要らない」と正直になってしまった。切り花を捨てる時の匂いがどうしても苦手だった。
欲しいものは「別荘」と「自分の時間」。おとめ座なので超現実的。つまり満たされてるってことだ。
それでも彼は納得せず、毎年、誕生日前に私のトレンドをさぐり、何かしら準備してくれた。
物を買われないために、先回りして私が「PAULのツナサンドが食べたい」と言えば「いつでも買えるのに」と不機嫌になる。
平行線のまま、私は喜んだふりが夫のためと割り切るようにしていた。
ところが今年、様子が違った。結婚二十年を半年後に控えた誕生日。私は本命の「テコナベーグルが食べたい」とだけ伝えた。
夫がすねた時のために「新しいスニーカーが欲しい」という第二希望も一応準備していた。
テコナベーグルは小麦界の王者だと、私は思っている。普段、なかなか買いに行けないからこそ、心の奥に渇望がある。夫はにっこり笑って言った。「りっかが喜ぶなら、ぼく、買いに行くよ」
え、空耳…?
そして誕生日当日、七個ものベーグルと、おまけのテコナベーグルバッグを抱えて帰ってきた。本当は八個買ったらしい。一つは買いにいく時間に、仕事を代わってくれた同僚に渡したという。
花もなかった。
その瞬間、私は心から笑顔になった。
「すごく嬉しい…ありがとう!最高の誕生日だよ」
七個のベーグルがドラゴンボールみたいに私の希望をかなえてくれた。
そのあと、二人で銭湯に出かけた。
バースデーアニマルの夫と歩んだ二十年目。やっと本当に欲しかったものを、私も、夫も見つけられた気がした。
