『降られちゃった』 〜アマノ文筆クラブ〜
甘野さんの企画に進化させていただきます。
●お題タイトル:降られちゃった
***
「あーあ、降られちゃった……」
重たげに垂れ込めていた雲から、ついに大粒の雨が落ち始めた。
ついてないわけじゃない。
雲行きは、もうずっと怪しかった。
それでも、傘を持たずに飛び出したのは……自分だ。
今日は久しぶりにデートらしいデートをした。
いつもはアパートで会っているだけだから、嬉しくて。
なるべく楽しそうに振る舞った。
……今思うと、バカなことをした。
「だって……好きだったのよ」
じわりと視界がゆがみ、雨のように大粒の涙がポトリと落ちる。
最後まで自分の気持ちを誤魔化し続けることができたらよかったのに……。
好きだからこそ、それは困難を極めていた。
だいたい……彼が悪い。
私に嘘をついて、彼女をアパートに連れ込んだのは……彼だ。
私とはどこにも行かず、一日中ベッドの上なのに。
あの人とはあちこち出かけて行っているんじゃないか?とか……また私に嘘をついているんじゃないかと、だんだん疑心に駆られて、嫉妬でおかしくなりそうで。
だから、「今すぐお出かけしてデートらしいデートをしたい!」と、わがままを言ったのだ。
私はどんどん嫌な女になっていく。
……普通の、人並みの幸せを求めてしまう自分をどうしても止められなかった。
彼の特別になりたいと思ってしまったのだ。
なのに。
……渋々デートに付き合ってくれた彼は、ずっとしかめっ面。
あまりにも不機嫌だから……こっちは一日必死だった。
何も知らないふりをして道化のようにはしゃいでいたのに……。
彼の態度に、だんだん腹が立ってきて。
しまいには、私と一緒だとそんなにも楽しくないのかと思えてしまって。
「もう帰ろう……」
空も暗くなって雨の予感もあったから、早めにデートを切り上げたのだった。
でも。
やはり気持ちはもう限界。
アパートに戻ったら……これまで溜め込んできた不満が一気に溢れてしまった。
だってやっぱり……どうしたってあの光景が思い出される。
風邪なんて言って、彼女とピザを頼んで……。
ショックだったのに……彼はその事を何も言わない。
ーーもう、このままは嫌。
私の足は、玄関でピタリと止まった。
そして、カマをかけるように口にしたのだ。
「そういえば前はごめんね。何か作りに来ればよかったね」
震えるような声に、彼は不思議そうな顔をした。
「え?何のこと?いつだって来てくれて構わないのに……」
「でもこの前、すごい風邪ひいた時はダメって言ったじゃない……」
「あぁ、あの時のことか!うんうん、あの時は大変だったよ。ほんとに何も食べれなくてさぁ」
そんな……あからさまな嘘をついた、バカな彼はもっと悪い。
「ピザを頼んだのに?」
気持ちがもう限界を超え、ついにそう言ってしまった。
「……とにかくさ、中に入らない?」
周りをキョロキョロする彼にさらに腹が立って。堰を切って溢れ出した思いは、もうどうにも止まらなかった。
「私、あの時すぐそこまで来てた!あなたの事心配だったから。そうしたらピザ屋さんが来て……見てたの。ねぇ、あの時一緒にいたの、誰?」
もうどうなってもいいから……はっきりさせたいと、そう思っていた。
彼は、見てたのかよとつぶやき、はぁ……と深いため息をついた。
「あれは前カノ。ちょっと事情があって、あの時急に押しかけて来て……でもちゃんと別れたよ。あの後も何ともなかった。だから、中に入って」
「嫌っ!」
私の初めての強い拒絶に、彼は驚いた顔をした。
「怒るなよ。今はお前のことしか見えてない。お前に悪い気がして、ずっと気が引けてたけど……こうしてつつみ隠さず話したんだから、許してほしい」
「そんなの卑怯だよ。私が聞かなきゃ何も言わないつもりだったんでしょ?告白も、彼女のことも。でも信じられない。本当に何もなかったなんて、信じられない!」
「何もなかった!本当に……そういう流れになったけど、ダメだった。お前じゃなきゃダメなんだよ」
……そんな風に言われたら、余計、いろいろ限界だ。
「最っ低!」
叫んで、思いっきり彼の顔をはたいて、階段を駆け下り……今に至る。
「好きだったのにぃ……あんな奴、最低だぁ、バカ野郎」
本当に……そういうことじゃないと思う。
あんな言い方をされたら……二度と戻りたいとは思えない。
大雨に降られながら、大泣きしながら……あてもなく道を歩く。
……これじゃあ不審者。
でも、これは自分の招いた結末だ。
きっと、我慢し続けていたほうが、何も望まないでいたほうが、幸せだったのかもしれない。
嫌な面も知らずに好きなままでいられただろうから。
今はまだ、そんな後悔が胸をかき乱しているけれど……。
このぬるま湯のような温かい雨が、それも全部洗い流してくれたらいいのに……と、そう思った。
ずっと前に書いたこの話の続きで書いてみました😆
甘野さん、ありがとうございます😊。
