イ ノ シ シ
保育園児である下の子が、初めて乳業工場の見学に行ってきた。
その日の夜、いつものように子どもたちとベッドに入り、眠る前のお話タイムが始まった。下の子は、よほど楽しかったのだろう。今日見てきたことを、次から次へと話してくれる。
牛がいたこと。
大きな機械があったこと。
牛乳がどうやってできるのか、工場の人から聞いたこと。
話したいことがたくさんあるらしく、こちらが相づちを打つ暇もないほどだった。
しばらくして、話がひと段落したところで、
「ママは牛乳好き?」
と聞いてきた。
「うーん、普通かなぁ」
何気なく答えると、
「えー!普通って言ったら、イノシシがかわいそうだよ!」
と、突然怒られた。
イノシシ……?
頭の中に、大きな「?」が浮かぶ。
「牛乳は牛さんだよ。イノシシじゃないよ」
そう言うと、隣で聞いていた上の子が笑い出した。
「間違えただけ!!」
下の子も、間違えたことは自分でもわかっているらしい。笑いながら、それでも少し悔しそうに言い返してくる。
たぶん今日は、牛とイノシシが頭の中で一瞬だけ入れ替わったのだろう。それにしても、牛乳を「普通」と言っただけで、イノシシの心配までしてくれるとは。
眠る前の静かな部屋に、三人の笑い声が響いた。
初めての乳業工場見学。
いちばん強く記憶に残ったのは、牛でも牛乳でもなく、まさかのイノシシだった。
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