静けさはまた、戻ってくる
今日という日を振り返り、
思い出せる景色は、窓の向こうの緑だった。
日が陰りはじめるころ、
決まってからだが鉛のように重くなる時間がある。
静かに瞼を閉じ、
ブランケットを引き寄せて、
ビーズクッションにからだを沈める。
沈黙のなかで呼吸をする。深く、ゆっくりと。
空が茜に染まり、やがて藍色へとほどけていく。
台所に立ち、母の顔のまま配膳をする。
まるで、何事もなかったかのように。
テープを巻き戻し、また再生するみたいな毎日。
ひとりになると、生活の音は雑音に変わる。
今は、できるかぎり誰かと同じ空間にいたい。
ホットコーヒーの苦みに、顔をしかめる。
前はもっと、美味しかったのに。
掬った砂が指の隙間からこぼれ落ちるような、
そんな感覚は、知らなくてもよかったと思った。
文:千秋いろ(ちあき いろ)
