二人で紅葉を見たあの日、私は夫を選んだんだ!
夫と初めてデートした場所は、
地元では有名な
紅葉の名所だった。
夜だった。
今みたいに
きれいに整備されていなくて、
木の根っこが出ていたりして、
歩きにくい道だった。
初デートだよ。
夜だよ。
紅葉だよ。
足元、悪いよ。
こういうとき普通、
「危ないよ」
とか言って、
手を差し出したりするんじゃないの?
……しない。
夫は、
スタスタスタスタ、
一人で先に行く。
え。
手とか、
差し出してくれないんだ。
と思った。
でも、
なんだろう。
私、
嫌じゃなかった。
この人、
こういう人なんだなーって。
そんな初デート。
その後結婚して、
子どもが生まれて、
いろんなことがあった。
夫のことが
嫌いだった時期もあった。
夫なんていなければいい、
と思ったこともあった。
あの初デートの場所にも、
一度も行かなかった。
それが、
夫が単身赴任から帰ってきてから、
私はふと、
「あの場所に紅葉を見に行きたい」
と言った。
初めてデートした、
あの場所。
それから、
毎年行くようになった。
そして昨年も、
二人で行った。
途中、
相変わらず、先に行く
夫が、
「行くよ!」
と言った。
そして、
走った。
一人で。
「え、え、待って」
と言った私に、
「早く!」
と言って、
夫は先に行った。
いや。
待てよ。
そこは、
早くじゃなくて、
待つところだろ。
「もううう、待って。
手を繋げよ💢」
と言ったけど。
30年前と、
なんにも変わってない。
あの日も、
歩きにくい道を
一人でスタスタ歩いていった。
30年経っても、
私に手を差し出してくれるような夫には
ならなかった。
でも、
私、手を繋がない、気の利かないこの人を
あの日に選んだんだ!
思い出した。
言わなくてもわかってほしい、
そんなことを思ったこともある。
待ってよ。
気づいてよ。
優しくしてよ。
でも、
この人は、
30年前から
スタスタ行く人だった。
変わっていない。
最近、
この人と一緒にいると、
時々、
夫婦をやり直しているような
気持ちになる。
昔に戻った、
とは違う。
あの頃の二人に戻りたい、
とも違う。
30年分、
いろんなことがあった私たちが、
もう一度、
あの頃に行った場所へ行く。
同じ人と、
同じ紅葉を見る。
そして夫は、
相変わらず
私を置いていく。
でもやっぱり
わたしはあの時の同じ気持ちになる。
悲しくない。
寂しくない。
腹も立たない。
今年もまた紅葉に行こう!
昨年と同じ昼間の紅葉に行きたい。
夫は、やっぱり
スタスタ行ってしまうだろうけど。
