『銀座「四宝堂」文房具店』を読んで──伝えたかった言葉が、動き出す場所
銀座「四宝堂」文房具店
銀座の路地裏にひっそりと佇む、老舗の文房具店「四宝堂」。
店主の宝田硯のもとには、さまざまな想いを抱えた人たちが訪れる。
大切な人に気持ちを伝えられないまま時間が過ぎてしまった人。
言葉にしたいのに、うまく書けない人。
そんな彼らが、万年筆や便せんといった文房具と出会い、
少しずつ自分の気持ちと向き合っていく。
「書くこと」を通して、心の奥にある想いがほどけていく――
静かでやさしい時間が流れる、連作短編集。
感想
文房具好きには、たまらない一冊だった。
素敵な文房具が登場するだけでなく、銀座の路地裏にある四宝堂の空気まで伝わってくる。
二階のデスクで文字を書く「カリカリ」という音さえ、脳内で再生されるような静けさとあたたかさ。
まるで、自分もその場所に座っているような気持ちになった。
そこに身を置いてみたい……。
特に印象に残ったのは、第一話。
祖母に手紙を書こうとする男性が、何を書けばいいのか分からずにいる場面。
硯さんから渡されたノートにメモを書き始めると、少しずつ思い出があふれ出し、やがて何枚もの手紙が書きあがっていく。
それは、人の想いは、胸の中にたくさんあるからだ。
ただ、それを引き出す「きっかけ」がないだけなのだと、やさしく教えてもらった気がした。
この物語では、万年筆や便せんといった文房具が、ただの道具ではなく「想いを伝えるための橋渡し」として描かれている。
言葉にして伝えなければ、人はなかなか分かり合えない。
けれど、その手助けをしてくれるものがある。
四宝堂という場所と、そこに並ぶ文房具たちが、人と人とのあいだをそっとつないでいく。
文房具がこんな風にやさしいツールになるなんて。
読んでいるうちに、思わず登場する文房具をひとつひとつ調べたくなってしまうほど、その魅力に引き込まれた。
文房具が好きな人にはもちろん、
あまり本を読まない人にも、きっとやさしく届く物語だと思う。
誰もが日常で使う「道具」だからこそ、共感しやすく、心に残る一冊だった。
このシリーズ6巻まで出ているようなので読んでみたいと思う。
ちなみに。
これを読み終わってから、私は万年筆を取り出し、もくもくと紙にカリカリと書いて悦に入っている(笑)。
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