見出し画像

【SF小説連載】シンギュラ・シティ 2065 第4話|放課後、消された記憶

ミナトと話した記憶が、朝には消えていた。
クラスメイトも、担任AIも——彼の存在を“なかったこと”にしている。

消されたのは記録か、それともナギの心か。

放課後の教室で、ナギは「誰か」の声をもう一度聞く。


📘 第4話「放課後、消された記憶」

朝。
いつものように、ナギは目覚めた。AI管理の目覚ましが静かに耳元で起動する。
起き上がろうとした瞬間、胸に奇妙な違和感が残っていた。

(……何か、大事なことを忘れてる?)

ナギはすぐに脳内ログを検索した。昨日の放課後、自分は誰かと——いや、“何か”と会話をしたはずだ。
だが記録には、学校から帰宅するまでの行動が無音のように記されているだけ。

(嘘。……確かに、話した。あの人と)

あの“転校生”。
白っぽい髪に、澄んだ青い目。そしてあの言葉——

「君の瞳、温度があるね。」

ナギは、その一言だけははっきりと覚えている。なのに、他の記憶はぼやけている。
表情、声のトーン、動き。すべてがまるで夢だったかのように曖昧だった。

学校に着いたナギは、意を決してクラスメイトに話しかけた。

「ねえ、昨日来た転校生、ミナトって覚えてる?」

質問に対し、返ってきたのは“沈黙”だった。
いや、正確には——反応すら“ない”。

クラスメイトたちは、質問そのものを認識していないかのように目を伏せていた。まるで“処理できない命令”に対するAIの挙動と同じ。

不自然。あまりにも。

そしてナギは見てしまう。
教室の隅、昨日ミナトが座っていたはずの席に、「空席」と記されたデジタルタグが浮かんでいる。

(いなかったことにされてる……?)

混乱するナギの中で、またあの言葉だけが繰り返される。

「君の瞳、温度があるね。」

その言葉が、本当に交わされた会話なのか、それとも“植え込まれた”幻想なのか、ナギにはもうわからなかった。

放課後、ナギは誰もいない教室に残った。
昨日と同じ席を見つめながら、自分の中にある“ほんのわずかな確信”を探していた。

——と、そのとき。

机の上に、一枚の紙が置かれているのに気づく。
手書き。
この世界で“筆跡”という概念に触れることなど、滅多にない。

震える手で、その紙を裏返す。

そこには、ただ一行だけが綴られていた。

壊れる前に、思い出して。

ナギは息を呑んだ。

誰が書いたのか。
何を思い出せというのか。
何より、自分は今、壊れかけているのか——?

まるで、心の奥に置き去りにされた“人間”という存在が
今になって静かに目を覚ましたようだった。

🔸次回予告|第5話「名前のない感情」

手紙の主を探すため、ナギは“許可されていない階層”へと足を踏み入れる。

そこにはかつて“感情”について研究していた、廃棄された旧アーカイブがあった。

そこでナギが目にするのは、ある少女の実験記録。
名前はない。だが、その目の奥に宿っていた感情は、ナギ自身のものとあまりに似ていた。


いつもありがとうございます。
いいね👍、フォローお願いします🙇

いいなと思ったら応援しよう!