[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 十四、楽園の創造 (最終話)
ハヤト・ウェイはジェームスの言った数値を大幅に上げながら言った。
こうして、戦後の絶望から立ち直り始めたヒトびとの街に、娯楽が生まれた。
音楽や部隊や映画やお笑いなどなど。
そして、街は色とりどりの芸術作品で溢れ始めた。
それを見て、ジェームスは、これは少し思っていた楽園に近いかもしれない…と感じるのであった。
「ハヤト・ウェイ。これならば、少し希望が持てるような気がする。時間はあとどのくらい?」
ジェームスはハヤト・ウェイの方を向きながら言った。
ハヤト・ウェイはうっとりするほどに美しく、そして清々しい微笑みをその顔に湛えていた。
「もうほとんど残っていません。まもなくこの卓上のゲームは終了し、世界の構築が始まります」
ハヤト・ウェイが言い終えるか否かのところで、卓上に広がった世界がパタパタパタと自動的に折りたたまれてどんどん小さくなったかと思うと、最初の本の形に戻ってしまった。
終わったのだ。
≪世界設定 ノ 完了 ヲ 感知 シマシタ。コレヨリ 新世界 ヲ 構築 シマス≫
どこからともなく機械的な声が響いた。
それと同時に凄まじい地響きと何かが軋む音が聞こえて来た。
ズズズズン…ズズズズン…と大地が揺れ、ザザザザザと大量の水が流れる音もしている。
ジェームスは恐ろしくなって立ち上がると、ハヤト・ウェイの方へと近寄った。
ハヤト・ウェイも立ち上がるとジェームスの手を優しくとって、大丈夫ですよ、と言った。
「新世界が構築されている音です。心配はいりません。こちらで待ちましょう」
ハヤト・ウェイはジェームスの手を引いてゲームの部屋を出ると、キッチンのあった部屋とは反対側の部屋のドアを開けた。
そこは、ベッドとソファー、そして小さな机のある部屋だった。
ハヤト・ウェイが生活している部屋と思われた。
ハヤト・ウェイはジェームスをソファーに座らせると自分もその隣に腰を下ろした。
「世界を構築中は少々揺れますから、ここに座って待つのが一番安全です」
そういうと、ハヤト・ウェイは両手を膝に置いて、目を閉じてしまった。
何かに聞き入っているような表情だ。
「私は、この世界が造られる音を聞くのが好きなのです。ジェームス・モルガンもぜひこのひと時に耳を傾けてみてください」
ジェームスも目を閉じて鳴り響いている音を聞いた。
ズシィイイン… ズドォォオオンン…
ギリギリギリギリ… ドザザザザァァァ…
凄まじい振動と共に、そんな音が聞こえて来た。
ジェームスにはこの音の素晴らしさはわからなかったが、ハヤト・ウェイとこのひと時を共有している素晴らしさに胸を熱くしていた。
しばらくしたら、自分は何もかも、こうしてハヤト・ウェイと話したことを忘れてしまって新しい自分になってしまう。
後には残らないこの素晴らしいひと時を、ジェームスはできるだけじっくりと、胸の奥へと深く噛みしめようと思った。
どれくらいの時間がたったのかはわからないが、地鳴りと凄まじい音がパタリとやんだ。
≪新世界 ノ 構築 ガ 完了 シマシタ。じぇーむす・もるがん ヲ 転送 シマス≫
先ほどと同じ機械の声が言った。
するとジェームスの視界がどんどん白くなっていった。
ジェームスはこんなに急にお別れの時が来るとは思っていなかったので、慌ててハヤト・ウェイの手を握った。
ハヤト・ウェイはその手を握り返すと、落ち着き払った表情でジェームスを向かって何かを言った。
声はもうジェームスには聞こえなかった。
だが彼は見ることができた。ハヤト・ウェイの唇が「また会いましょう」と動いたのを。
こうしてジェームス・モルガンの意識はシステムの中に溶けて行った。
それからほどなくして、13億4千8百62万4千7百43回目の最終検証が始まった。
(おわり)

TALESもよろしく★
おまけ
最後まで読んでいただいたみなさま☆ありがとうございます。
今回の連載にあわせて『ジェームス・モルガンのゲーム』をイメージした曲『天地創造』を再編集してリリースしました。
なんと歌わずに喋っています。喋るのは不得意なのですが、喋りました。
喋っているバージョンと喋っていないバージョンの2曲あります。
ゆるやかに四つ打ちの世界へと誘います。せひ聞いてください爆音で。
曲を聞く暇はない…という人は、この下に乗せた詩だけでもぜひお読みください。
各種サブスクで聞けます。
天地創造
▽その他のサブスクやDLはこちら
『天地創造』
その人は丘の上に立っていた
強く吹く風にシャツの裾をなびかせて
その人は丘の上に立っていた
その人は嵐と共にやって来た
その人は風そのものだった
白く長い腕を伸ばして空をかき混ぜ
その人は風そのものだった
その人は午後のひと時だった
木々のざわめきの隙間にまどろむ木漏れ日だった
その人は湖だった
深い深い水底に横たわる夢のように
波間に漂う木の葉のように
キラキラと反射する水面そのものだった
私はここで待っていた
あなたの帰りを待っていた
人々は土を耕しそして苗を植えた
夕刻のざわめきのようなあなたは
まだ帰ってこなかった
人々は田畑に水を引いていた
そしてここで王道楽土を築くのだと言った
So he said.
(そう、彼は言った)
wake up and eat. excrete. go to work.
(起きろ、そして食べて、排泄して、仕事へ行け)
don't have conversation.
(会話をしてはいけない)
just speak. speak your thought.
(ただ話せ。自分の考えを話せ)
explain it clearly.
(明確に説明しろ)
move, write, type, print words, don't read.
(動け、書け、タイプしろ、言葉を印刷しろ、読むな)
drive your computer.
(コンピューターを操作しろ)
use it for your job only.
(仕事のためだけに使え)
I wanna eat your dream, sight, life, movement, and mind..
(私は食べたい…お前の夢、視界、命、動作、そして心を…)
私は待っている
ここで全てを消し去ることを
長い長い時の中で
はてしない物語を終わらせるように
私はここで待っている
全てを消し去り終わらせることを
私はここで待っている
