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お風呂が面倒くさい話。

超新星ジータ × きすけ

夜10時を過ぎた街を、きすけは少し背中を丸めて歩いていた。

今日も一日、誰かのために笑っていた。
作り笑いも、本物の笑いも、もう区別がつかないくらい、たくさん。

駅からの坂道は、いつもより長い気がした。

部屋のドアを開けると、窓の向こうに東京の夜景が広がっている。

オフィスビルの灯りが、まだいくつか点いている。
あの灯りの下にも、今日のきすけみたいな誰かがいるのかもしれない。

きすけは、ソファに体を沈めた。

「はあ……」

ため息が、静かな部屋に溶けていく。

風呂に入るのが、面倒くさい。
ただ、ただ、面倒くさい。

お風呂場に行くのも、シャワーを出すのも、頭を洗うのも、身体を乾かすのも――
お風呂場までの道が、確かに存在するのにたどり着けない桃源郷のようだった。

もしくはマチュピチュ。
と心の中で呟いた。

隣の部屋から、シティポップのレコードがかすかに流れてくる。
窓の外を、車のライトが川のように流れていく。

きすけは、しばらく天井を見つめていた。

それから、自分にだけ聞こえる声で言った。

「帰って、すぐにお風呂に入れば、残りは自由時間!それだけで今日1日の勝ち組!」

言ってみると、少しバカみたいで、ちょっとだけ笑えた。

よしっ。

きすけは、のそっと立ち上がる。

シャワーのお湯が、頭に落ちてくる。
牛乳石鹸の泡が、指の間でゆっくり崩れていく。

考えることは、何もない。
今は、ただ身体を洗うだけ。

それだけで、いい。

お湯が、肩のあたりをじんわり温める。
湯気の向こうに、夜景の灯りが、にじんで見える。

身体をタオルで拭いて、
面倒くさいがドライヤーをして、
部屋に戻る。

夜景は、さっきよりも、少しやさしく見えた。

ベッドに横になる。

「よしっ、えらい!」

そう呟いて、きすけは目を閉じた。

東京の夜は、今日も静かに続いていく。

きすけの自由時間は、もう始まっている。

どうやら桃源郷は、お風呂の向こう側にあったらしい。


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