005 |切り替えの魔法、まだ途中。【夜ふかしアトリエ】
「さあ、切り替えて!」って、そんなに簡単にできたらいいのに。心には、心なりの準備のリズムがあるみたいです。
今日は、そんな“切り替えの魔法”が、
少しずつ育っていくお話を。
今日は森の広場で、ちいさな演奏会。
妖精たちが葉っぱをこすり合わせたり、
石を並べて音を鳴らしたりして、
にぎやかで楽しい時間が流れていた。
小ぐまのモカも、
木の枝で太鼓のような音を出すのに夢中でした。
ぴょんぴょん跳ねながら、
「これ、気に入った!もっとやるー!」と大はしゃぎ。
でも、演奏の時間はもうすぐ終わり。
みんなが道具を片付け始めるなか、
モカだけはまだ太鼓のリズムに没頭していました。
「モカ、そろそろおしまいにしようか」
ミラが優しく声をかけると、モカは顔をしかめて
「やだっ!まだおわんない!!」
とまわりの妖精たちが一瞬、手を止めてしまうほどの大きな声で叫んでイヤイヤ怒り出しました。
空気がぴりりと張りつめるるなか、
ミラは何も言わずに、自分の手鏡をそっと取り出して、モカの隣にしゃがんだ。
「モカ、鏡の中、見てみて」
モカはちょっとむくれた顔で覗き込む。
そこには怒った自分の顔が映っていたけれど、
その奥に、まだ“遊びたい”って気持ちが燃えているのが見えた。
「ねえ、モカ。いまね、ミラの耳には『楽しかった!』って音が聞こえたよ。それって、とってもいいこと。でもそのままじゃ、次の楽しいことが入ってくる場所が空いてないかも。」
モカはきょとんとしていたけれど、
少しだけ体の力が抜けた様子です。
ミラはポケットから、
小さな砂時計のようなものを取り出す。
でも中に入っているのは砂じゃなくて、きらきらした光の粒だった。
「これ、“心の針”がくるっと回る魔法道具なの。
この粒が全部下に落ちると、“いま”から“つぎ”に、
ゆっくり気持ちが切り替わるんだよ。」
モカは目を丸くしたまま、それをじっと見つめていた。
「こうやって、魔法を使ってから終わるのはどう?」
少し考えてから、モカはコクリと頷いた。
そして、光の粒が静かに落ちていくあいだ、
モカは太鼓の枝を膝に置いて、
ただその“時間”を見つめていた。
全部の粒が落ちたとき、モカはぽつりとつぶやいた。
「……おしまいにする。ミラ、つぎはなに?」
その言葉に、ミラはにっこり笑った。
「“切り替えの魔法”、またひとつ上手になったね。」
その日、森の広場では、
もうひとつの演奏が鳴り響いていた。
それは太鼓でも、笛でもない、
小さな子が自分の気持ちをそっと切り替える音。
それは、聞こえないけれどたしかに響く、
心の中の、静かな鐘の音だった――。
©Chocodori / ©Yofukashi Atelier
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