009 | ふたつの声と、湖に浮かぶ手紙【夜ふかしアトリエ】
この森にはちょっと不思議な噂があります。
『お悩みをそっと手紙に書いて、森の湖に浮かべると
どこからともなく森の住人が現れて、
静かに返事をくれるんだって。』
静けさの中でしか届かない声。
今夜も誰かが、湖に手紙を浮かべたようです……
*
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森の湖に一通の手紙がふわりと浮かんでいました。
月明かりに照らされながら、風に揺られ、少しずつ波に溶けていくように……
『私は、自分を安売りしてしまいます。
断られるのが怖くて、欲しいものをはっきり言えません。謙虚と甘えの境界も、自分の価値も、よくわからなくなるんです。
このままじゃ、どこにも届かない気がして。
どうすれば、自分の価値を信じられるでしょうか?』
手紙が溶けたその瞬間、
湖の上にふわりと影が浮かびました。
逆さにぶら下がる少年――サカサビト。
そして、湖面を歩くように現れた少女――ミラ。
ふたりは湖の静けさの中で、手紙に応えるように話し始めました。
サカサビト:
「出た出た、“信じたいけど信じられない”ループ。」
ミラ:
「怖いのはね、“価値がない”って言われることじゃなくて、“価値がないかもしれない”って、自分で思い込んじゃうことだよ。」
サカサビト:
「でさ、それをごまかすために“ちょっと安くしとけばOK”とか、相手が察してくれるかも、って思っちゃうんだよね。」
ミラ:
「でも、“安かったから選ばれた”って思うと、本当の意味で喜べなくなっちゃう。自分を信じきれないから。」
サカサビト:
「甘えと謙虚の違いって、たぶん“期待”の有無かもね。
甘えは『誰かが気づいてくれる』っていう受け身の期待。謙虚は『自分の声を信じたうえで、相手の声も聞く』ってこと。」
ミラ:
「信じるって、力がいることだよね。
だから、最初からうまくいかなくてもいいの。
まずは、“この気持ちも、ちゃんと価値がある”って、
自分に言ってあげるところからでいいんだよ。」
サカサビト:
「価値は“結果”じゃなくて“覚悟”で生まれるんだよ。
出すときの自分の想いが、ちゃんと届いていれば、
たとえ拒まれても、それは価値を失ったわけじゃない。」
ふたりの声は、夜の静けさの中に
しずかに溶けていきました。
湖面は再び静まり返り、
波紋だけが月明かりに揺れていました。
けれど、そこにはたしかに、
「誰かの声が届いた」という証が、
静かに残っていたのです。
また誰かの手紙が浮かぶかもしれません。
そのときは、また別の場所から、
森の住人が、そっと灯りを届けに来てくれるでしょう。
©Chocodori / ©Yofukashi Atelier
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