見出し画像

【ゆっくり解説】食わず女房 ― 全国で語られた「飯を食わない嫁」の話

この記事はYouTube動画『【ゆっくり解説】食わず女房 ― 全国で語られた「飯を食わない嫁」の話』の台本です。
動画版はこちら→ https://youtu.be/q3jsp9qoUYc


台本

めたん「ずんだもん、『目も食え、鼻も食え』って唱えながらご飯を食べる人がいたら、どう思う?」

ずんだもん「目と鼻に食べさせるのだ? ……それ、どういう食べ方なのだ」

めたん「新潟(にいがた)で書き取られた昔話の語りに、そういう場面があるのよ。女の人が大きな釜(かま)でご飯をいっぱいに炊いて、握り飯を山ほどこしらえて、髪をほどきながらそう唱えるの」

ずんだもん「髪をほどく……? ご飯を食べるのに、なんで髪なのだ」

めたん「髪の中に、大きな口があるからよ。握り飯は、そこへ次々と放り込まれていくの」

ずんだもん「ひぇっ。今、とんでもないことをさらっと言ったのだ」

めたん「今日の話は『食わず女房(くわずにょうぼう)』。ご飯を食べない嫁が来る、っていう昔話ね。日本のほぼ全国で語り継がれてきた話よ」

ずんだもん「ご飯を食べない嫁……その頭に口がある人が、その嫁なのだ?」

めたん「そう。まずは、この話がどういう筋なのか、頭から通してみましょうか」

めたん「話はね、ある男から始まるの。この男、語りの中で最初から『欲張りの男』って紹介されるのよ」

ずんだもん「紹介された時点でひどい言われようなのだ」

めたん「その男がいつも言ってるのが、飯を食わないで、よく働く嫁だったらもらってやってもいい、っていう言い草なの」

ずんだもん「そんな都合のいい人、いるわけないのだ」

めたん「ところが来るのよ。ある日、若い女がやってきて、わたしはご飯を食べないで働きますから嫁にしてください、って」

ずんだもん「来ちゃったのだ……」

めたん「男は大喜びで嫁にする。しかも実際その通りなの。よく働くし、本当に何も食べない。男からしたら願いが叶ったわけね」

ずんだもん「ボクだったら、ちょっと申し訳なくなってくるのだ」


めたん「ところが、ある日、隣の人が気づくのよ。あの家、亭主が仕事に出たあとなのに、やけに中が騒がしい」

ずんだもん「留守のはずなのに、音がしてるのだ」

めたん「隣の人はそっと家をのぞいてしまうの。そして、見たままを亭主に知らせる」

ずんだもん「見ちゃったのだ……そして言っちゃったのだ」

めたん「男は仕事に出かけるふりをして、二階へ上がって、留守のあいだの嫁の様子をうかがうことにするの」

ずんだもん「さっきの『目も食え、鼻も食え』が出てくるのだ……」

めたん「ええ。男が二階から見下ろしたのが、まさにその場面。大釜(おおがま)いっぱいのご飯が握り飯になって、頭の口へ片っ端から消えていく」

ずんだもん「ボクなら足がすくんで二階から落ちる自信があるのだ」

めたん「男は震え上がって、こんなものを家に置いてはおけないと思うの。それで、何も見ていない顔で帰ってきて、悪いけど出て行ってくれ、と切り出す」

ずんだもん「正面から言うのだ! 度胸だけはあるのだ」

めたん「ところが嫁の返事がね。『そうかい。じゃああんた、わたしがご飯を食べてるところを見たんだね』」

ずんだもん「全部お見通しなのだ……」


めたん「嫁は、出て行くと言うのよ。ただし、支度をするあいだ、風呂桶(ふろおけ)の中に入って待っていてくれ、って」

ずんだもん「入っちゃだめなのだ。それは絶対に入っちゃだめなのだ」

めたん「入るのよ、男は。そして嫁は縄でその桶ごと背負って、家を飛び出して、山の中へどんどん入っていくの」

ずんだもん「連れていかれてるのだ!」

めたん「山の中で桶を下ろすと、嫁は言うの。今から仲間を連れてくる、引っぱり出して食ってしまう、って。桶の蓋には、重たい石を載せていく」

ずんだもん「仲間まで呼ぶのだ……」

めたん「男は死に物狂いでその石を押しのけて、桶から逃げ出す。そして、そばに生えていた蓬(よもぎ)と菖蒲(しょうぶ)の茂みに、そっともぐって隠れるの」

ずんだもん「草むらに飛び込んだのだ!」

めたん「そこへ嫁が、大勢の仲間の鬼を連れて戻ってくるの。でも桶は空っぽ。鬼たちは、あっちへ逃げたかと言って、向こうの山のほうへ探しにいってしまう。男はそのまま家へ逃げ帰る。ここまでが、新潟のあの語りの筋ね」

ずんだもん「ふぅ……生きて帰れてよかったのだ」


めたん「さて。ここまでが話の中身。ここからは、この話が日本のどこでどう語られてきたか、っていう話に移るわね」

ずんだもん「全国にある話って言ってたのだ」

めたん「ええ。名前も土地によって少しずつ違っていて、飯食わぬ女房、飯食わぬ嫁、お飯食わね嫁。呼び方はいろいろだけど、たいてい『食べない』っていう意味の言葉が入ってる」

ずんだもん「名前のほうに、食べないところが出てるのだ」

めたん「そして面白いのが、正体よ。さっきの新潟の語り、話の中では正体を名乗らないんだけど、語りを載せた本の解説では、やまうば(山姥)だと説明されてるの。でも、土地によってまるで違うわ。鬼、蛇、クモ、タヌキ、カエル、河童(かっぱ)」

ずんだもん「河童まで! 守備範囲が広すぎるのだ」

めたん「しかも、ばらばらというわけでもなくてね。東のほうはやまうばや鬼。そして西へ行くほど、クモを言う傾向が強くなっていくの」

ずんだもん「西はクモなのだ……それって、家の隅にいるあのクモなのだ?」

めたん「そう、そのクモ。それと、さっき髪の中に口があるって言ったでしょう。あれも語りによって差があるの。頭のてっぺんだとする話が多いけれど、位置や形が違うものもあるし、そもそも口のない嫁、っていう例まであるの」

ずんだもん「口がない! 食べようがないのだ」

めたん「食べないから嫁に選ばれた、っていう理屈ね」


めたん「ここで、さっきの結末をもう一度思い出してほしいの。男が蓬と菖蒲の茂みに隠れて助かった、というところ」

ずんだもん「覚えてるのだ。逃げ込んだ先が草むらだったのだ」

めたん「あれ、ただの隠れ場所じゃないのよ。新潟のあの語り、いちばん最後に一言ついてるの。だから今でも、魔除けに、五月の節句(せっく)には戸口へ蓬と菖蒲を立てるんだ、って」

ずんだもん「えっ。昔話が、そのまま今の行事の説明になってるのだ?」

めたん「そういう話なの。食わず女房って、結末が何かの由来を説明する形になっているものが多くてね。五月五日の節句に菖蒲や蓬を軒に挿す、その由来がこの話だ、と説く例も多いのよ」

ずんだもん「五月五日って、菖蒲湯(しょうぶゆ)に入るあの日なのだ」

めたん「ええ、あの菖蒲。しかも、草の効き方も語りによって違うのが面白くてね。群馬(ぐんま)で書き取られた話だと、追ってきた鬼婆(おにばば)は、その草に触ると身が溶けると言って蓬の中へ入ってこない。菖蒲のところでは、刀がこわい、刀がこわいと言って入ってこないの」

ずんだもん「草がちゃんと武器になってるのだ。ただの茂みじゃないのだ」


めたん「そして、ここからが今日いちばん話したかったところ。正体がクモになる西のほうだと、結末そのものが別の話になるのよ」

ずんだもん「えっ、同じ話なのに、終わりだけ別なのだ……」

めたん「クモの型だとね、逃げられたと知った女が、仲間に向かって言うの。今夜クモになって、あいつを殺しに行く、って。ところがそれを男に聞かれてしまっていて、やってきたところを返り討ちにされる」

ずんだもん「クモの姿で乗り込んで、そこで終わりなのだ……」

めたん「で、その結末が説明しているのは、菖蒲でも蓬でもないの。夜のクモを忌む、あの言い伝えのほう。夜の蜘蛛(くも)は親に似ていても殺せ、っていう言い方で伝わってるものね」

ずんだもん「あっ、それ聞いたことあるのだ」

めたん「同じ一本の話なのに、東では五月五日に草を飾る由来になって、西では夜のクモを殺す由来になる。正体が入れ替わると、話がたどり着く先の風習まで入れ替わってしまうのよ」

ずんだもん「話の終点が、土地ごとに別々なのだ……なんだか道が枝分かれしてるみたいなのだ」

めたん「そして、この話が説いていた風習のほうは、今もちゃんと続いてる。五月五日に菖蒲と蓬を飾って、菖蒲湯に入る」

ずんだもん「昔話のほうは終わっても、続きが毎年やってきてるのだ」


めたん「というわけで、今日は食わず女房の話をしてきたわ。飯を食わない嫁が来て、髪の中に口があって、風呂桶で山へ運ばれて、草むらで助かる」

ずんだもん「ボク、さっきの頭の口のところが、この話のいちばんの山場だと思ってたのだ」

めたん「山場なのは確かよ。でも話が本当に動くのはその後。風呂桶で山へ運ばれるところからだもの」

ずんだもん「しかも、行き着く先が土地ごとに違うのが面白いのだ。菖蒲と蓬の話にもなるし、クモの話にもなるのだ」

めたん「全国で語り継がれてきた話だからこそ見えてくる違いね。今日の動画はここまで。今回の話が面白かったら、高評価やチャンネル登録をしてもらえると嬉しいわ」

ずんだもん「それじゃ、またなのだ!」

めたん「またね」


用語解説リスト

  • 食わず女房(くわずにょうぼう)── ご飯を食べない嫁が来る、という日本の昔話

  • 新潟(にいがた)── 動画で筋をたどった語りが書き取られた土地

  • 大釜(おおがま)── 大きな釜。一度に大量の飯を炊くために使う

  • 風呂桶(ふろおけ)── 動画で扱った語りでは「据え風呂(すえふろ)」。人が中に入れる大きさの桶

  • 蓬(よもぎ)── 草餅にも使われる草。魔除けとして軒に挿す風習がある

  • 菖蒲(しょうぶ)── 五月五日に軒へ挿したり、湯に入れたりする草。花菖蒲(はなしょうぶ)とは別の植物

  • やまうば(山姥)── 山に住むとされる女の妖怪

  • 河童(かっぱ)── 水辺に棲むとされる妖怪

  • 群馬(ぐんま)── 草の効き方が異なる語りが書き取られた土地

  • 鬼婆(おにばば)── 群馬の語りで男を追いかける側として登場する

  • 節句(せっく)── 季節の節目に行う行事。五月五日はそのひとつ

  • 菖蒲湯(しょうぶゆ)── 菖蒲を入れた風呂。五月五日の風習として今も残る

  • 蜘蛛(くも)── 「夜の蜘蛛は親に似ていても殺せ」という言い伝えがある


台本こぼれ話

① 二口女とは、似ているだけの別物らしい

頭に口を持つ女、と聞いて二口女(ふたくちおんな)を思い浮かべた人もいるだろう。実際、この二つはたびたび同一視されて語られてきた。

ただ、出自はかなり違う。二口女は江戸時代の奇談集『絵本百物語』(1841年)に載る妖怪で、後頭部にもう一つの口を持つ。

そしてその口は、生まれつきのものではない。継子に食事を与えず餓死させた後妻が、夫の振り上げた斧が誤って当たったことで頭に傷を負い、その傷がやがて口の形になった、という因果応報の奇病として書かれている。

つまり二口女は、化け物が人に化けた姿ではなく、人がその行いの報いとして変わってしまった姿である。

さらに言えば、この話は下総国のこととして書かれているが、実際に同地に伝わっていた話ではなく、著者が編んだものだと指摘されている。髪を蛇のように操って口へ食べ物を運ぶ、というあの有名な絵の描写にいたっては、本文には一切なく挿絵にしか存在しない。

食わず女房のほうは正体が山姥や大蜘蛛であり、話の型もまるで異なる。似ているのは頭部の口という一点だけで、両者は別のものと考えられている。


② 男はなぜ「桶屋」なのか

動画では触れなかったが、この話の男の職業には、ひとつ気になる偏りがある。桶屋とする例が多いのだ。

その理由について、旅をする桶屋が話の語り手であったからであろう、という推量が示されている。桶屋など渡り職人が、この話の分布に関与したとも言われる。

もしそうなら、話の中で桶に閉じ込められる主人公は、その話を各地へ運んだ人間自身の姿ということになる。断定できる話ではないが、昔話が誰の足で広がっていったのかを考えさせる見方だろう。

ちなみに、動画でたどった新潟の語りでは、男は桶屋ではなく大工である。


③ なぜ夫の前では食べないのか

この話でいちばん不思議なのは、正体でも結末でもなく、「夫の前では食べない」という設定そのものかもしれない。隠れて食べるなら、食べる量を減らす必要はないはずだ。

この点については、夫の前で食べない理由は共食を避けるところにあろう、という見方が示されている。相手が元来異郷のものであるとの表明とも言える、とも。

さらに、ここには「籠り妻」の民俗がうかがえるとも指摘されている。怪異の設定として読むか、婚姻をめぐる古い習俗の名残として読むかで、この嫁の姿はずいぶん違って見えてくる。


参考・おすすめ書籍

『日本昔話ハンドブック 新版』稲田浩二編(三省堂)
日本の代表的な昔話200話のあらすじと背景を解説したハンドブック。昔話の地域比較・国際比較についての記述も収める。
https://amzn.to/4wzYOWK

『日本昔話事典 縮刷版』稲田浩二ほか編(弘文堂)
口承文芸の総合事典。話型・モチーフ・構成要素といった研究用語のほか、神話・伝説・語り物・ことわざの項目も収録している。
https://amzn.to/4wERgSV

※当ページはAmazonアソシエイト・プログラムの参加者です。リンクを経由して商品を購入されると、投稿者に紹介料が発生します。


▼動画で見たい方はこちら

https://youtu.be/q3jsp9qoUYc



いいなと思ったら応援しよう!