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境の人・水彩版/Vol.15『地方紙&古書』

 境の人(BADARAGI~The Border Report~)水彩版

 Vol.15『地方紙&古書』

『奥羽コレクション/東北の伝説』
 ――昭和64年1月7日発行/第一部・境の蝶が誘うもの/文責・斎藤四郞――

 東北の山々は、古来より現世と異界の境として語り継がれてきた。とくに、岩手県と秋田県の県境一帯には、神隠しや時空のズレを匂わせるさまざまな伝説が点在している。その中でも、令和時代に入ってからにわかに話題に上っているのが「幻の蝶」にまつわる口伝である。地元の古老から聞き書きした記録には、このような言葉が残されていた。
「蝶に誘われるは、冥き処へ行く印」
 記者は、これについてさまざまな分析をこころみた。蝶を魂の運び手とする思想は、古くは古代ギリシャにも見られるが、東北の口伝はより直接的である。蝶は、単なるシンボルではなく、実際に人間を異界へ導く案内役として語られている。これが、戦前から散発的に生起している八幡平の神隠しや失踪と結びつくとき、蝶が単なる偶然の産物ではないことをどことなく匂わせている。それは、境の地から現世へ向けられた、なんらかの意思のあらわれなのではないか。

     ※※※

『誰も知らない民俗と風習・東北篇』
 ――昭和7年6月19日発行/八幡平・蝶追いの踊り/著者:高野民弥――

 八幡平の一部に残っている風習として〝蝶追いの踊り〟がある。これは、若者が特別な蝶を求めて、森の中、山の中へと深く入っていくという流離譚である。その行き着く先は、豊かな自然と時が止まったような空間が広がる桃源郷。そこで、乙姫さまのような女性に歓待され、数日を過ごして帰還するという、浦島太郎型の流離譚として知られている。これに付随しているのが、岩手県から秋田県にかけての江戸時代の古文書や古地図、あるいは、その解説の読み下し文などの資料である。これらには、現代の地図では消滅してしまっている古道が詳細に記載されていた。とくに興味深いのは、この古の道々を記した絵図には、かならず、蝶の絵が描かれている点である。この蝶は、現代の東北に棲息している蝶類とは異なる、異様な色と形を持っており、あたかも道の案内役のように描かれている。この蝶を追いかけてゆくさまを舞踊化したものが〝蝶追いの躍り〟である。

     ※※※

『東北の怪異』
 ――昭和33年3月13日発行/蝶追いの踊り再考/著者:藤間範之――

 前掲書に記された言い伝えの〝蝶追いの踊り〟の場所について、丹念に調査した記録を残しておきたい。かつては、ただの怪異譚の域を出ないとされていたが、当時の地元の住人への聞き込みや、地形の比較を続けるうち、どうもこの伝説には、真実の核があったのではないかという推論に至る。現代の科学や常識では説明しきれない、空間の屈折や時間の間延び。そうした現実にはありえない空域へ蝶に導かれて入ってゆくのだが、その場所は物理的な森ではなく、時空の歪みの生じているなにかしらの特別な空間であった可能性が高い。そうした場所の候補ともいえるところが、東北地方に点在する石の遺跡である。

     ◇◇◇

 油彩版は、こちらにあります。
 境の人・BADARAGI/油彩版(薫)|点心会

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