境の人・水彩版/Vol.13『Blog/水の骨』
境の人(BADARAGI~The Border Report~)水彩版
Vol.13『Blog/水の骨』
――2025年11月09日07時30分/岩手県八幡平・山小屋のアトリエ――
山小屋は、朝の凍える空気につつまれる
川を凍らせ、森を凍らせ、山を凍らせる空気に
下絵を描いてはまた破り捨てる
画題はつかめないまま
絵を描く手は、冷たく心を撫でる
過去の記憶が、薄く凍るように蘇る
幼い日の物置の暗闇が、心に影を落とす
あのとき逃げ出して、川へ落ちた
うちのうしろを流れていた水無川に
川から這い上がって、森へ入った
森から抜け出して、山をめざした
わたしの川、わたしの森、わたしの山
そんなもの、どこにもない
凍てついた鏝の痛みを、いまでも思い出す
カレが残した瑕
カレが刻んだ印
カレを奪い合った、あの日の情念
忘れたいのに忘れられない情念に
いやおうなく、ひきずり戻される
苦しい、苦しい、苦しい――
解放されたい、この苦しみから
〝境の人〟を描けば、解放されるのだろうか
画題が定まらない苦しみから
気が狂いそうになる執着から
自分の凍った輪郭が溶けてゆくような
まるで、影が薄くなるような、感覚から
境界が曖昧になり、異界に近づいていければ
わたしは、解放されるのだろうか?
暗闇から、解放されるのだろうか?
父からも、母からも、愛されなかった暗闇から
蝶よ――
〝黒い影〟や〝KAI〟や〝カレ〟と繋いでくれるの?
かれらは、誰もが、この地で、あなたに導かれたの?
わたしもその列に加えてもらえるの?
〝境の人〟を描き上げれば――?
◇◇◇
油彩版は、こちらにあります。
境の人・BADARAGI/油彩版(薫)|点心会
