七(セブン)国家に喧嘩を売った都市伝説④

とにかく逃げ続けないと。
第一の七が言ってた。
監視カメラが私たちを追い続けている。
しかし奈々ちゃんの足取りが重い。
足をくじいているせいだ。
奈々の手を取って歩いていると、正面に停まっていたワゴン車から数人の男が降りてきた。
こっちに近づいてくる。
多分、後ろからも来てるはず。
まずい、挟まれる。
仕方なく目の前のビルの通用口に逃げ込んだ。
守衛の人に掴まれそうになったけど隙をついて入り込んだ。
入口でさっきの男たちが守衛さんと揉めている。
今のうちに奥へ。
パンッ!
背後でいやな音がした。
まさか、だよね……
振り返ると守衛さんが脚を押さえて倒れていた。
作業服が血に染まっている。
拳銃?
嘘でしょ!
GUでの爆発を思い出した。
今、追ってきているのはそういう人達なんだ。
エレベーターが降りて来ない。
焦ってボタンを何度も押すけど、それでどうなるものでもない。
待ってなんかいられない。震える足で階段を登った。
「菜々ちゃん、辛いだろうけど頑張って」
私たちを捉えられるという自信からだろうか、彼らはゆっくりと距離を詰めてくる。
とにかく上へ、とにかく奥へ。
それでなんとかなるとは思えないけど逃げ続けないと。
心のどこかでは第三の七が現れて助けてくれるのではと期待していた。
「この階で、最後」
もう息も絶え絶えだ。
ここから先にはもう逃げ場がない。
焦って手を強く引いた拍子に奈々が転んでしまった。
くじいた足で階段を上り続けたせいだ。
奈々はうずくまって立ち上がれそうにない。
けど……
「お願い菜々ちゃん、立って」
「お願いだから、じゃないと私たち」
本当はこんなこと、言いたくない。
「殺されちゃうの!」
肩で菜々を支えながら、廊下を奥に進んだ。
最後の角を曲がると私は絶望した。
そこが、行き止まりだった。
菜々もしゃがみこんで動かない。
「ごめんなさい……」
「私のせいで……」
硬い足音が近づいてくる。
菜々を抱きしめて庇ってあげるしか、もうできることはなかった。
「袋小路に逃げ込むなんてな」
「素人が」
曲がり角の向こうから馬鹿にした話し声が聞こえた。
悔しい……
なんで私がこんな目に……
男の影が角に差し掛かったときだった。
奈々は突然立ち上がって、手にしていた透明の糸を勢いよく引いた。
突如、轟音とともに火柱が上がり、男たちを壁に叩きつけた。
「こんな初歩的な誘導撤退に引っかかるなんて」
「素人はだめね」
呆気に取られて、凛々しく立つ奈々の後ろ姿を見上げた。
「い、い、い、今の、今の……」
「ブービートラップ」
「さっき転んだついでにね」
髪を束ねたゴムバンドを無造作に解くと、湿ったように艶やかな黒髪が背中に流れた。
さっきまでの怯えてた素振りはどこにいったの。
周囲を睥睨するその瞳は、まるで獣の王のようだった。
「───あなた、誰?」
震える唇で尋ねた。
彼女は眼球の動きだけで私を視界に捉えて言った。
「菜々」
「菜々、それは知って…………」
「菜々…………七…………」
「セ、セブンなの?」
菜々は呆れたように小さく笑った。
「最初から”七(なな)“だと言ってるのに」
そうだ、私が勝手に“菜々”か“奈々”だと思い込んでいただけだ。
「さぁ、逃げましょ」
冷たい声でそう言うと、私の手を取って走り出した。
炎を上げる瓦礫にも怯まず、スプリンクラーの滝に飛び込むことにも躊躇しない。
捻挫なんて嘘だったの?
さっきまで足を引きずっていた人物とは思えない。
まるで本物の戦場を経験して来た兵士のような身のこなし。
ビルの入口には赤いランプが無数に回転していた。
「ちょっとこれ塗って」
焼けた木材の煤を私の顔や服に擦り付けた。
「ちょ、やめて。何するの」
私の訴えなど耳を貸さずに奈々は叫んだ。
「助けてください!」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが怪我をしているんです!」
迫真の演技に呆気に取られた。
嘘、本気で泣いてる。
演技とは思えない。
けど……私、怪我してないし。
ぜんぶ嘘よね。
目を合わすと、口角をあげて合図をされた。
仕方なく私も怪我で動けない振りをした。
救助車で運ばれる私の横で奈々は泣き続けた。
「お姉ちゃん、しっかり。お願いだから……」
救急車のサイレンだけが鳴っている。
奈々はもう泣いていない。
さっきまで涙で濡れていた顔は、
何事もなかったように静かだった。
私は恐る恐る尋ねた。
「あなたが、本物の七なの?」
