ショーン・ベイカー「アノーラ」
愛を買われた人間は
もう愛を受け入れられない
心を汚された人間はもう心を信じられない
木偶の坊の股の上でキスを拒んだアニーの流す嗚咽は
カネにまみれたこの世の片隅に追いやられて
それでもカネに頼って生きざるを得ない
そんな人たち全ての怒りと悲しみだ
描かれるカネと権力と欲望で出来た砂上の楼閣での享楽
全て空虚でそれゆえに派手で豪奢でありえないほど賑やか
だから夢の終わりはあまりに冷たく静かで厳しい
楽しみも喜びもすべては幻
他人事なら喜劇
自分ごとなら悲劇
サングラスの奥で哀しみを見せずに
一筋流すアニーの涙だけがある真実を語る
まるで泥の中にも一粒の砂金があるように
汚辱にまみれた恋にもわずか純潔の愛があったことを偲ばせる
真の裏切りは言葉に、態度に宿る
それでも信じたかった
だから、涙
全てが嘘の世界で唯一人間の真実を語る
ショーン・ベイカーは映画の紛れもない作家である
