チャッキーは別れたDV旦那で、トマトには言えない遺族がいて、さやえんどうは救済だった【ヨイとトックのホラー部室 #01】
シネマ先生とトックの映画漫談スピンオフ。
先生は出てこない。トックの大学の先輩・九条 宵(ヨイ)と、トックの2人が、「やる気のない映画サークル」の部室で、ホラー映画をゆるーくだべる場所。
今日はこの3本。
「チャイルド・プレイ」
「アタック・オブ・ザ・キラートマト」
「SF / ボディ・スナッチャー」
先輩と後輩だから、かしこまらない。
本音と感覚で語る。
知識は後からついてくる。
どうぞ、部室を覗いていってください。
キャラクター紹介

壁の向こうのベース、また始まった

【5月某日 映画研究部 部室にて】
ベーン、ベーン、ベン、ベン、ベン、ベン、ベベベベ・ベンベンベンベン!
👻 ヨイ:……ただいま。
🎤 トック:ちっす。
👻 ヨイ:今日うるさくない?
🎤 トック:隣の軽音、新曲練習してるっぽいっすね。
👻 ヨイ:新曲なの、これ。
🎤 トック:ベースの同じフレーズ20分くらい繰り返してるんで、たぶん新曲っす。
👻 ヨイ:……地獄じゃん。
🎤 トック:地獄っす。
ベーン、ベーン、ベン、ベン、ベン、ベン、
ベベベベ・ベンベンベンベン!
👻 ヨイ:ねえトック。
🎤 トック:はい。
👻 ヨイ:これ、ホラー映画にしたら成立するよね。
🎤 トック:え?
👻 ヨイ:同じフレーズが延々繰り返される部屋。住人が2人。脱出できない。
🎤 トック:やだ怖い。
👻 ヨイ:タイトル「壁の向こうのベース」。
🎤 トック:センスが急に素人……。
👻 ヨイ:うるさい。
🎤 トック:うるさいのは軽音っす。
👻 ヨイ:(ソファに座る)……あ、このソファやっぱ沈むね。
🎤 トック:10年前からそうらしいっすよ。
👻 ヨイ:10年前のソファ、いつ変えるんだろ。
🎤 トック:変える人いないんじゃないすかね。
👻 ヨイ:だよね。で、今日なに語るの。
🎤 トック:今週、3本観てきたんすよ。ヨイせんと語りたくて。DVDも持ってきました。
👻 ヨイ:おー、予習完璧じゃん。
🎤 トック:ちょっと変わった組み合わせなんですけど。
👻 ヨイ:ほう。
🎤 トック:人形と、トマトと、乗っ取られた人間っす。
👻 ヨイ:……お、いいじゃん。
🎤 トック:わかります?
👻 ヨイ:わかるよ。「中身が入れ替わってるホラー」でしょ。
🎤 トック:正解、さすがっす。
👻 ヨイ:人形の中に殺人鬼、トマトの中に敵意、家族の中に知らない何か。見た目は同じなのに、中身だけ違う。これが一番怖いんだよね。
🎤 トック:嫌っすね。「なんか今日の父ちゃん、妙に優しい」みたいな。
👻 ヨイ:一番怖いやつ。
🎤 トック:ホラー映画、だいたい「違和感」から始まるんすね。
👻 ヨイ:これ、わたし3本とも好きなやつ。順番に殴ろう。
🎤 トック:殴るんすか。
👻 ヨイ:今日は精神を。
🎤 トック:嫌な映画研究部だなぁ。
ベベベベ・ベンベンベン!!
🎤 トック:今の、ドラムも入ってきませんでした?
👻 ヨイ:始まったかもしれない。文化祭。
🎤 トック:終わったかもしれない。俺らの集中力。
チャッキーは居酒屋で悪酔いしてる別れたDV旦那だった

👻 ヨイ:じゃあまず1本目。『チャイルド・プレイ』、1988年。
🎤 トック:これ、ヨイせん何回観てます?
👻 ヨイ:2かな。3だったかも。覚えてない。
🎤 トック:多いっすね。
👻 ヨイ:多くない。好きな人は20回とか観てるから。
🎤 トック:それはもう病気っすわ。
👻 ヨイ:で、トックは今回が初めて?
🎤 トック:はい、今週初めてちゃんと観ました。名前とビジュアルは知ってたんすけど、1作目はノーマークで。
👻 ヨイ:どうだった。
🎤 トック:……なんか、あの。聞いていいっすか。
👻 ヨイ:うん。
🎤 トック:なんで人形、あんなに動けるんすか。ゴキブリみたいに。
👻 ヨイ:(少し笑う)ゴキブリ言うな。
🎤 トック:しかも絶対、見失った瞬間に近づいて来るタイプじゃないですか。
👻 ヨイ:夜中に「今どこ行った!?」ってなるやつね。
🎤 トック:そう! あの恐怖なんすよ!車とかベッドの隙間シャカシャカって動くじゃないすか。どこいるか分かんないすよ。洗濯機の裏かもしれないし冷蔵庫と壁の隙間かもしれない。
👻 ヨイ:完全にゴキブリ扱いするのやめてあげて。
🎤 トック:俺、もう一つ言いたいんすよ。あれ人形のサイズじゃないですか。小さいじゃないですか。なのに階段ダッシュするし、大人襲うし、包丁持って刺す。
👻 ヨイ:するね。
🎤 トック:魂が入っても、物理は別でしょ。車のシート突き破るチャッキーの筋力、どっから来てるんすか。
👻 ヨイ:(完全に笑ってる)いい質問。誰も答えられない質問。
🎤 トック:答えないんすか。
👻 ヨイ:答えないの、ホラー映画って。でもね、それがこのジャンルの面白いところで。「なんで動けるの」を説明しすぎると、怖くなくなるんだよね。チャッキーが怖いのは、理屈が雑だからこそ。
🎤 トック:雑なのが怖い?
👻 ヨイ:うん。理屈通ってる怖さは「納得できる怖さ」。理屈ない怖さは「逃げ場がない怖さ」。こっちの方が本能に来る。で、わたし一番好きなの、チャッキーのキレ方なんだよね。
🎤 トック:キレ方?
👻 ヨイ:あのさ、チャッキーって魂はおっさんの殺人鬼じゃん。チャールズ・リー・レイ。通称チャッキー。だから喋り方とか態度が、完全にアレなんだよ。
🎤 トック:アレ?
👻 ヨイ:チンピラの酔っ払い。
🎤 トック:……え?
👻 ヨイ:見てみ、チャッキーのブチ切れ方。カレンに向かって「このクソビッチ!」「ブッ殺してやる!」ってガチギレするじゃん。悪酔いして居酒屋で絡んでるチンピラのノリ。
🎤 トック:まあ、殺人鬼だけあって根っからのクズ感が凄いっすよね。
👻 ヨイ:そう、もうどうしようもない。で、機嫌いい時は妙に愛想いいのに、急にスイッチ入るタイプ。また叫び声がいいんだよねー。できる?
🎤 トック:……え、何すかそのフリ。モノマネすか。
👻 ヨイ:(こくり)
🎤 トック:(すぅー)……んぬぅぅぅおおおおお!
👻 ヨイ:(爆笑)
🎤 トック:いや待ってください、自分でも何の声かわかってないっす。
👻 ヨイ:でも「酒飲んで暴れてる小さいチンピラ感」は出てた。
🎤 トック:最悪の褒め方っす、それ。
👻 ヨイ:話し戻すとさ、人形のガワに「ろくでもない大人」の人格が入ってるから怖いの。
🎤 トック:俺の中のチャッキー、チンピラからもう戻れないんすけど。
👻 ヨイ:そのままでいて。さらに言うとさ、チャッキーの人形の名前、「グッドガイ」って言うの、覚えてる?
🎤 トック:あー、そういう商品名でしたよね。
👻 ヨイ:グッドガイ。良いやつ。なんで、よりによって「グッドガイ」なんだろうって、ずっと思ってたの。
🎤 トック:確かに言われると。
👻 ヨイ:チャールズ・リー・レイの魂が入ったのが、「グッドガイ」という名前の人形。子どもに懐かれたくて、子どもの友達になりたくて、でも暴力しか知らないオヤジが「良いやつ」のガワを着せて近づいてくる。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:「ハーイ、ぼくチャッキー、友達になろう」って言うの。アンディに。
🎤 トック:言いますね。
👻 ヨイ:これ、別れたDV旦那が、おもちゃ買って子どもに懐かれようとしてる図と、完全に一致するんだよね。なんならチャッキーがDV旦那。
🎤 トック:嫌すぎる例えだなぁ……。
👻 ヨイ:でもちょっと分かるでしょ。
🎤 トック:分かる気がするのがもっと嫌なんすよ。絶対養育費払ってないっすよチャッキー。
👻 ヨイ:脱線が凄い。でもさ、怒鳴って暴れて「友達になろう」って言う。目当ては子ども。母親は邪魔なだけ。グッドガイのガワを着て、子どもに近づこうとしてる。で、ここもリアルなんだけど、子供にも薄々気づかれてるの。やべーやつだって。チャッキーの暴力の根っこ、もしかしたらそこかもしれない。
🎤 トック:……なんか。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:急にチャッキー、哀れになってきたっす。
👻 ヨイ:(笑う)そうなるんだよね。最後はアンディからも嫌われて。でもそれでいいの。怖いだけのホラーは、一回しか怖くない。てかさ、チャッキーって「子どもが最初に遭遇する男の暴力」なのかもしれない。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:だから、あんなに嫌なリアルさあるんだと思う。
🎤 トック:深みが出てくる感じっすね。
👻 ヨイ:うん。チャッキーは悪役で、でも哀れで、だから余計に怖い。
👻 ヨイ:あとね、この映画の本当に怖いシーン言っていい?
🎤 トック:どれっすか。
👻 ヨイ:カレンがチャッキーの背中の電池入れのフタ開けるシーン。
🎤 トック:あー、入ってないって気付くやつ。
👻 ヨイ:そう。それまでチャッキーは「人形」として動いてた。カレンもずっと「人形」として扱ってた。で、電池が入ってない事実を知った瞬間にチャッキーの頭が回転して喋り出す。「ハーイ、ぼくチャッキー!遊ぼうよ!」
🎤 トック:あのシーン怖かったっす。
👻 ヨイ:あそこが怖いのは、「信じてたものが、急に別のものになる」瞬間を見せてるから。今日のテーマ、最初から仕込まれてるんだよね。
🎤 トック:あー。
👻 ヨイ:人形だと思ってたものが、別の何かだった。この感じ、3本目で一番イヤな形になる。
🎤 トック:3本目、楽しみっす。
👻 ヨイ:まあまだ2本目ある。
🎤 トック:そうだった。
👻 ヨイ:じゃあ次。
🎤 トック:なんか急に温度下がるっすね。
👻 ヨイ:下がるよ。次、殺人トマトだから。
🎤 トック:字面がもうB級なんすよ。
👻 ヨイ:でもね、B級ホラーって、たまにA級より人生の嫌な真実ついてくる。
🎤 トック:トマトに背負わせる話じゃない。
ジョーズじゃなくて、マタンゴだった

👻 ヨイ:じゃあ2本目。『アタック・オブ・ザ・キラートマト』、1978年。
🎤 トック:タイトルとジャケだけで笑うやつ。なんでトマトが叫んでんのか意味わかんないすわ。で、これ一言で言うと。
👻 ヨイ:トマトが人間を襲う。
🎤 トック:それだけでしたね。
👻 ヨイ:それだけ。
🎤 トック:……いや、待って。もうちょい何かあったような。
👻 ヨイ:ないよ。トマトが急に襲ってくる。以上。
🎤 トック:ヨイせん、聞いていいですか。
👻 ヨイ:どうぞ。
🎤 トック:これ、なんで作られたんすか。誰が「トマトが人を襲う映画作ろう」って言い出したんすか。
👻 ヨイ:これがね、面白いんだよ。
🎤 トック:どういうことっすか。
👻 ヨイ:脚本家の人がテレビで日本映画観てたの。
🎤 トック:日本映画っすか。
👻 ヨイ:『マタンゴ』。1963年。本多猪四郎監督。「キノコ人間に襲われる」映画。
🎤 トック:……キノコ人間。
👻 ヨイ:キノコ人間。
🎤 トック:……それはそれでどうなんすか。
👻 ヨイ:それはそれで名作なんだけど。で、脚本家のコスタ・ディロンが「人間がキノコに襲われるなんて、なんてバカバカしいんだ!」ってなったの。
🎤 トック:なりますよね。
👻 ヨイ:で、「キノコよりもっと無害そうで、もっとバカバカしいものはないか」って考えた。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:トマト。
🎤 トック:(吹き出す)思考の飛躍がすごい。
👻 ヨイ:そうでもないよ。キノコからトマト、野菜繋がりで地続きじゃん。
🎤 トック:地続きじゃないっすよ!
👻 ヨイ:日本のキノコ映画が、アメリカのトマト映画を生んだ。これ、映画史の隠れた日米交流。
🎤 トック:映画史って普通、『ジョーズがサメ映画を変えた』とかじゃないんすか。
👻 ヨイ:違う。トマト映画の始まりは、ジョーズじゃなくてマタンゴだった。
🎤 トック:映画史の教科書から怒られる発言きた。あと、ヨイせん。観てて気になったんすけど。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:途中でヘリコプターが墜落するシーンあったじゃないすか。
👻 ヨイ:あったね。
🎤 トック:低予算っぽいのにあそこだけ何かリアルで、やけにがんばってんなって。あれ、どうやって撮ったんすか。特撮っすか。
👻 ヨイ:ガチで落ちた。
🎤 トック:は?
👻 ヨイ:演出じゃなくて、本物の事故。撮影中にヘリが本当に墜落した。
🎤 トック:怪我人は?
👻 ヨイ:幸い出なかった。で、監督が「このヘリのレンタル代と修理代が、制作費で一番高かったから、そのままフィルムに使った」って言ってる。
🎤 トック:……。
(沈黙)
🎤 トック:……監督、なんか、強い。
👻 ヨイ:低予算映画って、「失敗したから終わり」じゃないの。「失敗したけど撮れてるから使う」がある。
🎤 トック:生き方がサバイバル番組なんすよ。メイキング映像じゃなくて、災害ドキュメンタリーじゃないすか。
👻 ヨイ:B級映画、たまに「映画」じゃなくて「生存」なんだよね。ガチの事故を「使える」と思う神経、普通じゃない。
🎤 トック:でも、それがこの映画の精神っすよね。なんでも使う。トマトも使う。事故も使う。
👻 ヨイ:そう。予算ないから逆手に取る。チープさを隠さないで、「意図的にひどい」に昇華する。それがB級映画の作り方。
🎤 トック:……あの、ヨイせん。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:これ、トマトに……銃も爆弾も効かなかったんすよね。でも、歌が効くんですよね。
👻 ヨイ:「Puberty Love」って、ジャイアンが歌ってるみたいなぶっちぎりに下手なラブソング。 スタジアムで大音量で流したら、トマトが縮んで動けなくなる。 みんなで踏みつぶす。人類の勝利。
🎤 トック:……ヨイせん、それ、もしかして。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:マクロスじゃないっすか。
👻 ヨイ:(止まる)……ん。
🎤 トック:この前観たんすよ。ラブソングで戦争終わらせるやつ。
👻 ヨイ:……あー誰もそれ言ってくれなかった。 マクロス、何年だっけ(スマホで検索)。……1982年。トマトは1978年。
🎤 トック:……4年早い!
👻 ヨイ:4年早い、じゃないよ。絶対関係ないから(笑)。
🎤 トック:いや、絶対トマトが、マクロスを先取りしてたんすよ。トマトが日本アニメ史を塗り替えるきっかけを作ったかもしれないじゃないっすか。
👻 ヨイ:マクロス作った人が怒るよ。マクロスは歌姫で戦争終わらせるの。トマトはジャイアンで野菜潰すの。同じ「歌で勝つ」でも振り幅がすごい。
🎤 トック:あと気づきました?1本目はマタンゴからトマト。日本→アメリカ。 2本目はトマトからマクロス。アメリカ→日本。……日米のキャッチボールが完成してますね、ジャンル超えて。
👻 ヨイ:気づきました?じゃない話聞きなよ。マクロス側は絶対受け取ってないからそのボール(笑)。でもこれがB級映画の笑えるとこでさ。 ふざけた発明が、4年後に違う国の誰かに本気で育てられるかもしれないロマン。 当時のトマトの製作陣、絶対そんなつもりなかったのに。
🎤 トック:本人たちは気づかないまま、種だけ蒔いてたんすね。トマトだけに。
👻 ヨイ:トマトだけに。
(少し間)
🎤 トック:……拾ってくれるんすね。
👻 ヨイ:優しさだよ。
🎤 トック:……あの、ヨイせん。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:一個、気になってることがあって。
👻 ヨイ:どうぞ。
🎤 トック:この映画で、トマトに殺された人の遺族って、どうするんすかね。
👻 ヨイ:……(少し止まる)
🎤 トック:いや、だって、葬式で「どうされたんですか」って聞かれるじゃないすか。「トマトに……トマトにやられました……」って言わないといけないじゃないすか。
👻 ヨイ:(吹き出す)
🎤 トック:泣きながら言えないっすよ、それ。
👻 ヨイ:(笑いながら)待って。
🎤 トック:「トマトに」って言った瞬間、絶対相手も変な顔するじゃないすか。でも本人たちは大真面目で。
👻 ヨイ:(笑いながら)やばいやばい。
🎤 トック:「主人がトマトに——」
👻 ヨイ:「——あ、はい」
🎤 トック:「いや笑わないでください、本当なんです。トマトに―—」しかも保険会社にも説明しなきゃいけないんすよ。
👻 ヨイ:(崩れる)
🎤 トック:「死因は?」「……トマトです」
👻 ヨイ:「トマト?」
🎤 トック:「はい。赤いやつです」
👻 ヨイ:(笑い崩れてる)
🎤 トック:「しかも保険会社、絶対プルダウンに「トマト」ないじゃないですか。」
👻 ヨイ:やめて(笑)
🎤 トック:「『その他』にされるんすよ。人生の最後が「その他」。」
👻 ヨイ:だめだ、もう無理(笑)
🎤 トック:でしょ。遺族の沈黙っていうか、遺族の説明のしんどさが、この映画の一番の恐怖かもしれないっす。
👻 ヨイ:(涙拭きながら)だめだ。わたし、今まで何回もこの映画観てきて、遺族目線で考えたことなかった。
🎤 トック:ヨイせんでも盲点あるんすね。
👻 ヨイ:ある。トックたまに凄いとこ突いてくる。
(二人とも笑い続けている)
👻 ヨイ:……でもね、それ言えない遺族たちが、たぶん画面の端にいっぱいいるんだよね。この映画。
🎤 トック:え。
👻 ヨイ:映画って、だいたい「主人公」しか見てないじゃん。でも現実って、主人公の後ろで困ってる人の方が多いんだよね。
🎤 トック:……それ、ホラーに限らずそうっすね。
👻 ヨイ:そうなの。B級バカ映画でそれを考えさせてくる。これがB級の怖いとこ。
🎤 トック:俺、キラートマトのこと、今ちょっと好きになりました。
👻 ヨイ:じゃあ3本目いこう。
🎤 トック:次、なんでしたっけ。
👻 ヨイ:乗っ取られた人間。
🎤 トック:急に温度戻りました。
👻 ヨイ:戻るよ。次は本気で怖いから。
人類はさやえんどうに救われる

👻 ヨイ:じゃあラスト。『SF/ボディ・スナッチャー』、1978年。監督、フィリップ・カウフマン。
🎤 トック:これ、実は中学生くらいの時に深夜テレビでチラッと観たくらいで、ちゃんと全部観たの今回初めてっす。
👻 ヨイ:最初どうだった。
🎤 トック:正直、最初はピンと来なかったっす。静かだし、派手なシーンないし、「え、いつ始まるんだ?」って感じで。
👻 ヨイ:うん、わかる。最初そうなるやつ。
🎤 トック:でも、後半で変わったんですよ。なんかずっとじわじわきてて、観終わった後に急にゾッとするタイプの怖さで。
👻 ヨイ:そうなの、これ。後からくる映画。今日3本の中で、一番ちゃんと怖いのこれ。
🎤 トック:温度、完全に戻りましたね。
👻 ヨイ:戻した。
🎤 トック:さっきまで「トマトで保険おりるのか」って話してたのに。
👻 ヨイ:ホラー映画って、急に本気出してくるからね。
🎤 トック:情緒ジェットコースターなんすよ、この部室。
👻 ヨイ:内容、簡単におさらいしよっか。
🎤 トック:お願いします。
👻 ヨイ:ある日、街の人たちが少しずつ「おかしく」なっていく。感情がない。表情が薄い。でも見た目はいつもの人。主人公の同僚が「恋人が別人みたい」って言い始める。でも他の人から見たら、恋人は恋人のまま。「気のせいじゃない?」って言われる。
🎤 トック:……あそこ、観てて嫌な感じしました。「恋人が別人」って泣いてる女の人の話、周りが誰も信じてくれないやつ。
👻 ヨイ:あのシーン、この映画の入口なんだよね。「信じてもらえない恐怖」を最初にじっくり見せてくる。
🎤 トック:結局、みんな何に乗っ取られてたんですか。莢から人が出てきて、ってのは観たんすけど、最後まで正体がよく分からなかったっす。
👻 ヨイ:正体は宇宙から来た植物。豆みたいな莢(さや)の中で、人のコピーが育つの。オリジナルが眠った瞬間に、コピーが完成して、オリジナルは消えて、コピーが起き上がる。見た目も記憶も同じ。でも感情がない。
🎤 トック:……それ、本人たち気づかないんですか。
👻 ヨイ:気づかないうちに眠らされる。だから登場人物たちは眠らないように頑張るんだけど。
🎤 トック:頑張れるもんですか、眠らないって。
👻 ヨイ:頑張れない。人間、睡眠には勝てないから。
🎤 トック:徹夜の3時くらいから急に「まあ寝てもいっか」になるやつ。
👻 ヨイ:なる。世界滅亡より睡魔が勝つ。あとね。この映画、「助けて」って言っても、誰も助けてくれないところ、あるじゃん。
🎤 トック:警察も、医者も、みんなコピー側になってましたね。
👻 ヨイ:「警察に行けばいい」「病院に行けばいい」っていう、わたしたちが当たり前に持ってる安全網が、ぜんぶ敵になってる。
🎤 トック:詰んでる。
👻 ヨイ:詰んでる。この映画、最初から構造的に詰んでるの。あとね、この映画、指さしがあるんだよ。
🎤 トック:指さし。
👻 ヨイ:コピーになった人たちが、まだコピーになってない人を見つけると、こう、腕をまっすぐ伸ばして、指で差すの。で、口を開けて、高い声で、「キィィィィ」って叫ぶ。
🎤 トック:……あ、あれっすか。一回観た時びっくりしたやつ。
👻 ヨイ:それそれ。「こいつ、まだ人間だぞ」っていう合図。周りのコピーたちに知らせてるの。
🎤 トック:あれ、初見で来ると怖いっす。
👻 ヨイ:ねえトック。
🎤 トック:はい。
👻 ヨイ:その指さし、今の言葉で言い換えると、何だと思う。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:「このアカウント、まだリアルな人間だぞ」って、みんなで指さしてリプ攻撃する。
🎤 トック:……あ。
👻 ヨイ:「空気読めないやつ発見」「こいつ、まだ感情持ってるぞ」って、集団で包囲する。
🎤 トック:あー、「まだ本気で怒ってる人いる」って浮く感じ。
👻 ヨイ:そう。「まだ傷ついてるの?」って言われ始めたら、もうコピー側なの。
🎤 トック:SNSの炎上じゃないっすか、それ。
👻 ヨイ:そう。1978年の映画が、この形を発明してた。
🎤 トック:……なんか、急に怖くなりました。映画の話じゃなくなってきた。
👻 ヨイ:ホラーの一番いいとこそこなの。映画の外側に出てくる。
🎤 トック:ヨイせん、もう一個聞いていいですか。
👻 ヨイ:どうぞ。
🎤 トック:コピーになった人たちって、なんであんなに感情ないんですか。
👻 ヨイ:そこが一番怖いとこ、この映画の。
🎤 トック:感情ないのが怖い?
👻 ヨイ:うん。チャッキーは怒るから分かりやすい。「こっちを殺そうとしてる」って一目で分かる。でもボディスナッチャーのコピーたちは、追いかけてはくるんだけど、怒らない。焦らない。騒がない。淡々と、こっちの息が切れるのを待ってる。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:感情がないから、感情の消耗戦にならないの。こっちはパニックになってるのに、向こうは全然平熱。あの温度差が、怖い。
🎤 トック:……ヨイせん、それ怖いっす。
👻 ヨイ:でしょ。怒ってる人より、怒ってない人の方が怖い時ある。あのね、もっと言うとね、コピーって、本物より本物らしかった可能性があるの。
🎤 トック:……どういうことっすか。
👻 ヨイ:コピーは感情がない。でも「感情がない」イコール「嘘をつかない」ということでもあって。怒らない、嫉妬しない、見栄を張らない、愛情のふりもしない。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:オリジナルの人間の方が、毎日「本物の自分」のふりをしながら生きてたかもしれない。コピーになった方が、初めて「ありのまま」になれた、って読めちゃうの。傷つけ合わないから「平和」だしね。
🎤 トック:でも、飲み会とか地獄じゃないっすか。
👻 ヨイ:なんで。
🎤 トック:「趣味とかないです」「そうですか」で2時間。
👻 ヨイ:(笑う)
🎤 トック:ついでに、LINEだけは異常に返信早そうっす。
👻 ヨイ:(笑う)
🎤 トック:「了解です」だけ3秒で返してくる。
👻 ヨイ:怖。
🎤 トック:でも感情ないから既読スルーでは傷つかないんすよね。というか……なんか、チャッキーの話と同じっすね。怖いだけじゃなくて、ちょっと哀れで。
👻 ヨイ:(うなずく)そう、それ。今日の3本、全部そこに繋がってる。
(ヨイせん、早口モードに突入)
👻 ヨイ:あとね。ラストシーン。わたしこのラスト、人生で観た映画のラスト10本に入るの。役所で働いてるマシュー。もうずっと、顔の筋肉を殺して、コピーたちに紛れて生きてる。そこに、外でナンシーが呼びかける声がする。ナンシー、ずっと「感情を出さない」フリで生き延びてきた子。マシューに近づきながらも、怖い。「この人、本当にマシュー?」って確信が持てない。でも、信じたい。マシューが振り向く。口を開ける。指を、まっすぐ、ナンシーに向けて、伸ばす。そして、叫ぶ。あの「キィィィィ」を。ナンシーの顔が絶望に変わる。映画が終わる。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:あのラスト、俺、初めて観た時、マジで30秒くらい動けなかったから。「え、今この人、コピー側じゃん」って気づいた瞬間の——
🎤 トック:ヨイせん。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:今「俺」って言いました。
👻 ヨイ:……言ってない。
🎤 トック:言いました。「俺、初めて観た時」って。
👻 ヨイ:聞き間違い。
🎤 トック:いや絶対言いました。録音しときゃよかった。
👻 ヨイ:(小さく笑う)……たまに出るのよ、テンション上がると。
🎤 トック:ヨイせんの中にも別人格いた。
👻 ヨイ:ボディ・スナッチャーみたいに言うな。
🎤 トック:面白いっす、それ。
👻 ヨイ:忘れて。
🎤 トック:忘れないっす。……でも、ヨイせんの話聞いてたら、もう一回観たくなりました。
👻 ヨイ:観て。もう一回観たら、たぶん全然違う映画に見える。
🎤 トック:2回目、どう変わるんすか。
👻 ヨイ:マシューの演技が、序盤から微妙にズレてる。最初から、どこかおかしい。
🎤 トック:え、そうなんすか。
👻 ヨイ:2回目で「いつコピーになったか」を追いながら観ると、全部のシーンの意味が変わる。ラストを知ってから観直す映画として、この映画、相当よくできてる。
🎤 トック:それ、2回目専用の怖さっすね。
👻 ヨイ:そう。あと、観た後、眠る前に、部屋を見回したくなるから。この部屋全部、本当にさっきまでと同じかなって。
🎤 トック:そんな後遺症あるんすか。
👻 ヨイ:ある。いい映画は後遺症がある。
(沈黙)
👻 ヨイ:でね、トック。最後にもう一個だけいい?さやえんどう側の話。
🎤 トック:さやえんどう側?
👻 ヨイ:さやえんどうのコピーたちって、人間を「殺す」んじゃなくて「救済する」っていう解釈、できるんだよね。
🎤 トック:……え?
👻 ヨイ:感情がなくなると、苦しくない。怒らない、泣かない、傷つかない。恐怖のないまま眠って、恐怖のないコピーとして目覚める。宇宙植物の立場で見ると、これは侵略じゃなくて「救済」なんだよ。
🎤 トック:……。
👻 ヨイ:人類への悪意がゼロだった可能性がある。善意で世界を乗っ取りに来てた。
🎤 トック:それ。
👻 ヨイ:ん。
🎤 トック:それ、一番怖いっす。
👻 ヨイ:(うなずく)悪意のある侵略より、善意の救済の方が怖い。逃げ場がない。だって相手、傷つけようとしてないんだから。
🎤 トック:さやえんどうに乗っ取られたくないのに、さやえんどうが「これでよかったんだよ」って言ってくる。
👻 ヨイ:それが、この映画の本当の怖さだと思う。
🎤 トック:……なんか今日、「さやえんどう」って単語、一生ちょっと怖いかもしれないっす。
👻 ヨイ:スーパーで見る目、変わるよ。
家族が家族のまま座ってるか

👻 ヨイ:で、トック。今日の3本、どれが一番好きだった?
🎤 トック:……えー、難しいっす。
👻 ヨイ:直感で。
🎤 トック:……じゃあボディスナッチャーっす。
👻 ヨイ:意外。わたし、トックはチャッキーって言うと思った。
🎤 トック:迷ったんすけど。でもボディスナッチャーの、「善意で世界が終わる」感じが、なんか、今も引きずってて。
👻 ヨイ:後遺症きてるね。
🎤 トック:きてます。ヨイせんは?
👻 ヨイ:わたしはキラートマト。
🎤 トック:えっ。
👻 ヨイ:「一番好き」と「一番すごい」は別だから。すごいのはボディスナッチャー。好きなのはトマト。
🎤 トック:それ、ずるいっす。
👻 ヨイ:ずるくない。
ベーン、ベーン、ベン、ベン、ベン、ベン
🎤 トック:……ベース、まだ練習してます。
👻 ヨイ:3時間やってるね。
👻 ヨイ:で、読んでる人に聞きたいんだけどさ。
🎤 トック:何をっすか。
👻 ヨイ:「中身が入れ替わってる系ホラー」で、一番ゾッとしたやつ何?
🎤 トック:あ、聞くんすね読者に。
👻 ヨイ:聞く。絶対みんな1本ある。
🎤 トック:コメントで教えてほしいっす。
👻 ヨイ:教えて。部室の机に置いといてくれたら読む。
🎤 トック:アナログすぎる。
👻 ヨイ:ホラーは紙文化だから。
🎤 トック:初めて聞いた理論っす。ちなみに次回、何やる予定っすか。
👻 ヨイ:まだ決めてない。
🎤 トック:決めてないんすか。
👻 ヨイ:明日は明日の風が吹く。
🎤 トック:その理屈だと全部許される気がするっす。
👻 ヨイ:許されてるのよ。知らんけど。……そろそろ帰るか。
🎤 トック:あ、もうこんな時間っすね。……ヨイせん、俺、今日からさやえんどう食えないかもしれないっす。絶対スーパーで見る目変わる。
👻 ヨイ:向こうも見てるかもしれない。
🎤 トック:やめてください。
👻 ヨイ:でもそれ言ったらトマトも終わってるでしょ。
🎤 トック:トマトはもう遺族いるんで。
👻 ヨイ:(笑う)じゃ、今度、実家帰ったら気をつけて。
🎤 トック:なにをっすか。
👻 ヨイ:家族がー、家族のままー、座ってるかぁ?
🎤 トック:もう。やめてくださいヨイせん。
👻 ヨイ:(笑)冗談冗談。
🎤 トック:ほんと、夢に見るんすよ俺、すぐ。
ベーン、ベーン、ベン、ベン、ベン、ベン
👻 ヨイ:じゃ、また次回。
🎤 トック:次回、どっかの日曜っすね。
👻 ヨイ:そう。軽音がまだ新曲練習してたら、また「壁の向こうのベース」の続編やる。
🎤 トック:続編あるんすか。
👻 ヨイ:あるよ。タイトルは「壁の向こうのベース2」。
🎤 トック:内容どんな映画なんすか。
👻 ヨイ:前作から3年後。ベースがちょっと上手くなってる。
🎤 トック:一番怖い成長の仕方。
👻 ヨイ:さ、帰ろ。
なかのひとの一言

ヨイとトックのホラー部室、もといトックをホラーで分からせる会、いかがだったでしょうか。先生が真面目なので、ゆるーく喋れるような雰囲気の漫談がほしいかな、と思い始めた企画です。
ヨイのデザインは、当初これこれこういう人でこういう狙いでって敢えて容姿の詳細はこちらで決めずにClaudeに作らせてみました。ラジャー!これ行けますどうぞ!ってClaudeが吐き出した画像生成命令書で作成してみると、白いセーター(冬)や白いワンピ(夏)に身を包んだゆるふわサークルクラッシャーみたいな女子が現れたので、こんこんと説教しました。君はあれか、昨日今日女子と喋りだした童貞か?いいか、男に媚びるな、言うと、確かにあなたの言うとおりです!今度は違いますよ、任せてください、どうぞ!で生成したらゴス系トー横キッズが現れて、再び説教タイムです。君はあれか、パパ活女子と遊びたい中年オヤジか?
いや、Claudeが悪いのではなく、我々の社会がいけないのです。狂っているのは我々なのです……(真顔)。で、最終的に前髪ぱっつんになりました。なんでそうなったのか紆余曲折あってもう覚えてないです。
さて、みなさんの「中身が入れ替わってる系ホラー」何でも結構ですので、ぜひコメントで教えてください。
コメントで書いてもらえたら、次回の部室会で拾います。コメントいただけたらヨイとトックが喜びます。ハガキ読むみたいに次回冒頭で読んでもらいます。なかのひとも喜びます。
次は6月第2日曜日、6月14日に部室でお会いしましょう。それでは!
👉 ヨイ初登場回『悪魔のいけにえ』考察|汚い映画なのに、なぜ目を逸らせないのか——美しい地獄
ヨイとトックのホラー部室について
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この「ヨイとトックのホラー部室」は、AIと人間のハイブリッドで作られています。
漫談のアイデア、作品テーマ、構成設計はなかのひと(著者)が考え、AI(主にClaude)はテキスト生成の補助として活用しています。ただし、最終的な文章は必ずなかのひとが全文チェック・編集・リライトしており、「なかの人の一言」は完全に人間の手で書いています。ヨイとトックの掛け合いを通じて、映画の何でもない話をゆるーくお楽しみいただければ幸いです。

