Investigation 2: The Forgotten Farm
Story
その日、一行は鬱蒼とした森の中で見つかった牧場跡の調査に訪れていた。
「塔の方は、牛の餌を入れていたようです」
伴相の説明に、アデルは眉をひそめた。
「これに?」
「はい。この中にです」
アデルはレンガでできた塔の縁に手をかける。
崩さないよう注意しながら、内部を覗き込んだ。
「入れてどうするのよ?」
「資料によると、草を詰めこんで発酵させていたようです」
「発酵ねぇ……」
そう言うと、まるで匂いが残っていないか確かめるように、鼻を小さく鳴らした。
「もう匂いませんよ」
「わ、分かってるわよ!」
するどく響いた声に、調査隊員たちは思わず顔を上げた。
言葉は分からない。
だが、その耳がわずかに赤くなっていたことについては、今晩の酒のつまみになるだろう。

Lore
Silage Silo (サイレージサイロ)
サイレージサイロは、家畜用飼料を長期間保存するために用いられた農業施設である。
特に牧場に設置される円筒形のタワー型サイロは、刈り取った牧草を内部に充填し、発酵させながら保存するための設備として広く利用された。発酵によって栄養価の高い飼料(サイレージ)を安定して確保できることから、冬季や干ばつ期における家畜飼育を支える重要なインフラであった。
今回発見された施設は、飼料保管用の二連式サイロと平屋の管理棟から構成されている。
建設年代は不明である。しかしレンガ造りであること、人類文明末期には金属製サイロが主流であったことから、本施設は旧文明末期よりさらに以前の時代に建設された牧場施設である可能性が高い。
巨人が所管するデータベースには、人類社会が歴史的建造物や産業遺産を文化財として保存する傾向を有していたことが記録されている。本施設と同種の農業施設についても保護対象として扱われた事例が存在した可能性が高く、本施設についても重要文化財として保護されていたとの伝聞記録が残されている。
人類後退後は管理が行われなくなり、長期間にわたって樹木やツタ類の侵入を受けた。現在では周辺森林の一部として機能しており、建造物と自然環境との境界は徐々に失われつつある。調査時点ではサイロ内部にも樹木の根系が深く侵入しており、農業施設としての役割はすでに失われている。
牧場施設としての再利用価値は極めて低い。
一方で、本施設は人類の農業技術の発展過程、および文明停止後に人工構造物が自然へ取り込まれていく過程を観測する上で重要な事例である可能性が高い。建造物としての寿命は終えているものの、生態系の一部としては現在も機能を継続していると考えられる。
そのため本施設は、調査担当官アデルの報告を受け、農業史および植生環境の遷移を研究する観点から保存候補に指定された。
Notes from a Reporter
今回の調査地を訪れるまで、私は水不足というものを単純な問題だと思っていた。
水が減るから困る。
それだけの話だと。
しかし、以前読んだ記事では干上がった湖を見た。
今は、かつて牧場だった場所が森になった場所を見ている。
考えてみれば不思議な話である。
湖から消えた水は、どこへ行ったのだろうか。
雨として降り、川を流れ、湖となり、そしてまたどこか別の場所へ移動したはずである。
旧人類が破壊したのは水そのものではなく、水が存在できる場所だったのかもしれない。
湖底に取り残された漁船。
森に飲み込まれた牧場。
一見すると無関係な二つの光景だが、その背後には同じ変化が存在している可能性がある。
私としては、難しい話よりも、サイロの匂いを確かめようとしていたアデル調査官の方が印象に残っているのだが。
— Magnus Rein, Special Correspondent, The Titan Journal
English summary
Where did the water go?
Deep within the forest, investigators discovered the remains of a forgotten farm.
While a dry lake was surveyed in a previous report, this site tells a different story.
Water does not always disappear. Sometimes, it simply finds a new place to stay.
The old silos now serve not farmers, but the forest itself.
This is a report from that world.
