見出し画像

City Voices 2: The Cleaner

Story

毎朝、中央区画の清掃を担当している老人がいる。
今年で七十八歳になるそうだ。

若い頃に比べれば足腰も弱り、足を引きずるようになった。歩く速度もずいぶん遅くなってしまったと本人は笑う。
特段、健康に問題は無いという。

「餓えなくなったのも巨人様のおかげってね」
話を聞いている間も彼の手は止まらず、道路を掃き続ける。

ただ、夏の前になると別の問題が持ち上がるらしい。
「花粉ですよ。」
そう言いながらまぶたをぎゅっと閉じ、目元を布で拭う。

周囲の森に咲く花が開花し始めるこの季節は、毎年涙が止まらなくなるという。

「気休めですが。」
私は携帯していたお茶を少し分けた。

茶に含まれるカテキンは、症状を和らげる可能性があるらしい。

男性は一息で飲み干すと、礼を言って仕事へ戻っていった。

その後数年、彼は変わらず箒を持ち、通りの清掃を続けていたようだ。

この世界では仕事の種類はそれほど多くない。
しかし、みんな何かしら働いている。
誰もが自分にできることを探している。


Lore

森林拡大率は地域差があるものの、各管理区で増加傾向にある。

管理局は主要街道、居住区周辺、歴史的価値を持つ遺構について定期的な植生管理を実施している。

植生管理区域では伐採等により樹木の侵入が抑制される一方、草本植物の定着が促進されている。

これに伴い、開花植物の分布範囲も拡大している。

各地から寄せられた報告では、花を目的とした散策や植栽活動への参加者が増加している。

一方で、花粉症などのアレルギー症状を訴える住民も増加している。

管理局によれば、主な症状は目のかゆみ、流涙、鼻炎であり、深刻な健康被害は確認されていない。

しかし、春から初夏にかけて当該症例の報告件数は増加傾向にある。

現在、症状の緩和を目的とした飲料、薬草、および生活環境に関する研究が継続されている。

Notes from a Reporter

いつも利用しているカフェ「水楽楼」で昼食をとっていたときのことだ。

同僚のソフィアが花粉症の話をしている。

食品や薬草の取材を担当している彼女は、花粉症などのアレルギーにも詳しい。

隣席の男性記者がその話を聞いて、うんざりしたように眉尻を下げた。

「もうそんな季節ですか。」

カテキンのアレルギー抑制効果がどうだの、発酵温度がどうだのと、話は次第に熱を帯びていく。

その様子を聞いていたとき、ふいに先日の出来事を思い出した。

「そういえば、ソフィア。花粉症でつらそうにしていたお爺さんに、お茶を飲ませてみたよ。」

取材中に携帯していた茶葉が役に立ったことを話す。

ソフィアは私の言葉に眉をひそめ、困ったような顔をした。

「……マグナス。薬じゃないのよ? 日常的に摂取して、初めて効果が期待できるの。」

私は目を閉じて、お茶をすすった。

―――――――――――――――

お茶の生産量は年々増えつつあるが、まだ少し高価だ。

我々の職場には常備されているものの、一般の家庭で気軽に手に入るものではない。

もしあのお爺さんを見かけたら、たまにはお茶をご馳走しようと思う。

その程度なら、きっと怒られないはずだ。


English Summary

In the Central District, an elderly man continues to clean the streets every morning.

At seventy-eight years old, he says his legs are not as strong as they once were, and he walks more slowly than before. Even so, he has not stopped working.

Recently, another problem has appeared.

As flowers bloom throughout the surrounding forests, seasonal allergies have become increasingly common. The man suffers from itchy eyes and constant tears during this time of year.

Although flowering plants have brought more color to the recovering landscape, reports of allergy symptoms have also increased across several management zones.

Researchers continue to study herbal remedies, beverages, and environmental measures that may help reduce symptoms.

Several years after our first conversation, the elderly cleaner could still be seen carrying his broom through the streets.

In this world, there are not many kinds of work.

Yet everyone seems to be searching for something they can contribute.

This is a report from that world.

いいなと思ったら応援しよう!