1歳児がみせたプライド
長女が生まれて、半年ほどたったころ。
海外で暮らしていた。
女性は子どもを預けて働くのが当たり前だった。
「ナーサリールームに預けてみれば?」
お試しで。
そう言われて、預けてみた。
夕方、迎えに行く。
抱き上げた感覚が違う。
別の子を受け取ったような気がした。
無反応。
無表情。
目が死んでいる。
これは、ダメだ。
ダメ。
やっぱり、今は預けて働くのはダメだ。
だって、きっと、こうやって、全力で拒否しているんだもの。
「もう少ししたら、ベビーシッターにも慣れて、笑顔になりますよ」
そういうことだったのかもしれない。
でも、わたしは即決した。
今は、預けない。
そして日本に帰国した。

次女を帝王切開で産み、2週間入院して、家に帰ってきた。
その間、パパが休んで長女を見ていてくれた。
病院に一度だけ、お見舞いに来てくれた。
パパの腕に抱かれた長女は、わたしのほうを見ようとしなかった。
同じだった。
抱っこしようとかけよると、スルリと腕をすり抜けていく。
4人で写真を撮ろう。
「あっちだよ。向いて」
指をさしても、
たぶん、わざと。
そっぽを向く。
そして、ある日の夕方。
寝ている次女のほうへ、長女がほふく前進で、静かに進んでいった。

わたしは、黙って見ていた。
たぶん、このときが初めてだった。
自分から、妹を確認しにいった瞬間。
顔を覗き込む。
そして、
おでこにキスをした。
やっぱりね。
かわいいね。
姉妹って。
赤ちゃんが赤ちゃんにキスする瞬間を見て、わたしは感動していた。
さあ、夕飯の支度に戻ろう。
そう思って、キッチンのほうへ行こうとした瞬間。
キッ!
ひっかいた。
顔を。
長女が、寝ている次女の顔をひっかいた。
わたしは、笑ってしまった。
感情むき出し。
そうね。
お姉ちゃんのプライドを保つには、あまりにも早すぎるよね。
1歳半でもう、
お姉ちゃんにさせられちゃったんだものね。
にっくき妹。
それでいいよ。
その調子。
「おイタしたらダメだよ」なんて、言えない。
幸い、爪を切っていたので、妹のおでこに傷はなかった。
次女は、スヤスヤ寝ている。
とにかく、寝続ける赤ちゃんだった。
お姉ちゃんとして妹を守るんだ。
そう思って、プライドが生まれるのは、いつなんだろう。
どの瞬間なんだろう。
そんなことを思いながら、
わたしはキッチンに戻った。
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