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【掌編小説】熱帯夜 シロクマ文芸部
熱帯夜の午前二時。エアコンのぬるい風、何度寝返りを打っても収まらない暑さ。
ふと、十数年前の夏の日の記憶が蘇る。
放課後、汗をぬぐいながら、慎吾が言った言葉。
「熱帯夜になると出るんだって…」
「えーっ、出るの?」と僕は驚いた。
当時は幽霊か妖怪の話かと思って身構えたが、慎吾は「熱帯夜だけに現れて、胸のばかばかしいほどの熱を冷ましてくれる店があるらしい」とニヤリと笑っていた。
今年一番の熱帯夜。眠れず、僕はふと、あの日の慎吾の言葉を確かめるように、サンダルを突っかけて真夜中の街へ出た。
仕事や人間関係。大人になるにつれて、知らず知らず胸の奥に溜め込んでいた「冷めない熱」が重い。
アスファルトの熱気が残る住宅街を歩いていくと、小さな公園に見たことのない屋台の明かりを見つけた。
暗がりの中に揺れる風鈴の涼やかな音とシャリ、シャリという氷を削る心地よい音。
「いらっしゃい」
静かな雰囲気のおじいさんが、静かに声をかけてくる。
お品書きには「夕立のあとの風」「帰り道の氷菓」「言えずじまいの本音」などの文字が並んでいた。
僕は少し迷って、「言えずじまいの本音」をひとつ注文した。
差し出されたガラスの器から、薄い氷を口に含むと、喉から胸へすーっと涼しさが広がり、じわりと胸の奥の重荷が溶けていくのがわかった。
気づくと、自分の部屋で目覚めていた。
枕元の窓からは、心地よい朝の風が吹き抜けている。
昨夜の出来事が夢か現実かはわからない。
けれど、ずっと胸につかえていた熱は、すっかり綺麗に取れていた。
「久しぶりに、慎吾にLINEでもしてみようか」
僕はスマホを手に取り、軽やかな気持ちでベッドから起き上がった。
※小牧部長、どうぞよろしくお願いします。
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